異世界の英雄は美少女達と現実世界へと帰還するも、ダンジョン配信してバズったり特殊部隊として活躍するようです。~現実世界に戻ってこられても、あんまりやることは変わっていない件について~

椿紅 颯

第一章

第1話『英雄の帰還』

「随分と懐かしい景色だな」


 秋兎あきとは、目線の先に広がるビルの数々を見てそう呟く。


「ここがアキト様の故郷なのですね」


 次いで、初めて見る光景に驚きつつも、すぐに秋兎あきとの横顔へ黄金の髪をなびかせて視線を向けるセシル。


「おぉ~!」


 肩まで伸びる紅色の髪をゆらゆらと揺らしながら、右に左に視線を振って景色を楽しむマリー。


「ねえねえ、あれって私の力でも壊せそうかな? 主様の真っ黒い髪色みたいに燃やせる?」


 臀部に触れるまで伸ばした癖のない白銀を一旦持ち上げ、ふぁさっと下ろしながら物騒なことを言い始めるフォル。


「まあ、できるな」

「ふぅーん、なるほどね~」


 それを聞いてどうするのか、と秋兎が質問しようとするが、セシルが振り返って口を出す。


「フォル様、そんなことをしてはダメですよ」

「えー。何事も、試行錯誤というものは大切なんだよ?」

「こちらの勝手はわかりませんが、察するにあの建物内には沢山の人々が居るはずです。アキト様、そうですよね?」

「ああ、そうだな。ちなみに、あれはビルって言ってな。生活をしているっていうより働いている人達が行き来している」

「そういうことです。フォル様は、なんの罪もない人々を攻撃なさるおつもりですか?」

「わかったよわかったよ」


 口ではそう言っているが、頬をぷくーっと膨らませて不服そうにしている。


 そんなフォルを見て、内心を察しているものの追加で言葉を加えることなくセシルは秋兎の右隣へ戻る。


「じゃあこれからどうするの? 主様が見知っている世界だからといって、同じ世界とは限らないという仮説がまだあったと思うんだけど」

「それなんだよな。見慣れた景色だし、時代だってそこまで変化があるわけでもなさそうだから、どうなんだろ」

「やっぱり、ボカーンって――」

「ダメです」

「うぅ。ちょっとぐらい試しても――」

「ダメです」


 表情を変えず、落ち着いた声色で制止するセシル。


「てか思ったんだけどさ、あっちの世界では魔力がうんぬんで魔法を使えてたみたいだけど、こっちの世界では使えるのか?」

「たしかに! じゃあや――はいはい、わかってるって」


 自分に向けられたものではないが、秋兎は察した。

 現在、セシルは殺気の込められた目線をフォルへ向けられていることを。


「そう考えると、俺自体の能力も発揮できるかが怪しいな。みんなは体に異変があったりしないか?」

「妾は、現状ではなんともないの」

「わたくしは、そこまで変化を感じません。今、『目の前の木を切断しろ』と言われたら即実行できると思います」


 自然の中――というよりは、偶然にも山の中に居る一行。


 セシルは冗談のようなセリフを口にしているが、その目は本気そのもの。


「いや。こっちの世界は、木々を再生することはできないからやめてくれ」

「わかりました」


 少しだけ残念そうにするセシルを横目に、マリーからの返答がないことを不審に思い、秋兎は左側に振り返る。

 すると、マリーは片腕を組んで左手を顎に当てていた。


「どうしたんだマリー」

「えっとね、ボクも確認しようとしていたんだけど……能力に変化がないとしたら、こっちに接近してくる人の気配があるんだ」

「……なるほど。もしかしたら民間人の可能性もあるから、みんな、くれぐれも咄嗟に攻撃をしたりするんじゃないぞ」

「いや……アキト様、明確な敵意は感じないけど武装はしているよ。しかも複数人。指揮官っぽい人も一緒に」

「わかった。だがみんな、準備はしておいて構わないが先制攻撃だけは控えてくれ」


 秋兎は腰に携えてある短剣へ手を伸ばしつつも思考を巡らせる。


(俺らが帰還したことを察知されたからなんだろう。だが、盛大な演出をしていたわけではないはず。それは、周りの木々が傷ついていないことを観ればわかる。まさか雲を割って神々しく顕現した、なんてこともあるまい)


 ならばどうして。


(ここは日本で間違いないはず。だとすれば、今こちらへ向かってきている武装した人たちというのは自衛隊だろう。俺が知っている日本であれば、あちら側からも警告なしに発砲してくることはない。ない……よな?)


 しかし一抹の不安は拭えない。

 なぜなら、当人も理解している通りの国であれば想定通りの話し合いがまずは行われる。

 だが秋兎あきとが約3年間の期間、生活してきた異世界ではそんな常識が通用しなかった。

 全員がそういう人間だった、というわけではないが。


 セシルも、左に携える黄金の鞘に納められている剣へ手をかざし、マリーもまた同じく、紅色の鞘に納められた剣へ手を伸ばす。

 フォルは武器を所持していないが、両てのひらをぐーぱーぐーぱーと繰り返している。


(なるほど、さっきの答え合わせができたわけだ。セシルに制止させられていたから試せなかったが、ハッキリとわかるほど風の流れが止んだ。そして、操られているであろう風が俺たちを護るように包んでくれている。マリーの察知能力も健在のようだしな)


 だとすればこのまま武力行使をした方が、交渉を有利に運ぶことができるだろう。

 しかしこちらの世界で生活していくうえで、そんなことをしたら後先に影響を及ぼす可能性がある。


 と、秋兎は自分にはない交渉術を欲しながら思考を巡らせているとマリーから報告のあった人たちが姿を現した。


「……」


 迷彩柄の上下にヘルメットや防弾チョッキ、アサルトライフルを所持し、目出し帽にヘルメットを装着している。

 攻防一体の装備だけではなく、一見しただけでもわかる隆起した筋肉。

 秋兎はある程度予想できていたから反応は薄いものの、セシル・マリー・フォルは説明を受けずとも接近してきた人間が戦える人間ということは瞬時に理解した。


「――なるほど、よかったです。野蛮な人たちではないということですね」


 計10人の武装した人たちの間を割って出てきたのは、長い栗色の髪をバンスクリップでまとめていて、如何にもどこかの制服であろうボディラインが浮き出ている服に身を包んだ女性。


(マリーの報告にあった指揮官みたいな人っていうのはあの人のことか)


「言葉は通じていますか? 身振り手振りを加えた方がいいのかしら」

「――いえ、大丈夫です。一言一句、翻訳がなくてもわかると思います」

「これは驚きました。日本の方でしたか? それとも、翻訳できるスキル・・・をお持ちで?」


 目の前の女性が目を丸くしたように、秋兎もまた目を丸めてしまった。


(……ここ、本当に俺が知っている日本なんだよな? 少なくとも、そんな日本で――いや、このような交渉をするような場面で【スキル】という単語を持ち出すはずがない。こちらを探っているようだが、どういうことなんだ)


 秋兎は思考停止しそうになるも、話を続ける。


「俺は、元々こっちの世界で生活していました。しかしある日、突然異世界に召喚させれてしまい――今に至る、というわけです」

「なるほど、そういう事情でしたか。ではいろいろと話は早そうですね。皆さん、ここはもう大丈夫です。先に撤退してください」


 まさか、敵かもしれない存在を前に撤退するはずが――と秋兎は思ったが、あっさりとその通りになってしまった。

 ならばこちらも、と構えを解除するよう促そうとしたが。


「まだ居ます。遠くの方に」

「……こんな短期間に二度も驚かされるとは思ってもみませんでした。スキルか能力か、とても素晴らしいですね」

「スナイパー、ですか」

「はい、その通りです。もはやそれまでにあちらの世界は素晴らしいということですね」

「その口ぶり、そしてその依然として崩さない態度。もしかして異世界についてご存じなのですか?」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。全く知らない、というわけでは……いえ、正確には情報の1つすら把握していませんが知識のようなものはあります」

(知らないけど知っている。言葉遊びをしているのか、それとも何かの隠語なのか。表情を変えずに話しをされるから何も読み取ることができない)


 しかしそんな懸念は一瞬にして吹き飛んでしまう。


「そう、私はこれらの知識をゲーム・アニメ・小説でしっかりと予習済みなのですから!」

「……みんな、構えを解いてくれ」


 3人は、秋兎がなぜその判断をしたのか不思議で仕方がないが指示に従う。

 それぞれ秋兎の表情へ視線を移すも、ため息を吐いて頭に手を当てているものだからなおさら理解できず、首を傾げることしかできない。


「ご理解いただき感謝申し上げます」

「いや、何も理解してはいません。ですが、なんとなくこちらの戦意が削がれたので」

「経緯はどうあれ、これで話がしやすいです」


 女性はこほんっと咳払いをし、呼吸を整える。


「これから皆様を車で、とある施設までお送りいたします」

「俺らがそれに従う理由は?」

「理由……皆様のご年齢はおいくつでしょうか」

「俺らは17歳です」

「そちらの方は?」

「正直、わかりません」

「妾もわからぬ。いろいろと考えるより、同じく17歳ということにしておこう」

「それでは、とても好都合です。悪いようにはしないですから、目的地まで同行してもらえませんか?」

「よかろう! なんだか面白そうじゃ!」


 まさかのフォルが即答。

 3人は一瞬にして視線を向けた。


「ありがとうございます。それでは車で移動をしましょう」


 3人は心の中で「いやいや、他の人の意見は?」と、踵を返してノリノリで歩き出す女性へ視線を送る。


「まあ、しょうがないか」

「アキト様、本当に大丈夫なのでしょうか。あの人たちは武装をしていたのですよ?」

「マリーから見て、敵意はどれほどだった?」

「武装していた人たちは、敵意というよりは警戒心の方が大きく感じられました。そして、交渉をしてた女性は警戒心よりも好奇心が大きかったです」

「……なるほど。なら、とりあえずは大丈夫そうだな。さっきの感じを察するに、みんなの調子も大丈夫そうだし」

「妾の魔法――を使うまでもなく、セシルがスパッとやってしまうであろうしの」

「もちろんです。その時は、わたくしにお任せください」

「じゃあ、行くか」

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異世界の英雄は美少女達と現実世界へと帰還するも、ダンジョン配信してバズったり特殊部隊として活躍するようです。~現実世界に戻ってこられても、あんまりやることは変わっていない件について~ 椿紅 颯 @Tsubai_Hayato

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