第12話『特務部隊に課せられるものとは』

「それで、説明を省いたということは効率重視ということですか」

「さすがは秋兎あきとさん、わかってらっしゃいますね」


 車に揺られながら、ただ景色を楽しむための移動時間ではないことを察する。


「まず、特務部隊での活動内容についてです。そこまで難しいことはありません。課せられた任務に対して、持てるもの全てを使用して遂行する、ただそれだけです」

「しかし、特務と呼ばれている部隊というからには、通常の部隊と一緒の内容ではない、と」

「はい。現在、この世界にはダンジョンがあります」

「え、それは本当なんですか」

「はい。と言いましても、秋兎様が異世界へと転移させられてしまったのが3年前とのことでしたが、ちょうどその頃に大地震が起きた後にダンジョンが突如姿を現しました」

「……その稀有な存在の俺より、この世界に起きたことの方がとんでもないですね」

「ええ、それはもう心が躍って――もとい、組織的に、いえ、国中が大騒ぎになりました。正しくは、世界の関心が向くほどの大事件という扱いになっておりますが」


 俄かには信じられない話をなんとか飲み込もうとする秋兎であったが、現実世界の景色を前に納得できるはずもなく。


「そんな話をされてしまうと、俺的にはどちらの世界も異世界のように感じてしまいますね」

「こちらの世界にもダンジョンがあるとなると、わたくしたち的にはありがたい話でもありますが」

「だねー。こんな平和な世界、ボクには少し退屈だったから」

「妾も同意見じゃ。というより、謎が解けた気分で清々しいの」

「なるほど、そういうことか」


 秋兎は、フォルのセリフで点と点が繋がった。


「普通に考えたら、俺が知っている現実世界では能力を発揮することはできない。しかし、それができてしまった。身体能力的な面ではまだ納得がいくが、魔法などに関してはどうやっても使用できる道理がない。だが、こちらの世界でもダンジョンがあるのなら話が変わってくる」

「あちらの世界がどうだったかはわかりませんが、つまりはそういうことです。私にわかりませんが、ダンジョンで採掘できる鉱石やモンスターを討伐することによって入手できるはある種のエネルギーが蓄えられていることが発見され、今では新しいエネルギーの源となっています」

「なるほど、こっちの世界らしい文明発達具合と言いますか、感心してしまうほどの貪欲さと言いますか」

「しかも、加工することもできて今では武器としても使用することができています」

「たった3年でそこまで進むのは、さすがとしか言いようがありませんね。異世界では、秘伝の技術とか魔法が伴っていましたから」

「私的にはそちらの方が興味あるのですが……。あ、今のは忘れてください」


 秋兎は、心の中で『この人は、筋金入りの異世界好きなんだ』と、完全に印象を固定させた。


「ということは、ダンジョンで起きた事件の解決や調査がメイン。そして、ダンジョンで培った知識や経験などを活かして地上での事件も解決する部隊、というわけですか」

「はい、まさにその通りです。しかし、部隊ではあるものの、ほとんどは今日のような感じになります。普段は学園生活、任務のときに召集というかたちで」

「それを学園長は了承している、と」

「これら情報は極一部の人間しか知り得ない情報なので、学園では偽りの自分を演じる必要はありません。ありのままの学園生活をお楽しみください。それもまた皆さんの権利の1つですので」

「まさか、ここまでの待遇と地位だというのに『学生は勉強するのが本文』なんて言いませんよね」

「残念ながら、それが最優先事項と心得ていただいて構いません」

「そんなことってあるんですか? こういうのって、強制的な権力を行使するとかでは?」

「『しかし、日常を脅かす存在に対処するのは例外を個人の見解で適応を許可する』、という事項もありますので、そこは思う存分というやつです」

「部隊というと国に所属するものですよね? そんなに自由で大丈夫なのですか?」


 全ての基準が異世界となっている秋兎は、素直に疑問を持つ。

 自分があちらの世界でそのような立場であったわけではないが、国に所属する騎士団が上からの命令に背けるはずがなかったからこそ。


「はい。ここが日本ということもありますが、私たちの立ち位置としては『番犬』というよりは『野良犬』のような立ち位置になります。例えばの話ですが、私たちは国の最上位に値する人たちからの命令も拒否することができます」

「うわ、なんですかそれ。もはや部隊というより独立国家のようなものじゃないですか」

「いいですね、その呼び方。ですがそうですね。決定権や行動権限的な話でいえば、それぐらいの効力があります」

「ですが。そういうことであれば、正規の部隊では遂行不可能な任務を課せられるとうことでもありますよね」

「セシルさんのおっしゃる通りです。これまた大袈裟な話、国家間のいざこざに巻き込まれたり、政治的解決ではなく武力的解決の手段として動いていただく場面が出てくると思います」

「その話じゃと、妾たちの実力を以って制圧することが無条件で許可されているように聞こえるのじゃが。本当によいのかの」

「もちろんその通りです」


 実力行使を公認されたフォルは、目を輝かせながら口角を上げる。


「先に言っておくが、フォルが想像しているほどの自由さはないと思うぞ。辺りを見ただろ? あっちの世界と違って建造物の量と高さが段違いだし、それに伴う人口密度だって桁違いだ。もしも思い通りに魔法をぶっ放せば、それだけの人間が巻き込まれると心得ておけよ」

「そ、そんなことは妾でもわかっておるわいっ」


 お灸を据えるためのプランを練り始める秋兎は、悩みの種が増えそうでつい腕を組んでしまう。


「でもさぁ、正直な話。ボクたちと一緒に活動するあの人たちはどれぐらいの実力なのかな?」

「そうね。アキト様の足を引っ張られるようじゃ困るもの」

「構造は理解できませんが、こちらの世界ではダンジョンへ侵入した人間は漏れなく強化されるようです。そして、彼らはその中でも特殊な能力を手に入れているので問題はないと思います」

「それは興味深い話ですね。それはつまり、ダンジョンへ入った人間はステータスを獲得し、レベルアップを経て成長し、なんらかの条件を満たすことによってスキルを獲得することができる。ということですか?」

「話が速くて助かります。たった今秋兎あきと様がおっしゃられた内容が全てになります。ですので、皆様がダンジョンへ向かえば、それらは全て数値化されると思われます。凄いですよね、まさにファンタジー! ゲームの世界に入ったかのような感覚を味わえる! ダンジョンに入れる皆さんが羨ましい!」


 途中から感情がダダ洩れになり始めた人間を横目に、秋兎は異世界と比較をする。


(俺も最初は、そのようなシステムに憧れを抱いていた時期があった。だから、異世界に転移させられたときは期待に胸を膨らませていたのだが……残念ながら、ステータスのようなものもレベルアップのようなものもなかった。だから、自分の強さがどれほどのものか確認できるのは、正直心が躍ってしまう)


 当時の憧れが蘇り、ついワクワクしてしまう秋兎。


(そして、今まで感覚的なことしかわかっていなかった3人のステータスを知ることができる。今後とも戦闘を繰り返していくならば、仲間の能力を把握しておくのは必須だからな)


 腕を解き、前方に手を伸ばして軽く体を伸ばしていると、隣に座るセシルを観てとある疑問を浮かべる。


「今って、これから俺たちが生活する場所へ移動しているんですよね?」

「はい、そうです」

「一応の確認なんですが、ここまでの待遇をしていただけるのですから1人1部屋という感じにしてもらえてますよね?」

「どのようにも対応することは可能ですよ。部屋数は足りていますし」

「でしたら! ぜひともアキト様と同じ部屋がいいでお願いします!」


 と、セシルが間髪入れずに立候補。


「じゃあボクもっ」

「なら、妾もじゃ」

「皆様のご意見は一致されているようですが、いかがなさいますか?」

「確認させてほしいんですけど、決定権は誰にあるんですか」

「皆さん平等にありますが……リーダーとなる秋兎様のご意見が最優先になるかと」

「じゃあ、リーダー権限で全員別々の部屋でお願いします」

「本当に宜しいのですか?」

「ええ、それでお願いします」


 隣や後ろから「職権乱用です」「ぶーぶー」「逃げたの」と嘆きの声や煽りの声が聞こえてくる。

 しかし秋兎の決意は固く、揺るぐことはない。


「そろそろ、目的地に到着致します」

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