エロゲ世界に転生したら、悪徳貴族に真っ先に殺されるヒロインの弟だった
果 一
第1話 バッドエンドな世界に転生しました
『THANK YOU FOR PRAYNG』
その文字と共に、スタッフロールが流れる。
ゲームが終わって、感動を噛みしめる瞬間。俺の脳裏には、数々の名場面がフラッシュバックして、思わず涙が――
「こんのクソゲーがぁああああああああッ!」
――出ることもなく、コントローラーを思いっきり投げ捨てていた。
「くっそ……噂に違わぬゴミっぷりだなおい」
肩で息をしながら、俺は大きなため息をつくと、近くに置いておいたコーラを飲み干す。
ずっとそこに置いておいたから、既に温くなっていて、表面は結露した水滴で濡れていた。
『ナイトメア学園』
それが、この作品のタイトルである。
平民出身のチート主人公が、ナイトメア学園に入学して、様々なヒロインと関わるストーリーだ。
ここまで聞けばありきたりなエロゲといった感じだが、ここから先が問題である。
主人公が関わったヒロイン、九割死ぬのだ。それはもう、悉く、いっそ清々しいくらいに。悪徳領主にレ◯プされて死ぬヒロインもいれば、死ぬ呪いにかけられて命を落とすヒロインもいる。そしてもちろん、ビターエンドとすら言えない救いのないエンディング。
まさに、
『はぁ? エロゲにこんな胸くそ展開求めてねぇんだよ』
『何度も立ち上がる主人公性とかw ヒロインを見殺しにして翌日には立ち直ってる主人公にイライラしたわ』
『シナリオがクソ。これに尽きる』
『俺のフィリスたんを返せ! でなけりゃ返金しろ!』
奇しくも、このゲームメーカーはヒット作を連発していただけあり、このクソゲーは黒歴史として長らく語られることとなるのだ。
「はぁ~……完走するまでよく耐えた、俺」
俺は、自分を労うように呟く。
ぶっちゃけ、俺のモチベーションは、ゲーム開始して20分で尽きた。
エロゲというのは結構ボリュームがあるもので、1プレイ50時間は要するものもある。
つまり、俺はモチベ0の状態で49時間以上、ひたすら胸くそ展開を耐えながらなんとかエンドロールまでたどり着いたのだ。
ちなみに、俺のモチベが尽きた原因は、推しヒロインが即死亡したからである。
主人公と少しだけ良い感じの雰囲気になるもムフフイベントが起きず、エッチシーンと言えば悪徳領主の息子によって身体をひん剥かれて散々弄ばれたあげく死亡する、というのっけからのゴミ展開だ。
求めていない。
こんな救いのない展開なんぞ、誰も求めていない。
「クソ……ほんとに胸くそ悪いストーリーだったぜ。別のゲームでもして、ストレス発散するか」
俺はイライラした気分のままに、コントローラーに繋がれているコンセントまで四つん這いで歩いて行くと、力任せに引っこ抜いた。結露したペットボトルを持ったときに《濡れた手で》。
バツンッ!
そんな音と共に、一瞬白い光を見たような気がして。
「あ?」
一体、何が起きた?
そんなことを思う間もなく、俺は全身を襲う激しい痛みを一瞬感じたあと、視界が暗転した。
――。
「……ん?」
目が覚めると、知らない天井がそこにあった。
俺の身体はベッドに寝かされていて、首を横に傾けると開け放たれた窓から風が吹き込んできて、真っ白なカーテンを揺らしている。
「どこだ、ここ……」
自分の部屋じゃない。
だって、俺の部屋は昼間でもカーテンを閉じた引き篭もりニートの……いや、なんでもない。
それに、心なしか声が高い気がする。
戸惑う俺。
しかし、次の瞬間さらに戸惑うことが起きた。
ガチャリと音を立て、部屋の扉が開いた。
誰かが入ってきた……って、え?
その人物を見て、俺は呼吸さえとめてしまう。
雪も欺く白い肌。金髪で碧眼。少女ながら女性らしい身体のラインを誇るその美少女に、あまりにも見覚えがありすぎたから。
「そ、んな……まさか、フランなのか」
僕は、思わず小さな声で呟いてしまう。
俺の目の前にいるのは、フラン=フォン=シルバリア。
クソゲー『ナイトメア学園』に登場するキャラにして、最初に殺される悲劇のヒロインだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます