異世界帰還者、現実世界のダンジョンで新米配信者として活動を始める。~異世界では勇者とかではなかった役職もない冒険者、現地で手に入れた装備・知識・経験を活かして最速で成り上がる~
第3話『探索者として活動するなら、配信者もやる』
第3話『探索者として活動するなら、配信者もやる』
「――これで、記入していただく書類は以上になります」
つい普通に話をしていたけど、いざ文字を書こうとすると迷ってしまった。
もはや忘れかけていた自分の名前もさることながら、久しぶりに目を通した日本語は外国語と大差なく思えてしまう。
「それで、記入後の話というのは?」
「これから先、私達の支援があるにしても生活のための基盤を築く必要があります。住居は問題にしても、収入面は確実に」
「ですね。でも、僕はあっちの世界では自分の腕で稼いできたので問題ないと思いますが? ダンジョンで何かしらの収入を得られるんですよね?」
「はい、その通りです。モンスターからドロップする
「なら、やっていることはあっちの世界と大差ないので大丈夫そうです」
僕が現実世界から異世界へ召喚させられたのは14歳。あっちの世界で生活していた期間が、大体2年間だから、たぶん今は16歳。
社会で生活していくうえで勉強するべき期間を戦って過ごしていた。だから、こっちの世界でいざ何ができるのかと言われたら、共通して戦うことしか能がない。
「そこでです。配信者として活動してみてはいかがでしょうか」
「小難しいことはできないですけど、僕は演者として大丈夫なのですか?」
「ええ、全然問題ないと思いますよ」
「詳しいことはわかっていないですけど、ダンジョンでモンスターを倒し続ける感じですよね?」
「はい、その通りです。
配信というものはあまり馴染みがない。
14歳までの人生で、インターネットに触れる機会はほとんどなく、身近に会った映像の媒体と言えばテレビぐらいだった。
「こちらで生活をしていた時は、おいくつぐらいだったのですか?」
「14歳でした」
「――となりますと、動画や生放送などのインターネットにはあまり馴染みがなかった感じですか?」
「はい。観ていたのはテレビぐらいで」
ここまで話をして、僕の緊張と警戒心が緩んできてしまったのだろう。少しだけ不安に思っていた気持ちが表情に出てしまっていたようだ。
「では、こちらのタブレットで一緒に観てみましょうか」
テーブルに置いてあった端末を、受付嬢は中央まで移動させて操作を始めた。
「スマホより画面が大きくて観やすいですね」
「あ~そうですよね。他にもいろいろありますよ、ノートパソコンとか」
「実は僕、自分のスマホを持ったことがなくて。タブレットとかノートパソコンを間近に見るのが初めてなんですよね」
「当時は14歳ですものね。でしたら、後で部屋に両方プレゼントとして届けますね」
「え、いいんですか?」
「もちろんです。全て経費ですし、監視用のチップやらなんやらを埋め込んだりしません。しっかりとプライバシーは尊重されますので」
「そんなことを言われると逆に気になっちゃいますけど……ありがとうございます」
文明の利器に触れるのはいつぶりだろうか、と少しだけ期待に胸が膨らんでいく。
しかし何をする代物なのか、どう操作するのだろうかと思考を巡らせていたら、タブレットが目の前に差し出された。
「そこそこダンジョン配信っていうのはされているんだけど、目立ったジャンルとしては確立してはいません」
「今の時代がどんな感じかわかりませんけど、かなり珍しいと思うのですけど」
「その通りではあるんです。でも、視聴者層としては刺激が足りないという意見があったりします」
「刺激って……」
少なくとも、ダンジョンでモンスターと戦っているんだから刺激的な場面ならいくらでもあるだろうに。
もしかして、先駆者たちの攻略を見慣れてしまっているとか?
「これはまさに、今の時代だからこそでもあります」
「と言いますと?」
「やはり皆、自分の命が大事ですからね。どうしても戦い方が安全第一になってしまうんですよ」
「ああ、なるほど」
僕も身に覚えがあるから、その気持ちは十分に理解できる。
「それ自体になんら悪いことはないんですけどね。どうしても、安全策ばかりだと視聴者側は退屈してしまうようです」
「……気になったのですが、現在のダンジョン踏破階層数ってどれぐらいですか?」
「――現在の到達階層は、第12階層までになっています」
「なるほど……」
受付嬢の目から覇気が消えたような気がした。
まだ自分で経験していないからなんとも言えないけど、察するに芳しくない状況なんだろう。
――あ、そういうことか。
「いろいろとわかりました」
「何がですか?」
「物珍しさや話題性、身の安全を確保されているだけではなく、この待遇の良さ。要するに、僕はこの好待遇に応えなければならない、ということですね」
「……残念ながら、私は上の人達の考えを通達されてはいません。ですが、たぶん
探索者、なんて職業があるぐらいなんだから、ダンジョンにはそれほどの価値があるんだろう。
であれば、ダンジョンを保有している国のお偉いさんからしたら、もっと到達領域を拡大してさらなる資源調達を望んでいるはず。
受付嬢が好奇心から提案しているかどうかわからない、配信についても納得がいく。
国や組織が僕のスポンサーとして資金援助などを行い、活躍を発信する。その結果、探索者の人口を増やし、更なる資源調達を実現させる。
そして極めつけは、話題が国内から世界へと情報を発信し、何かしらの牽制を計るという感じに。
異世界から帰還したばかりで右も左もわから……なくはないけど、事を急いで思考の整理をさせない内に取り込もうという考えか。
「……」
「どうかなされましたか?」
今更ながらに、この受付嬢だって全てが演技の可能性だってある。
つい黙り込んで眉間に皺を寄せてしまったけど、ここは従っておいた方がいいだろう。
異世界ではどうにでもなったことが、こっちの世界ではそれはできない。
表情を整えて、疑われないようにしないと。
「ごめんなさい。久しぶりの現実世界で、緊張も解けてきたのでお腹が空いてきちゃいまして」
「ああ、それもそうですね。こちらこそすみません、そこまで配慮ができていませんでした」
「いえいえ、真面目の話をしている最中にいけませんね」
当たり障りのない態度を続けて、柔らかい表情で笑う。
相手に不信感を抱かせないのが今は大事。
「でしたら、本日はこのままお食事を摂っていただいてお部屋で――」
「それはそれでありですけど、せったくなら見学程度にダンジョンへ行ってみたいです」
「もしかして先ほど体を動かしたから、疼いちゃってる的な感じですか? もっと暴れたい、みたいな」
「まあ、そんな感じです」
「ここから一番近い場所ですと、建物内にある食堂ですけど、いかがなさいますか? 外に宣伝できるぐらいにはとても美味しいラインナップになっていますが、他の場所になさいますか?」
「では、その食堂でお願いします」
「わかりました、では早速行きましょうか」
こっちの食事……あまりにも久しぶりで、楽しみではある。
でも、食後のダンジョンに備えて、食べる量は控えめにしないとね。
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