第12話
統合失調症妻の事件簿 第十二話 〜親との同居を検討するも、結局避ける〜
玲奈と僕は、穏やかな日々を過ごしていた。しかし、これまでに感じたことのない新たな問題が僕たちを突き動かしていた。最近、玲奈の母親が体調を崩し、しばらく一人暮らしが難しくなったという話を聞いたからだ。
「ねえ、あなた。お母さんが具合悪くて、しばらくこっちに来てもらおうかなって考えてるんだけど…」玲奈が少し躊躇いながら言った。
「うーん…。」僕は考え込んだ。玲奈の母親が家に来るのは初めてのことではないが、長期間の同居となると少し話は違ってくる。
「あなた、どう思う?」玲奈は少し不安そうな顔で僕を見つめた。
「そうだね、母さんが体調を崩したのは心配だけど…。でも、僕たちの生活が変わることになるから、その辺りは慎重に考えたい。」僕は正直な気持ちを伝えた。
玲奈は黙ってうつむいてしまった。彼女もその答えを予想していたのだろう。自分の母親を迎えるというのは、やはり覚悟が必要だ。
「そうだよね…。やっぱり、無理にお願いするのは良くないよね。」玲奈はやっと口を開いた。「でも、どうしてもお母さんが元気になるまでは、支えてあげたいって思うの。」
僕は玲奈の気持ちを理解していた。彼女は家族思いで、母親のことをとても大切にしている。しかし、僕たちの生活が変わることで、玲奈にとってもまた新たなストレスを感じることになるのではないかと心配だった。
「確かにお母さんのことは心配だけど、僕たちが無理をすると、玲奈自身が疲れてしまうのが心配だよ。」僕は少し心配そうに言った。
玲奈は深いため息をつき、少し悲しそうな顔をした。「うん、わかってる。でも、どうしても自分の親を助けてあげたい気持ちが強くて…。でも、もしあなたが不安に思うなら、やっぱりそれが一番だよね。」
その言葉に、僕は思わず彼女を抱きしめた。「玲奈、君が気にかけている気持ちはすごく大切だよ。でも、無理にやることはない。二人の生活が一番大切だから、お母さんにもそれを伝えよう。」
玲奈は僕の胸に顔をうずめて、小さくうなずいた。「うん…。やっぱり、もう少し考えた方がいいかもしれないね。」
決断の時
その夜、玲奈ともう一度話し合った結果、やはり同居を避けることに決めた。親のことを思う気持ちはもちろんあるが、僕たちの生活を守ることが、結局は玲奈にとっても最良だろうという結論に至った。
「お母さんにも、無理に来てほしくないって言おうか。」玲奈がしばらく考えた後、僕に提案した。
「うん、それが一番いいと思う。」僕は静かに答えた。
玲奈は、少し勇気を出して母親に電話をかけた。最初は少し戸惑いながらも、最終的にお母さんにも理解してもらうことができた。玲奈の母親も、玲奈と僕の生活を尊重してくれたのだ。
電話を切った後、玲奈は安心した顔を見せて、僕に向かってにっこりと微笑んだ。「お母さんには、少しでも元気を取り戻してもらえるように、別の方法でサポートすることにしたよ。」
「それでよかった。」僕は嬉しそうに言い、玲奈の肩を軽く抱いた。
静かな日常に戻る
その後、玲奈の母親は自宅で静養を続け、玲奈と僕はこれまで通り、穏やかな日々を過ごすことができた。何か大きな決断を避けたことは、確かにちょっとした心の引っかかりがあったが、同時にお互いの生活を守ることができたという安堵もあった。
「やっぱり、私たち二人で支え合っていくことが一番だね。」玲奈がしみじみとそう言った。
「そうだね、君と一緒にいるだけで、僕は十分幸せだよ。」僕は穏やかな笑顔を見せた。
玲奈もまた、優しく微笑み返してくれた。僕たちは今の生活がとても大切であることを感じていた。そして、どんな時でもお互いを支え合っていくという決意を新たにした。
不安がなくなったわけではないけれど、僕たちはこれからも一緒に歩んでいける。どんな小さな選択でも、二人の力で乗り越えられると信じているから。
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