第6話『ダンジョンを攻略するために必要なこと』

 ここが第2階層か。


 階層を移動するときには、慣れ親しんだ石や土みたいな素材でできた階段を下ってきた。

 第1階層との違いは、全くない。


「ここまでくると、もはや安心してしまうな」


 だとすれば、ダンジョンは大きく分けて最序層、序層、初層――って段階分けで考えた方がよさそうだな。

 あっちの世界ではそんな感じに分けて情報整理されていて、階層の呼び名が変わるのはダンジョンの壁とか天井の素材が変わったり、ボスが居る階層を目安として分けていたりした。


 こっちの世界では攻略状況が全然ということだったから、情報を得ようとしてもほとんど意味をなさないんだろうな。


「ん、待てよ」


 完全にこっちの世界にあるダンジョンがあっちの世界にあったダンジョンだとしたら、僕にとっては簡単なんじゃ……?

 だって、あっちの世界では既に60階層は突破されていたはずだ。


「なら、ここからは試行錯誤の時間だ」


 じゃあまずは5階層まで一気に行ってしまおう。

 なんせ、僕が知っているダンジョンそのままなら、第2階層までは【スライム】や【フラワー】のような好戦的じゃないモンスターばかりのはずだ――。




 ――予想は的中。

 ダンジョン第3階層に足を踏み入れたら、若干だけど好戦的なモンスターが出現するようになった。


 正確に言うと、移動する【ミニウルフ】や【ミニバッド】のようなモンスターだ。

 この階層ぐらいだと、まだまだ群れを成すようなことはないし、攻撃手段も体当たりぐらいしかない。

 走り抜けて、追尾してくるモンスターだけを気にしつつ討伐していけば、簡単に突破することができる。


 そして第4階層も突破し、辿り着いた第5階層。


 まだまだ最序層だけど、ここからはダンジョンの本質が如実に表れてくる。


「この現象を誰かに聞きたくても、答えてくれる人は誰も居ないんだろうな」


 もしかしたら、『あっちとこっちの世界にあるダンジョンが全く同じもの』という主張を誰かしらは信じてくれるかもしれない。

 だけど、本当の意味で理解してくれる人は誰もいないはず。

 もしかしたら、僕を見守ってくれているかもしれない神様なら……なんて、存在しているかもわからない存在に期待したところで報われない。


「さて、と。ここからが本番って感じかな」


 壁などの見た目が変わったわけでも、出現しているモンスターの種類が増えたわけではない。


 ダンジョンの本質とは――人間の排除、自衛。


 仕組み、システム……いろいろな言い方があるんだろうけど、意味は一緒。

 ダンジョンに侵入してくる人間を、モンスターを出現させて排除したり、トラップやギミックを用いて進行を妨害してくる。

 まるで、ダンジョンが意志を持ちダンジョンを護っているかのように。


「予想通り」


 最初にズボンで左の手汗を拭い、次に剣を持ち換えて右も同じく。


「そういえば、配信って後から自分でも振り返り視聴的なのができるって話だったような」


 だとすれば、視聴者が0人だったとしても配信はしておいた方がいいよね。

 ここまで来た感じだと、他の探索者の人も居なさそうだし。


 ブレスレットをトントントンと叩いて、起動。

 空中にいろいろ出てくる中にある、【クリエイターダッシュボード】を選択。

 一番右下にある【配信開始】をタップした。


「それじゃあ、始めます」


 虚空にそう呟いて、目の前に居る【ミニウルフ】の群れへ突撃開始。

 先手必勝、合計5体のうち最後尾で背中を向けている【ミニウルフ】に剣を突き刺す。


『――』


 完全な不意打ちで、1体を撃破。

 ここまでは計算通り。


『グルルル』

『グーッ!』


 残り4体は一気に振り向いて、後方に飛ぶ。


「……」


 ここからは個々で襲ってくるか、一気に襲ってくるかに分かれる。

 さあだっちだ。


『グルァ!』

『グアァ!』

『ンガァ』

『ガッ!』


 なるほど、じゃあ――。


「はぁっ!」


 4体が一気に襲い掛かってくるのに対して、こちらは力強く剣を横一線に薙いだ。

 結果、【ミニウルフ】たちは漏れなく全て消滅。


「まあ、ここら辺だとこんな感じで大丈夫だよね」


 モンスターの数が多くても、1体1体の体力や防御力は極めて低い。

 だからこそ、こうして手荒な真似をしても大丈夫。


「周りには……」


 遠くにはモンスターが居るけど、こちらへ向かってる素振りはない。

 ダンジョンではいろいろな達成感が溢れている。

 でも、それに浸って警戒を疎かにしていると危険な状況に陥ってしまう可能性がある。


「そういえば、こっちの世界でもレベルやステータスがあるって話だったけど」


 ブレスレットを叩き、空中に浮かび上がっているモニターを眺めると、一覧の中に【ステータス】の項目を発見。

 それをタップすると、ズラーッと身に覚えのある項目が並んでいる。


――――――――――――――――――――

 

 レベル 2


 体力  102

 防御力 102

 攻撃力 102

 俊敏力 102

 精神力 102

 知力  102


 振り値 2

 

――――――――――――――――――――


 ん、僕が知っているステータスだとレベルの数値分増えていくものだ。

 だから今回は、表示されているステータス値は2のはず。


 ……もしかしてだけど、あっちの世界のステータス値を引き継いでいるってわけなのかな。

 確定しているわけじゃないけど、あっちの世界で僕はレベル100だったから、単純な足し算でこうなっているなら理解ができる。


 待てよ、なら――僕、ここら辺のモンスター相手なら警戒するまでもないんじゃ……?


「試せるのはここの階までぐらいだろうし、やってみるしかないか」


 ブレスレットを装着している左腕を素早く動かし、画面を消す。


「これも、操作する手間を省けるから便利でありがたい」


 知識、経験通りならここら辺に居るモンスターは数体で行動している。


「あれならちょうどいいかな」


 向かって右奥の方に、3体だけの【ミニウルフ】を発見。


 自分の体だけど、ステータスの数値を見ただけなのに急な成長を感じる――っていうのはおかしいけど、でもステータスの数値は錯覚ではないほどに体へ影響を及ぼす。


 体力は、総合的な身体能力。

 防御力は、身体的な強度。

 攻撃力は、筋力的な威力。

 俊敏力は、筋力的な反応。

 精神力は、精神面の強度。

 知力は、総合的な精神能力。


 簡単に言い現わすとこんな感じ。

 これらステータスが上昇すると、数値が増えていって、振り値はいわゆるボーナスポイントでどこにでも割り振ることができる。


「あそこまでなら――5歩ぐらいかなっ!」


 普通に走ったら、10歩ぐらいはかかる距離感を感覚のままに詰める。


「――っと」


 勢いそのままに1体の【ミニウルフ】横を通過し、そのすれ違いざまに剣で斬り裂く。


『――』

『ガッ!?』

「なるほどね」


 体勢的にそこまで力を込められる状況じゃなかったけど、2体の【ミニウルフ】は消滅した。


「じゃあ最後の工程を確認しよう」

『グルァ!』


 威勢のある声――とは真逆で、どちらかと言うと可愛らしいモフッとしている外観で【ミニウルフ】は攻撃タックルを仕掛けてくる。

 普通だったら、ここでは回避を選択するところだけど――。


「ほうほう……」

『ガッ!』

「……なるほど」

『ガッ!』


 いつも思うのが、どうして自慢の牙を使って攻撃してこないのか気になるところではあるけど、タックル、タックル、タックルその攻撃手段のみ。

 だけど、今は逆にそれが検証をするためにはありがたい。


 2回、3回――10回と手放し状態で攻撃を食らい続ける際中、あっちの世界で経験した記憶をさかのぼる。


 僕がまだ、あっちの世界で活動開始した頃――レベル2でこの攻撃をくらったときは姿勢が崩れるほどだった。

 そして、ダメージは蓄積されていって攻撃をくらい続けるとお尻から地面に倒れていたよなぁ。

 だけどレベルアップを経て、全く同じ攻撃をくらい続けても1歩も後退することがなくなった。

 ダメージの蓄積もなく、【ミニウルフ】を討伐するのに、もはや武器を使用する必要がなくなっていたっけ。


「もう20回目ぐらいか。じゃあ」

『ッガ――』


 空いている左拳で【ミニウルフ】の左頬を殴った結果、たったの1撃で討伐できてしまった。


「なるほど」


 左拳を握って開いてを繰り返しても、これといって痛みを感じることがない。

 なら、もう結論付けていいだろう。


 僕のステータスはあっちの世界とこっちの世界で合わさったかたちとなっている。

 これは、いわゆる世界のバグみたいなものなのかはわからないけど、実際にこうなっているというとこは確かだ。

 じゃあこのまま突き進めるのもありだけど、ここら辺でレベルアップを目指してもいい。

 ステータスの数値はこのままだけど、レベルアップは順調にしていくみたいだし。


「あ」


 そういえば配信をしているんだった。

 さっきは視聴者が0人だったけど――1人か、まあそうだよね。

 無名の探索者だし、大それたことをしたわけでもない。

 きっとこの1人っていうのも、単純な視聴者じゃないんだと思う。


「じゃあこのまま――」


 次の標的を探して周りを見渡そうとしたときだった。


「きゃああああああああああっ!」

「ん!?」


 そんな悲鳴が響き渡ってきた。

 声が響いてくる方向は、正面。


「……行くしかないよね」


 今の自分だったら、と判断して声の方へ走り出した。

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