トランプの国
甘糖むい
第1話
昔々のお話です。
世界には「ハート」「クローバー」「スペード」「ダイヤ」という四つの国がありました。
それぞれの国は特有の力を持ち合わせていましたが、お互いに相手を認め合い人々は長い間平和に暮らしていました。
ハートの国の人々は、愛情と優しさに溢れていました。
クローバーの国の人々は、知識と学問に秀でていました。
スペードの国の人々は、武力と礼儀を誇っていました。
ダイヤの国の人々は、財宝と慈悲で知られていました。
平和な時代が続く中、人々は次第に自分本位になり始めました。お互いにどちらの国がより凄いのかを示そうとし始め、それはいつの間にか自分の国が世界を牛耳れないかと考えたのです。
争いの火種が生まれたのは、ダイヤの国でのことでした。
ダイヤの国には、世界ができてから途切れる事のなかった血筋を受け継ぎながら国を治めてきた優れた王がいました。彼は慎み深く、国の繁栄を第一に考え王として君臨していました。
ある日のことでした。
ダイヤの国の大臣が王座に向かって反旗を翻しました。
「我が王よ!どうか我々の国が、他の三国よりも豊かであることを示さねばなりません。どうか、血筋に伝わる伝説に語られる“国の財宝”のありかを教えてください」
大臣の問いに王は静かに首を振りました。
「ダイヤの国が豊かなことはそこに住む我々が一番よく知っている。それで何が悪いのか」
「それでは意味がないのです!ハートの国もクローバーの国もスペードの国も、ダイヤの国が一番だと認めません」
大臣の悲痛な訴えは王の言葉を真っ向から否定するものでした。
力を知るものが自分だけでは足りなくなっていたのです。
他人の上に立ち、自分の力を見せつけたいと言う野心に飲み込まれていました。
「大臣よ、貴方のいう『国の財宝』は守り受け継がれるもの。他者への力比べのためにおいそれと手をつけてはならない」
王は懇願する大臣の考えを知りながら答えました。
この国の教えを守る事が一番だと言えば大臣は納得するしかありませんでした。
しかし、このやりとりを耳にした従者たちは違いました。
「国に財宝が眠っている」という噂が国の城内で咲き始め、噂は次第に歪み、やがてこう囁かれるようになりました。
「王は財宝を独り占めしているのだ」と。
怒りに燃えた民たちは、口々に王を被弾しついには王を追放しました。
――王冠を置き、国を去る事になった王はひとり国を振り返ります。
誰も気づかなかったのです。
この王こそ、ダイヤの国を創り上げ、世界の均衡を保ってきた世界の天秤であったことを。
王が消え、ひと月が経ちました。
民たちは噂の財宝を探し出し、争いながらもようやく見つけ出しました。
その宝は、世界に輝きを与えるための“神の力”そのものでした。人々はその力を奪い合い、贅沢に使い果たし、自らを美しい宝石で飾り立てました。
しかし、ダイヤの国の民の鼻は高くなるばかりで、他国を見下し始めます。
「ハートの愛情?目に見えないものなど役に立たない」
「クローバーの知識?我々の美しさには及ばぬ」
「スペードの武力?奪えるものなら奪ってみるがいい」
この言葉に怒りを覚えた三国は、それぞれの力を駆使してダイヤの国に攻め込みました。かつての豊かなダイヤの国は戦火に飲み込まれ、そして四国全てが醜い争いに巻き込まれていったのです。
四国の争いは終わりませんでした。
ハートの国では愛情が憎悪に変わり、クローバーの知識は焼き払われ、スペードの武力は錆びつき、ダイヤの国の資源は枯渇していきました。それでも争いをやめる者はいませんでした。
やがて人々は何のために自分たちが争い合っているのかわからなくなりましたが争いをやめる事はありませんでした。
争いをやめようというものも、誰一人としていませんでした。
トランプの国 甘糖むい @miu_mui
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