第4話

「ねえ、僕のスマホ見なかった?」


土曜日の朝。いつものリビングで、僕はソファのクッションをひっくり返しながら玲奈に尋ねた。


「スマホ? 見てないけど…昨日の夜どこに置いたの?」


「確か、テーブルの上に置いたと思うんだけど。」


玲奈は少し考え込むと、目を輝かせて僕をじっと見つめた。


「あっ! これって、また何者かの仕業じゃない?」


「いやいや、ただどこかに置き忘れただけだよ。」


「そんなことないわ!だって、あなたはいつもテーブルの上に置くでしょ? 自分の習慣を裏切るようなことをする?」


「いや、たまにはあるかも…」


「それより、この謎を解明しようよ!」玲奈の声には、すでに探偵の気配が漂っていた。


玲奈はメモ帳を取り出し、「消えたスマホ事件」の仮説を書き始めた。


仮説1:幽霊がいたずらで隠した。

仮説2:猫がスマホを蹴飛ばしてどこかに落ちた。

仮説3:実はあなたが夢遊病でどこかに移動させた。

「僕が夢遊病って…いやいや、そんなのないよ。」


「分からないわよ! 無意識に動くことだってあるんだから。」


玲奈が真剣に話すと、なぜか僕もその気になってきて、「じゃあ、まずはリビングを探してみよう」と提案した。


リビングを探し回っていると、玲奈がソファの下から何かを取り出した。


「これ、何?」


彼女が手にしていたのは、小さな封筒。僕はそれを見て驚いた。


「え?それ…見覚えがないな。」


封筒には何も書かれていないが、どこか古めかしいデザインで、中からは紙の端が見えている。玲奈は目を輝かせて封筒を開けた。


「手紙だ!」


「手紙?」


玲奈は紙を取り出し、広げてみせた。そこには、美しい字でこう書かれていた。


『大切なものを守りたいなら、リビングの奥を探してみて』


僕たちは顔を見合わせた。


「これ、どういうことだろう?」


玲奈は完全に探偵モードに入っている。「何者かがメッセージを残していったのよ! これはただのスマホ事件じゃないわ。」


「いや、もしかしてただの偶然かも…」


「偶然なんてありえない!」玲奈は勢いよく立ち上がった。「リビングの奥を探してみよう!」


僕たちは「リビングの奥」というヒントを頼りに、部屋の隅々を探し始めた。家具の裏や棚の下など、普段は気にも留めない場所までチェックする。


「ここ!」玲奈が指差したのは、リビングの隅に置かれた観葉植物の後ろだ。そこには、古い木箱が置かれていた。


「なんだこれ…こんなのあったっけ?」


「これはきっと手紙の送り主が置いていったのよ!」玲奈は興奮した様子で木箱の蓋を開けた。


中には…


「…ただの古い写真と、鍵だね。」


玲奈は少しがっかりしたようだったが、すぐに写真を手に取って調べ始めた。


「これ、あなたのおじいちゃんじゃない?」


写真には僕の祖父と思われる若い男性が写っていた。そして鍵は、どこか古い家の鍵のようだ。


「でも、なんでこんなものがリビングの奥に?」


「これはきっとおじいちゃんが残した宝の地図よ!」


「いや、ただの思い出の品じゃない?」


玲奈は楽しそうに微笑み、「それなら次のミステリーが解けるまで預かっておこう」と言った。


その後、玲奈が木箱を持ち上げた瞬間、床に何かが滑り落ちた。


「これ!」


木箱の下に隠れていたのは、僕のスマホだった。


「なんだ、ここにあったのか。」


玲奈は少し寂しそうな顔をしながらも、「でも木箱と手紙が見つかったのは偶然じゃないよね!」と自分の推理を擁護した。


「そうだね。木箱のことは知らなかったし、ちょっと面白い発見だった。」


事件の余韻

その夜、僕たちは木箱の中身を整理しながら、祖父の思い出話に花を咲かせた。玲奈は興味津々で、「次の鍵の謎を解き明かそう」と意気込んでいる。


「もしかして、これがおじいちゃんからのメッセージだったりして。」


「そうだとしたら…次はどんな冒険になるかな?」


玲奈の笑顔を見ながら、僕はまた一つ、彼女との生活の楽しさを実感していた。

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