第2話
・地球から人類が消滅するまで、あと336時間――宇宙港<ポート> JS‐ポート
――まったく、困ったもんですね
――まさか、こんなことになるなんて。私が子どもだったころには考えもしていませんでしたよ
――ママぁ~!!
――あの大統領で……大丈夫なのかしら
――すげぇー、楽しみなんだけど!
――わかる、わかる
――はぁ
JS-ポートはいつになく混んでいて、花束を抱えたチアキ・ハセガワは眉をひそめた。
何となく視線が集まってくるのだ。
好奇心丸出しの直視は、まだマシ。
チラチラとこちらを見て、含み笑いを浮かべる大人どもが一番タチが悪い。
チアキは、不機嫌にポート内を横断する。
探し人が見つからないのだ、仕方がない。
10分ほど歩いたところでようやく、探し人を見つける。
大昔の映像ディスクの中にいるような格好の女性が立っていた。
白い日傘に、つばの広い帽子、ロングドレスに、手袋。
世界一周旅行にでも出てくれそうな勢いだ。
優しげな顔立ちに、微笑みをにじませた妙齢の女性に、チアキは近づく。
相手もこちらに気がついたのか、女性は軽く手をあげる。
「チアキちゃん。
何て格好しているの?」
女性――ハルカ・モリヤは呆れたように言った。
ライトグレーのジャケットに、洗いざらしのT‐シャツ、ジーンズに、スニーカー。
チアキの格好は、ポート内では浮いていた。
が、時代錯誤どころの騒ぎでない格好の女には言われたくない。
「モリヤさんに言われたくないし」
「旅立ちの装いよ。
綺麗でしょ」
ハルカはその場でクルッと一回りしてみせる。
手の込んだドレスの裾がフワッと広がる。
クラシックレースがひらりとひるがえるのが、映像ディスクのように見えた。
残念ながら、チアキは度し難い懐古趣味は持ち合わせていなかった。
時を止めたアンティークたちだ……と思っただけだった。
困ったように笑い
「はい、餞別」
チアキは抱えていた花束を渡す。
「あら、ありがとう。
造花じゃないのね」
良い香り、と花に顔をうずめ、ハルカは言った。
「そっちのほうが良かった?」
「まさか。
嬉しいわ、ありがとう。
別に、運び屋を使っても良かったのに」
「下見がてらに」
「……今、なんて?
聞こえかなかったから、もう一度」
「あ、こっちのこと。
んじゃあ、これで。帰るよ」
チアキは言った。
「一緒に行かない?」
「あー、遠慮しておく。
それに、その件はよーく話あったし。……ね」
「でも諦めきれないのよ」
「モリヤさんは、おっせかい」
チアキは小さく笑った。
それに、ハルカは微苦笑を浮かべた。
用件はすんだ。
チアキは時代錯誤の貴婦人に背を向ける。
「じゃあ、またね」
ハルカの名残惜しそうな声が届く。
「そういうことにしておいて」
雑踏にまぎれる前に、一度だけ振り返って、友人を見る。
ハルカは微笑んでいた。
つられてチアキも微笑んだ。
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