第3話 理由が知りたかった



 瓦礫の影から砲撃が放たれて、ザフィーアは白翼のマントを盾にして防ぐ。すかさず、背後から別の敵機が飛び掛かってきた。その巨体で突撃されて、ザフィーアは後ろに倒れそうになるも、堪える。


 小型の蜘蛛のような多脚を持つ機体は人型の上半身を向けて銃のような武器を構えた。撃たれる、アルフィルクは咄嗟に操縦桿を切り返す。放たれた砲撃をザフィーアは飛ぶ鳥のように宙を舞って避けた。


 瓦礫の影から仕掛けられる攻撃を躱して、二機と距離を取る。相手はザフィーアの動きをじっと凝視しているようだった。


 邪魔だ、アルフィルクは舌打ちをした。話をしたくとも、二機がその余裕を与えてはくれない。後部座席にいるポラリスが言葉を発しないのを見るに、この敵機たちを倒せということなのだろうとアルフィルクは解釈した。


 自分がこんな目に合わなければいけないのだ、何故。吐き気に襲われながら、アルフィルクは操縦桿を握り締める。


 蜘蛛のような多脚のアポストルスが銃口を向けたのを視認して、アルフィルクは相手と距離を詰めるようにザフィーアを操作した。瓦礫を蹴って飛び、ザフィーアは相手の懐に入ると槍を振るう。流れるように早く、槍先がアポストルスの胸部を貫く。


 茶色く濁った液を垂れ流しながら力無く倒れるアポストルスから槍を抜き、ザフィーアは避ける。砲撃を放っただろうアポストルスを瓦礫の影から見つけ、アルフィルクは叫ぶ。



「邪魔なんだよっ!」



 声と共にザフィーアは持っていた槍を投げ飛ばせば、迷うことなく瓦礫に隠れて潜んでいたアポストルスの頭部に突き刺さった。


 しゅんっと駆け抜けて刺さった槍を乱暴に引き抜き、薙ぎ払う。その槍先で首は切られ、アポストルスは崩れ落ちた。


 はぁはぁと荒く呼吸をしながら、アルフィルクは視界モニターを見遣る。画面端に索敵結果が表示されており、周囲にはもう敵機はいないようだ。何もいない、戦う必要はないとふっと力が抜ける。


 視界モニターには地面に転がる化け物たちの残骸が転がっていた。自分が倒したアポストルスという存在をアルフィルクはただ、眺める。周囲は瓦礫の海で、地獄のようだとその変貌ぶりに声が出ない。


 この瓦礫うみの下には多くの人々の亡骸が眠っているのだと理解して、アルフィルクはアポストルスという化け物の存在に言い知れぬ感情を抱いた。


 それは怒りなのか、恐怖なのか、不安なのか。込み上げてくるモノに気持ちが悪くなり、嗚咽を吐く。胃の中のものを吐き出したくなる衝動にかられた。


 口元を押さえながら縮こまっていれば、後部座席で通信をしていたポラリスが「ごめんなさい」と謝罪の言葉をかけてきた。それを聞いてアルフィルクは眉を寄せながら振り返る。



「何が、ごめんなさいだ! どうして俺がこんなことをしないといけないんだよ!」


「アナタはザフィーアに選ばれたから……」


「この機体に選ばれたって? それで納得できると思っているのか!」



 何が選ばれただ、それでどうやって納得すればいい。アルフィルクにふざけるなと怒鳴られて、ポラリスは目を伏せた。


 このザフィーアという機体に搭乗して、自分は助かった。死ななかった事実は認めるけれど、理由もなく戦わされて、選ばれたからなどと言われても納得はできない。


 アルフィルクは説明してほしかった、これは何なのかを。この状況は、あの化け物たちは何者なのだと。



「それを説明するために、ワタシたちの基地に来てほしい」



 ここで説明するのは難しいのとポラリスに言われて、アルフィルクは腹が立ったけれど、それよりもこの気持ち悪さをどうにかしたかった。吐きそうになるのを堪えながら彼女を睨めば、ぷつりと通信が入る。



『こちら、オリジン基地。クリフトンだ、ポラリス』


「総司令官、こちら残ったアポストルスたちは処理しました」


『エクエス機たちからも周辺にいないと報告を受けている。君はパイロットに選ばれた少年を基地まで連れてきてくれ』


「了解しました」



 通信が切れてポラリスは「全てを話すから一緒に来てほしい」とその人離れした瞳を向ける。アルフィルクは言い返してやりたかったけれど、理由は知りたかった。


 せり上がってくる吐き気を堪えながら頷けば、彼女はふっと小さく安堵の息をつく。断られることも考えていたのだろうとその様子から見て取えた。


 理由が知りたい、自分が選ばれた訳を。あの化け物が何なのか、どうしてこの星を襲っているのかを。


 乗ったからには知る権利が自分にはあるはずだとアルフィルクはポラリスについていくことにする。そういうことにして、自分の抱いた怒りを堪えようとした。


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