異世界帰還者、現実世界のダンジョンで新米配信者として活動を始める。~異世界では勇者とかではなかった役職もない冒険者、現地で手に入れた装備・知識・経験を活かして最速で成り上がる~
第1話『異世界から帰還した冒険者、探索者となる』
異世界帰還者、現実世界のダンジョンで新米配信者として活動を始める。~異世界では勇者とかではなかった役職もない冒険者、現地で手に入れた装備・知識・経験を活かして最速で成り上がる~
椿紅 颯
第一章
第1話『異世界から帰還した冒険者、探索者となる』
「早速ですが
部屋の中には、僕と自称受付嬢を名乗る女性が2人だけ。
互いに1人用のソファーに腰を下ろし、テーブルを挟んで向かい合っている。
「随分と急な用件ですね」
「こちらの世界に帰還されて、まだ1時間しか経過していないことは存じております」
それがわかっているんだったら、少しぐらいは休ませてくれてもいいんじゃありませんか? ……なんてことをお願いいたところで、開放してくれなさそうだよなぁ……。
この部屋パッと見、大事な話をするとき用の部屋っぽいし、目の前に座っている受付嬢さんは眼鏡をかけていて頭の回転が速そうな印象だし。
僕がこのまま駄々をこねたところで、綺麗に言い包められそうだから諦めるしかない。
「何もわからないのですが、説明はしてもらえますよね?」
「はい。と言いましても、
「僕が居た世界について詳しそうな言い方ですね」
「詳しいというわけではありませんが、ある程度は把握しています」
ここに来るまで移動している最中、街並みなどを見て、異世界に転移させられる前と全くと言っていいほど変わっていなかった。
文明もそうだ。
僕が以前、小さい子供ながらに描いた未来図のような展開になってはおらず、車やバイクが空を飛んでいるわけではなく、口を動かさずに人同士で会話をしてはいない。
「……わかりました。でも、僕が知っている世界ではそのような役職を仕事にしている人は居なかったと思うのですが」
「――なるほど、そういうことでしたか」
眼鏡をクイッと上げていますけど、何が『なるほど』なんですか。
「どうやら
「え? 帰ってきてまだ時間が経っていませんが、この世界は僕が知っている世界で間違いありませんでしたよ?」
「雰囲気で話を進めておりますので」
「はい?」
……まさかそんなはずがない。
そ、そうだ! これは高度な心理戦。そ、そういうことなんだ!
「こちらにどれだけの情報量があるかを把握しようってことですか」
このままうろたえることなく、表情を変えずにこちらも相手の出方を窺えばいい。
「そこまで構えなくて大丈夫です。ちょっと私が想い描いているような世界と一緒なのか試していただけです?」
「ど、どういうことですか?」
「簡単に言いますと、異世界から帰還したという人間を監視下に置くための処置――というわけです」
「は、はぁ……」
な、何を言っているんだこの人は。
「突然と姿を現した
「なるほど、そういうことだったんですね」
我ながら、突然この世界へ帰ってきたのは自覚している。
しかしなるほど。僕が帰ってきたら目の前に大勢の人間が居たのはそういうことだったのか。
「――いろいろと把握できました。ですけど、探索者というのは何をする仕事? なんですか」
「信じられないと思うのですが、先ほど申しました通り、
「と言いますと?」
「この世界には、ダンジョンがあります」
「ダンジョン……って、この世界にですか?」
そんなことある?
僕が知っている現実世界に、異世界で聞き馴染みのあるダンジョンが?
「ダンジョンの中にはモンスターが徘徊していて、討伐したら何かしらをドロップし、銃……より剣などで戦闘するということですか?」
「おお、おぉ!」
僕が知っていることを並べてみた。
すると、受付嬢は机に手を突いて前のめりになっている。
今までの冷静沈着なイメージは一気に吹き飛び、それと同じく僕の緊張も吹き飛んでいった。
「凄い! 凄いですね! もちろん、それらは実体験なんですよね!?」
「そ、そうですけど。とりあえず落ち着いてください」
「これは失礼致しました」
「あの、もしかしてなんですけど。受付嬢さんは、ファンタジーの世界がお好きなのですか?」
「良くぞ訊いてくれました! はい! 私、とってもファンタジーの世界が好きなんです! ですので、今回の対応も自ら志願しました!」
えーっと……つい数秒前まで、催促された後はさっきの冷静な感じになっていましたよね? 一息吐いて、眼鏡をクイッてやってましたよね?
それがどうですか。今、鼻息を荒くさせながら立ち上がっちゃってますよ。
こんなに感情を露にされてしまっては、もうあなたのイメージは冷静沈着から、喜怒哀楽の表現が激しい人にしか見られないですからね?
「わかりましたから、深呼吸して座ってください」
これじゃあ、どっちが客人を対応している側なのかわからなくなってきましたって。
「それにしても、帰還された時の映像は凄かったですね」
「そうでしたか? 僕は目を開けたらあそこに居たのでわかっていませんが」
「なんと言いますか、空間にぽっかりと穴が開いたと言いますか、辺りに竜巻や電撃が走ったり、地面が燃えているのに広がらなかったり。それはもう、私の心をこれでもかと揺れ動かすものでした!」
「そうだったんですね」
ああもうダメだ。この人、自分がキャラ崩壊していることに躊躇いがなくなってきた。
「ま、魔法とかって使えるんですか!?」
「さあ、どうなんでしょ。少なくとも、あちらの世界ではありましたけど、こっちで使えるかどうかはわかりません。1つだけ言えるのは部屋の中で使用したらどうなるかわからないことですかね」
「た、たしかにそうですね。部屋どころか施設がなくなったり燃えてしまったら、私の責任になってしまいます。でも見たい……」
すんなりと理解して建前まで言っているのに、最後で本音が漏れてますよ?
「――さて。ここまで楽しませていただきましたので、規則を破ります」
「え?」
「口止めされていることを今から話します。
「……いろいろとツッコミを入れたいところですけど、わかりました。教えてくださりありがとうございます」
「いえいえ、私はただ恩を仇で返す真似はしたくないだけです。それと、私達と国とでは考えが少し違っていまして、
「世界に認められたら、僕も普通の人間としてこの世界で生活ができるようになる。ということですか」
「そういうことです」
どこからどこまで信用していいのかわからない。
もしかしたら、この話をしてくれていることすら何かしらの計画で、油断を誘っている可能性だってある。
元々住んでいた世界だっていうのに、これじゃあ気が休まらないな。
「ですので、お住まいなどはこちらでしっかりと手配済みですので安心してください」
「わかりました、ありがとうございます」
あっちの世界では、召喚された人間だからということでいろいろと優遇してもらっていた。
それが、こっちの世界でも同じようになってしまうなんて……これじゃあ二度目の異世界召喚をされた気分になってしまう。
「それで最後に」
突拍子もない受付嬢であったけど、咳払いを1回だけしたと思ったら最初のような落ち着いて雰囲気を身にまとい始めた。
「すでに
「ですよね」
「なんとか情報規制を試みたのですが、今の時代でそれは不可能でした」
なんだか懐かしいな。やっぱり、僕が異世界召喚される前とそう差は無さそうで安心した。
「ではいっそのこと、ダンジョンで配信をしてしまってはいかがでしょうか」
「え」
「隠しきれないのでしたら、自分から情報を発信してしまえばいいのです!」
あれ、なんかまた鼻息が荒くなってきてません?
今さっき、良い感じの雰囲気を
「そうすれば、私もその雄姿を見ることができます!」
あーあー、なるほど。それが本音ですね。とーってもわかりやすい性格をしていますね。
「ええ、私の作戦は完璧です! どうですか!? 私が上司へ直談判してきますよ!」
「……保証はできませんよ」
「なんの保証ですか? そんなの関係ありません!」
「どうなっても知りませんよ」
「私に任せてください!」
また立ち上がってるし。
そんでもって、体の前で腕を小刻みに振って興奮しているだけじゃなく、目をキラッキラに輝かせているし。
「期待しないでくださいね」
「期待しかありませんよ!」
はぁ……僕、これから本当に大丈夫そう?
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