第4話 異星の民との邂逅
飛行するザフィーアからアルフィルクは視界モニターで外を眺めていた。何処を見ても荒れ果てている光景に目を背けたくなる。
ちらほらとザフィーアやアポストルスとは違う機体がいるのを見てアルフィルクは「あれは何だ」と呟く。ザフィーアに乗る前にも、あの機体たちがアポストルスと戦っているのを目にしているなと思いながら。
「あれはエクエス。ザフィーアとは違う有人戦闘機体」
なんとなしに口にした疑問にポラリスは答える。ミソロジア――ザフィーアとは違う、スマートなフォルムをしている色鮮やかな二足歩行型の戦闘機体なのだと教えてくれた。
ザフィーアのように自我があるわけではなく、パイロットがいなければ動かないのだという。
話を聞いて、自我という言葉が引っかかった。アルフィルクは「ザフィーアは生きているのか」と問う。AIといった自動プログラムのようなものではないのかと。ポラリスは「ザフィーアは機械生命体でもあるの」と言いにくそうに口を開いた。
「ザフィーアは機械の身体を持つ生命体であるオリジンビリーブの力と、与えられた技術力によって生み出されたの。人工知能などではなく、生命体である自我を持っているわ」
言っている意味が分からなかった。機械の身体を持つ生命体とはなんだと、疑問が次から次へと湧いて出る。
ポラリスも自分だけでは説明が難しいらしく、「母艦に戻れば全て教えられるから」と申し訳なさげに言葉を返していた。
どうやら、今はザフィーアの自立モードで母艦に戻っているようだ。ポラリスが言うには、超大型空母艦と称されているとのこと。その母艦で基地に戻るのかと思っていれば、「母艦で説明を受ける」と言われた。
ポラリスと話してアルフィルクは少しずつ落ち着きを取り戻す。訳も分からぬままに搭乗してしまったが、命が助かったことに安堵した。それでも気になることは多く、まだ胃の中が気持ち悪い。
『我が母の元に帰還するぞ』
ザフィーアの低い声がして視界モニターへと目を向ければ、海が広がっていた。月が淡く照らす水面にそれは浮かんでいる。
航空母艦というのを間近で見たことはないけれど、一般的なものよりも遥かに巨大な艦船が停泊していた。広い飛行甲板の上に複数のエクエス機が着陸している中を、ザフィーアは静かに降り立つ。
ハッチが開いて母艦へと格納されたザフィーアが慣れたように歩いていく先にひと際、機材に囲まれた箇所が格納庫にはあった。複数のモニターが壁に設置された機材と繋がっている。その機材に背を向けてザフィーアは停止した。
「ザフィーアが入りました!」
「プラグを挿せ! データを収集しろ、それと並行して機体チェック!」
「了解!」
整備員と白衣を着た研究員らしき人々がやってくるや、指示が飛び交う。ザフィーアは自主的に壁に設置された機材から垂れ下がるプラグを繋いでいた。
整備員の男女たちが声を掛け合ってバタバタと走り回るのを視界モニターからアルフィルクが眺めていれば、かちっとハッチのロックが解除される。
静かに開閉されてアルフィルクはやっと降りられるのかと、息を吐いた。ザフィーアの隣に配置されているリフトに乗ると、ポラリスがパネルを操作する。ゆっくりと下へと動き出したリフトに揺られるほんのわずかな間、会話は無い。
ばたばたと動き回る人たちをアルフィルクが眺めていれば、ポラリスに腕を引かれた。こっちと小さく呟いて彼女が歩き出したのを見て、後を着いていく。格納庫から出れば、無機質なけれど明るい通路へと通された。
白衣を着た研究員や軍服を着た軍人が慌ただしく通り過ぎていくのを横目に進んでいけば、目立つ少しばかり大きな扉があった。ポラリスが扉の傍にあるパネルに手を翳せば左右に開閉される。
見たこともないような機器とモニターが設置された室内は軍服を着た軍人と研究員たちが忙しなく動き回っていた。
目の前にある巨大モニターからは外の景色と周辺の状況がデータとして表示されているのが見える。ふと、巨大モニターが切り替わり、それは現れた。
女神、そんな言葉が想い浮かんだ。複数の白翼をはためかせ、文字列の帯を纏う女性のような出で立ちの、けれど何処か機械的な存在がモニターに映し出される。
「オリジンビリーブ」
目を奪われたように見つめていれば、隣に立ったポラリスが彼女の名を呟く。
「彼女はこの巨大空母艦の本体であり、異星よりこの地に降り立った機械生命体」
本体は巨大空母艦の心臓部にいるわとポラリスに教えられて、目の前に移る女神が存在することをアルフィルクは知る。
「あぁ、来てくれたのね」
信じられないと黙ってモニターを見つめていたアルフィルクの背後から声がした。振り返れば、そこには七歳前後の幼い少女がいた。
兎耳のように二つに結った白金と瑠璃色のグラデーションの髪が漣のように揺れる。人離れした顔立ちによく映える白雪の肌は何処か冷たく感じた。
真っ白なレースのあしらわれた繊細なドレスを着こなす幼い少女は、ダイヤモンドを埋め込んだような煌めく銀の瞳でアルフィルクを見つめる。
人ではないと、アルフィルクは一歩、下がった。髪の色も、顔立ちも、宝石のような瞳も、全てが全て作り物ように完璧で、人間だとは思えなかったのだ。
ポラリスも瞳はサファイヤのようではあるけれど、まだ人だという感覚はあった。見た目か、雰囲気か、アルフィルクには分らなかったけれど、何かが違うと脳が判断している。
「わたしがこの星の生命体でないとアナタは本能で感じ取っているのね」
アルフィルクの心情を察したように、幼い少女はさらりと自身がこの星の人間でないことを話す。隠すことでもないといったふうに、何でもないように。
「わたしはフォルティア。オリジンビリーブと共にこの星に降り立った異星の民よ」
大人びた口調で表情一つ変えずに。どういう意味だ、それは。そもそもどうして自分は此処にいるのか。幼い少女フォルティアの言葉に頭が混乱させる。
「アナタ、名前は?」
「……アルフィルク」
「覚えやすい名前ね。アルフィルク、わたしはこの星の民ではないわ。だから、そういった反応をしてしまうのでしょう」
「フォルティア。いきなりそんなことを言われても混乱するだけだろう」
すっとフォルティアの背後から現れた黒い軍服に身を包む男が声をかける。少しばかり年を取って見える端整な顔立ちの男は、フォルティアの反省している様子を見せない態度に、灰髪を掻いてから眼鏡を押し上げた。
「すまない。突然のことで君も理解できていないだろう。私はクリフトン、この対フィーニスコア機関オリジンの総司令官だ」
「対フィーニスコア機関……オリジン?」
クリフトンはアルフィルクのなんだそれはといった態度に「簡潔に説明しよう」と、この組織がどういったことかを話し始めた。
「君が戦ったアポストルスという存在はフィーニスコアという機械生命体から生れたものだ。フィーニスコアがこの地に存在する限り、アポストルスは増え、破壊を尽くす。私たちは彼らを倒すべく結成された組織だ」
フィーニスコアから生まれたアポストルスたちの集まりを打ち倒す、それがオリジン。リュウグウ国を中心とした同盟国の協力の元、この組織は立ち上がったと説明を受けてアルフィルクは首を傾げた。
フィーニスコアが現れて、産み落とされたアポストルスたちが街を破壊してから日も経たずにオリジンは動き、エクエス機やミソロジアを出撃させていた。まるで、彼らの侵略を予知していたかのように。
そんなアルフィルクの疑問を察してか、フォルティアが「わたしたちが伝えたのよ」と話した。
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