第4話『英雄一行は学園へ入学する』
「それにしても、書類への記入作業以外は説明だけでしたね」
「まあそ例外は話す内容もないだろうしな」
そして、手配された水色を基調のブレザーに薄緑を基調としたズボン・エメラルドを基調としたスカートに着替えて。
「ボクたち、アキト様との契約で話したり読んだり書いたりはできるけど勉強はできないよね? 大丈夫なのかな」
「さすがの妾もそこは心配ではあるの。勉強すること自体は好きじゃが、この世界の基礎知識がないしの」
「それを言われると俺もそうだな。こっちの世界だと、小学校の6年間、中学校の3年間、高校の3年間、大学の4年間とかって感じに大体で別れているんだが、俺は中学校の2年生で異世界に召喚さたからな」
「学園長の話ですと、『海外で暮らしていたからという設定で押し通せる』とおっしゃっていましたが、本当に大丈夫なのでしょうか」
「フォルは金色の瞳で金髪、マリーは
生粋の日本人なのだから当然ではあるが、まさかの日本でそれが裏目に出る日が来てしまうなど誰も予想できはしない。
「俺たちはこれから、こっちの世界で生きていかないといけない。生活の基盤を整えて、衣食住を安定して確保し続けることが当面の目標になる」
「寮というのはまだ納得がいきませんが、偶然にも3人部屋が空いているということでしたので少しは安心です」
「だけどやっぱり、セシルはアキト様が居ないのが不満なんだよねー」
「それはそうでしょ? これではまるで、アキト様だけ仲間外れになっているみたいじゃないの」
「そうかの? 本当にそうかの? セシルは、妾たちの主であるアキトから離れるのが嫌なのじゃろ?」
「ええもちろんですよ。それが何か悪いのですか? 2人は同じ気持ちでしょ?」
「まあ、ね」
「妾だってそうじゃが、アキトも言っている通りでこの世界にはこの世界のルールとやらがあるのじゃ。子供みたいに駄々を捏ねていては笑い者にされてしまうぞ?」
セシルは、反論したい気持ちと納得のいく説明を受け、拳の握り締めて感情を頑張って抑えようとしている。
「それにしても、みんなの制服姿を見られて眼福だな」
「えっ?」
「だってほら。あっちの世界では制服っていうと、こういう明るくてかわいい感じの服って言うよりは、ビシッと気合いを入れるような服しかなかっただろ? だから、みんなの可愛い姿が観ることができて嬉しいって話」
「足がスース―してなんだか違和感しかない服じゃったが、似合っておるのか。そうかそうか、妾は可愛いのか」
「ああ、全員ちゃんと似合ってるよ」
フォルはバッと体上がり、鼻歌を奏でながらクルクルと回り始めた。
「ボクも似合ってるの?」
「ああ、マリーも似合ってるよ。でも、いつも体が先に動いてるから注意するんだよ」
「うっ。今、飛び跳ねようと思ってたのに」
「特に、これからはそれぞれのクラスに分かれるんだから、なおさらね」
「はーい、わかったよ」
それでも足をパタパタをさせているマリー。
いつもだったらマリーとフォルに対してすぐ注意を入れているセシルが静かなものだから、秋兎は気がかりになって視線を向けると――。
「セシル、どうかした?」
金髪の髪をクルクルと人差し指でいじりながら口元を緩めている姿があった。
しかも手を伸ばせば届く距離だというのに、秋兎の声がまるで耳に届いていないかのようにポケーっとしている。
「セシル?」
「――え、あ……はい! なななななんでしょうかアキト様ままままま」
「なんだ、何かを考えていた途中だったのか。急に話しかけてごめんね」
「い、いえ! そういうわけではないのですが――」
ほんのりと頬を染め、しおらしいセシルを気に掛けていると教師たちが到着し、それぞれが担任に案内され、教室へと足を進めていく。
学年でクラスが4クラスあるから、という理由で全員が別々で配属されることになった。
この件について、最後の最後まで――いや、今も尚、不服を抱いているセシル。
「……」
秋兎は、初めて歩く学園の廊下に懐かしさを覚える。
(毎日、何も意識せずに過ごしてきた学園生活が、非現実と思ってしまう日が来てしまうなんてな)
年数だけでいえば、3年という年月は長期間というわけではない。
しかし、毎日のように生死をかけて戦う濃密な時間を過ごしていたからこそ、またこのような平和な時間の訪れに心が追いつかないのだ。
(あっちの世界でも同い年の人間と話す機会はいくらでもあったけど、あまりにも勝手が違いすぎる。こっちの世界では力を示したところで、それはただの暴力となってしまうだけだしな)
階段を上って2回に上った先、1組にフォルが案内されてく。
フォルは振り返ることなく、陽の光に照らされ輝く銀髪をゆらゆらと揺らしながら教室の中へ入っていく。
次いで2組にマリー。
緊張している様子はないが、最後にアキトへ振り返ってウインクを一度――そのまま教室へと入っていった。
3組になったセシルは「それでは、お先に失礼します」、とアキトに向かって深々と一礼し、天井から吊り上げられているかと錯覚してしまうほどの姿勢のよさでゆっくりと教室へと向かっていく。
最後は
「緊張はしているかい?」
「ええまあ、ほどよく」
「そうだよね。まあ、わからないことがあったら僕やクラス委員長に聴いてね」
「わかりました、ありがとうございます」
「じゃあ、行こうか」
教室へ入り、自己紹介。
秋兎に向けられる目線は、誰もが興味を寄せているもの。
しかし、質問攻めとなることはなく、すぐに席へ指定されて移動することに。
席は向かって右側最後尾――2席だけ溢れるようなかたちで配置してあり、秋兎の席は窓際だった。
「これからよろしくね、
「よろしくお願いします
「いろいろとわからないことがあると思うけど、なんでも聴いてね」
「わかりました。その都度、助けを求めさせてもらいます」
「……」
行儀正しい、といえば聞こえがいいかもしれない。
しかし、同じ学び舎に通っている、しかもクラスメイトだというのに距離感がありすぎると捉えられるのが世の常。
当然、桜はその壁に対して疑問に思うも気さくに話を続けた。
「
「あ……ありがとうございます」
(あっちの世界では、基本的に年上としか会話をしていなかったから……つい、その癖が出てしまった。これも徐々に慣れていかないとな)
そんなことを思っていると、桜は秋兎の机と自分の机をくっつける。
「いろいろとわからないだろうから、一緒に勉強をしよっか」
「え、あ、はい」
徐々に距離感を掴んでいこうと思っていた矢先、もはやゼロ距離まで詰められてしまったものだから思考が追いつかない秋兎。
セシル、マリー、フォル以外の女性とこんな近距離で接したことがないため、動揺を隠せず思わず腕に力が入ってしまった。
(こっちの世界って、こんな感じだったっけ? あれ、俺……もしかして、人と話すの下手になりすぎじゃないか? いや、クラスメイトと何を話せばいいんだ?)
閉鎖的な空間で人と接する機会が中学生以来の秋兎は、いつもの冷静な思考ができなくなっている。
しかも、どこか甘い、しかし爽やかな香りに包まれているような感覚がしているのも相まって。
「黒織くん?」
「は、はい?」
「勉強、頑張ろうね」
「よ、よろしくお願いします」
一切の悪意がない笑顔を向けられ、秋兎は隣に居るコミュニケーションお化けに手も足も口もでない。
(俺、もしかして思っていた以上にマズいか? これからの学園生活、大丈夫かよ……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます