第3話 竜王の神殿

 鋭利な岩肌に万年雪が覆いかぶさり、およそ地上の生き物が到達することのできない神域、カゼルタ山。

 そんな神域にルフィナは難なく舞い降り立った。


 「平坦な場所は少ないから滑落しないように気を付けてね!」


 「なんで、こんな場所に寄りたかったんですか?」


 「ここには竜王の神殿があるんだよ!」

 「あ!これ秘密ね!」


 「いやいや、そんな大事なことを簡単に漏らして良いんですか?」

 「だいいち、竜王って帝国の守護者にして7大魔王最強の帝王でしょ?」

 「この世界、最強の竜王ですよ?」

 「こんなところ、もし竜王に見つかりでもしたら秒殺ですよ秒殺!」


 「まあまあ、細かいこと言いなさんな」

 「良いんだよ!」

 「だって私は竜王の片腕なんだから!」


 僕は、開いた口が塞がらず言葉を失っていると、ルフィナは構わず人間の姿に変身すると、何やら辺りを探し始めた。


 「あった、あった」


 ルフィナが雪の付いていない岩肌に手を翳すと魔法陣が浮かび上がり、ゲートが開いた。


 「さ!行くわよ、私に付いておいで!」

 「いい物、見せてあげるから」


 入口から地下に降りる階段が続く、2人は小規模なダンジョンを進み、巨大な扉が待ち受ける広間へと入った。


 「この扉の先には竜王の間があるの、それじゃあ開けるわよ!」


 「ちょっと待って!もし竜王がいたら?大丈夫なんでか?」


 「大丈夫!大丈夫!」

 「今は竜王、居ないから」

 「私は、ある物を取って来るように指示されて、ここにやって来たんだよ」


 「お腹を減らしてまで?」


 「まあね!」


 ギィィィィィィィ……。


 巨大な扉が開き竜王の間が現れた。

 そこは、なんと例えたら良いだろうか?

 東京ドーム半個分の広さ?

 一面に黄金の金銀財宝が所狭しと敷き詰められている。

 そもそも地球の金はオリンピック公式競技用プールの約1杯分に相当するといわれるけど、それどころじゃない!

 数百倍の黄金が山積みになっている。

 

 「驚いたでしょ?黄金、秘宝が眠っているのよ!」

 「はぁ~チルいわぁ~……」

 「やっぱ黄金って最高よね!癒しよねぇ!」


 え?ドラゴンにとって癒しなの?


 彼女はまるで黄金のプールに飛び込む様に金貨の中に飛び込み、平泳ぎをしてみせた。


 「こんなに財宝があるんなら、羊の賠償なんて簡単なんじゃ?」


 「馬鹿ね!」

 「これは竜王の物であって、私の物じゃないの、勝手に使えるわけ無いでしょ!」

 「君、金貨1枚でも取ったら殺っちゃうわよ!」




 ルフィナは竜王の間で何やら用事を済ますと直ぐに神殿から退出し、山頂の狭い岩肌に再び戻った。


 「凄い財宝でしたね!あんな財宝を僕に見せて問題ないんですか?」

 「誰かに狙われかねないですよ?」


 「ははんwww」

 「人間ごときが到達できる場所じゃないのよ?」

 「わかってる?」


 「ドワーフとかは?」


 「来られるわけ無いでしょ!」

 「エルフだろうが、空を飛べる魔族だろうが、竜王の神殿を襲おうなんて馬鹿は居ないわよ」

 「万が一、カゼルタ山の山頂に到達できても竜王の結界を破ることなんて不可能だし」

 「それはさておき、ここでお茶しない?」


 「え?」

 「ここで?」

 「燃やせる物も無いし、お茶も無いですよ?」


 「それは大丈夫!お茶葉は持ってるのよ」

 「コップも1つだけど持ってるし」

 「それに火も」


 ルフィナは鉄のコップに万年雪を詰め込み、ドラゴンの姿に変身すると口から炎を出した。

 リコリスとラベンダー、ハイビスカスの入ったハーブティーをルフィナは口に含む。


 「はぁ~生き返るわぁねえ!」

 「君も、飲んでごらんよ?」

 「美味しいわよ」


 彼女はコップを僕に差し出した。


 「体が冷え切ってるから、暖かい飲み物は助かります!」


 僕は美味しくハーブティーを楽しんだ。

 神秘的な山脈の尾根を眺めながら暖かいハーブティーを飲めるなんて、なんて贅沢なんだろう。


 「はぁ~」


 その姿を見てルフィナは嬉しそうだ……。


 「ムフフwww」

 「間接キスだね、君!」


 「はぁ?」

 「決してそんなつもりじゃ!」


 「わかってた癖にwww」


 「気がついてませんでしたって!」

 「マジ!マジ!」


 僕は動揺して彼女と距離を置こうと立ち上がった瞬間、バランスを崩した。


 「危ないわよ!」


 ルフィナが手を差し伸べたが、時すでに遅し……。

 僕は足を滑らせ急斜面の雪面を滑落してしまった。

 滑落の勢いが、いつしか雪崩を起こし、僕は雪崩に飲み込まれてしまった。




 雪中で意識は戻ったが、全身が雪に覆われ指先1つ動かせない。

 息もできない……。



 ところが瞬く間にルフィナは、僕を掘り起こしてくれた。


 「ありがとう!死ぬとこだった」

 「ハァハァ……」

 「しかし、なんで僕の埋もれていた場所が分かったんですか?」

 「早過ぎやしないですか」


 「君の思念が飛んで来たのよ、ここに居るって」

 「君は、いったい何者?」

 「なんかスキルでも持ってるの?」


 「特筆すべきスキルなんて無いですけど、強いて言えば……低級テイマー?」


 「なるほど、それで場所が分かったのか」


 「もしかして竜姫ってテイマーとの契約とか可能なんですか?」


 「はぁ?」

 「人間ごときがドラゴンと契約なんて結べるわけ無いでしょ!」

 「1億年早いわ!」

 「最上級テイマーだろうが大魔法使いだろうが、ドラゴンを従わすなんて不可能よ!」


 「デスヨネー……」


 「馬鹿なこと言ってないで、そろそろ帰るわよ!」

 

 2人はカゼルタ山から飛び立ち高度を下げると、高原にふわりと着陸した。

 そしてドラゴンの背中から僕を下すとルフィナは、再び美しい女性の姿に変わった。


 「今日、竜姫と飛んだことは誰にも言っちゃダメだよ」

 「大ごとになるからね」


 「勿論わかってますよ、こんなこと村で喋ったら大炎上ですからね」


 彼女は再びドラゴンに戻ると離陸態勢に入った。


 「それじゃ私は、もう行くね」


 「ありがとう!ルフィナさん」


 「決めました!」

 「俺、竜騎兵になってみせます」

 

 ドラゴンの姿のルフィナは楽しく微笑んだ。


 「ぷぷっ、俺だってwww」

 「その時は、また一緒に飛ぼうね!少年!」


 「はい!竜騎兵になったら再び一緒に飛びましょう!」


 彼女は、飛び上がると僕の頭上を一周してから、瞬くまに西の彼方に飛んでいってしまった。



 転生してから、今まで惰性で生きてきた。

 いや前世でもそうか……。

 どうせ二度目の人生だ、どこで終わろうとも悔いはない。

 この異世界で、より高くより遠くへ飛べるとこまで飛び続けてみよう……。


 「とりあえず!」


 今日は……彼方此方に散らばった羊を集めて……。

 明日から本気出す!




 ルフィナは上昇気流に乗りながら、先ほど別れた少年の事を考えていた。


 本人には詳しく言わなかったけど……。

 雪に埋もれた少年を、直ぐに見つけられたのは彼がテイマーだったからだ。

 竜騎兵や竜騎士でテイマースキルを持つ者は、これまで存在しなかった。

 ドラゴンは、人間ごときに従属されない。

 でも、もし友情を通わせることが出来たら、彼は最強テイマーになるだろう。

 なにしろ、危険が迫ったときにテイマースキルを使って、最強種族である竜姫を呼び寄せることが出来るのだから。


 「私は、とんでもない人間を竜騎士への道に誘い込んでしまったのかも……」

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