冷徹風紀委員長も陽キャ女子も、明らかに俺のことが好きな件について。
赤木良喜冬
第一作戦
第1話 俺はお前を絶対に許さない
俺の学校には、とんでもなく厳しい風紀委員長がいる。
現に今、そいつは目の前にいた。
「同じクラスの
ビシッと俺を指さしてくる彼女、
周囲の生徒達が俺をチラ見して通っていく。俺はぼっちだ。だからみんな俺になんて興味はないはず。別に視線なんて気になら……ないわけがない。人間、そう簡単に割り切ることはできない。
「この髪、生まれつきなんだけど……」
事実である。そして、俺はこの茶髪を気に入っている。陰キャが何言ってんだって話だけど、本当に好きなんだ、この色が。
なら仕方ないわね――そう言われると思っていたのだが。
「嘘ね。天然じゃそこまで茶色くならないわ」
「いや、マジで生まれつきなんだけど」
「その証拠は?」
美人が眉間に皺を寄せるもんじゃない。怖いから。
「証拠って言われてもね……あ、明日小さい頃の写真とか持ってくればいい?」
「それはダメよ。あなた、AI加工した偽造写真を持ってくるつもりでしょう?」
「……しないよ、そんなこと」
「だったら染めて来なさい」
「嫌だ」
俺はあんたのその綺麗な黒髪と違って、レアな髪色なんだよ。個性を潰さないでくれ。それにしてもいい黒髪だ。手入れされた人形のように、一切絡まりが見当たらない。
「……ちょっと、話聞いてる?」
「あ、うん」
まずい。つい髪に目がいってしまい、そのまま視線を正面の爆乳へと移動させてしまっていた。夏服のボタンは今にもはち切れそうだ。
「とにかく、俺はこの髪を染めたくない。だって染める必要がないから」
「あなた、私に逆らうつもり?」
「だったら?」
「生徒指導室へ連れていくわ。ちょっと来なさい」
そう言って彼女が俺の腕を力強く掴んだその時だった。
「
さっきまで風間の隣で挨拶運動をしていた女子だ。コイツは同じ風紀委員でも激甘で、多くの生徒は彼女の前を通って学校に入るようにしている。現に俺も昨日までそうしていた。
しかし、今日は運悪く風間と目が合い、呼び止められてしまったのだ。ついてなかったなぁ。
「チッ……そうだったの。いいわ、行きなさい」
今、舌打ちした!? 明らかに苛立ってるけど、本来君は俺に謝るべきじゃない?
「風紀委員長なんだから、書類の存在知ってるよね? なんでそれに一度も触れなかったの?」
「うるさい。早く教室行かないと遅刻するわよ」
「は? まだそんな時間じゃ……えっ!?」
朝のHR開始5分前だった。俺、こいつに20分近く時間奪われてたのか……さすがに腹が立つ。
「私はまだ、遅刻してくる生徒達を指導しなきゃいけないから。あなたはさっさと行きなさい」
書類の件は完全無視。なんの悪びれる様子もなく、むしろ超上から目線で命令してくる風間美紀。だが、風紀委員は委員会活動ということでHRへの多少の遅れは許されているため、反論ができない。
そんなことより本当に、このままだと俺が遅刻してしまう。
「……はいはい、わかりましたよ」
俺が渋々頷き、風間の横を通り過ぎようとしたその時だった。
――風間が僅かに笑みを漏らした。それも片側だけ口角を上げた、小馬鹿にするような笑み。
さすがに我慢ならなくなった。
ぶん殴りたい。本当にイライラする。もうすでに頭の中ではボコボコにしてる映像が流れている。
でも、陰キャな俺にはそんなこと実際にする勇気なんて無いから、ただ拳を強く握りしめたまま、中庭の砂を蹴りつつ校舎へ向かう。
自分でも小さいことに怒ってるって自覚はあるけれど、それでもあの態度は許せなかった。そんな心の狭さがまた自分の小物さを証明してて、さらに苛立ってくる。
俺は四年前のとある日から「しなきゃいけないことなんてない」というのを信条にして、でしゃばらずにのんびりと生きているけど、アイツへの復讐だけはしなくちゃいけない。なぜか無性にそう思えた。
昇降口には、付近の教室の喧騒が響いてきていた。そのくらいに、昇降口自体は静まりかえっていた。遅刻組を除けば、俺がラストか。
どうせ誰もいないならと、思わず思考が口に出てしまう。
「ちっくしょう……」
下駄箱の前へやってきた。
「あの爆乳風紀委員長……」
乱暴に扉を開ける。
「お前が一番、学校の風紀を乱しているんじゃないの!? ……あ」
今、一筋の光が見えた気がした。
身体の内側から悪巧みをする時特有の、異常なワクワクが込み上げてくる。
取り出した上履きを、これや!と心で叫びながら床に投げつけた。
パシンッといい音がした。
***
送信っと……!
やってしまった、本当にやってしまった。身体中が変な汗で濡れる。たかが一通のメッセージを送信しただけなのに、心臓はバクバク、指はずっと震えている。
クラスラインに送信したこの一文から、目が離せない。
『風紀委員長の風紀を乱したい!!』
誰か協力者が欲しかった。他にも
なぜクラスラインにしたかと言えば、このグループが定期的に動いているのを知っていたからだ。あとは、実際に誰かに面と向かって話しかけるのが怖かったという理由がほんの少しだけ含まれている。ほんの少し。
まだ既読はついていない。なぜなら今、H R中だからである。筆箱の中にスマホをまるっと隠し、筆箱の中身を確認しているそぶりで誤魔化している。
風間は戻って来ていない。当然、彼女もグループに入っているのでこのメッセージはいずれ見られることになるのだが、喧嘩を売りたい気分なのでそれは全く構わなかった。
そのためか、俺の注意は優先順位的に彼ら彼女らの方へ向いている。
一軍の連中だ。
もうすぐ、あのキラキラした別世界の人達にこのメッセージを見られるのか……。
いやいや、何を言ってる。それだけじゃないだろう。
前の席の男子にも、隣に座ってる女子にも後ろの席の彼にだって……気づけば頭の中は、羞恥と恐怖で埋め尽くされてしまっていた。
「…………よし」
俺は決断をした。
削除っと……!
一瞬で自分に負けてしまった。
でも、よく考えたら身の程知らずの行動であった。少し調子に乗ってしまったんだ。勢いにやられてしまっただけ。こうやって適当な理由を付けて、過ちから目を逸らしていくスタイルである。
……それにしても、これ不自然だよなぁ。
『
まぁなんか聞かれたら、委員会からの連絡をするつもりだったけど、打ち間違えちゃったんだ、とか言って紛らわそう。
一安心だ。止まっていた全身の血液が再び流れ出すような感覚がする。
なんとなく後ろの方からやけに視線を感じるが、きっと気のせいに違いない。
***
一限が終わると同時に、クラスに喧騒が戻る。あー疲れたーなんて言う相手もいないから心の中で言っていると、トントン、と背後から肩を叩かれた。
ついビクッと肩を揺らしてしまう。
うわっ恥ずかしい……、ってか誰だろ俺なんかに用があるの。
なんか落とし物でも拾ってくれたのかな何も落とした覚えないけど……え。
口が「え」の字に開いて固まった。
そこにいたのは、俺とは別世界の人物。おそらく一言も話す機会なんて来ないだろうと思っていた存在。
フローラルの香りがしてきてたから薄々女子だろうとは思っていたけど、まさかこの人だったとは。
ウェーブのかかった長い金髪に、涙袋を強調させつつも全体的に主張はしすぎない清楚系ギャルメイク。
一軍女子のリーダー、
「な、何……?」
声が震えてしまう。情けないけど、こればっかりは仕方がないと言わざるを得ない。
「ねぇねぇ、ちょっと来てくんない?」
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