ロリコンのいない異世界で迷宮ランドセル

アイディンボー

第1話 底辺派遣職、ホームレスの一歩手前

 朝と言うかもう昼に近い時間、ダラリとした目覚め、どうせ早く起きてもする事はないし、

 安っぽい香辛料と合成油のカップ麺、近所の安売りスーパーの投げ売りで、二食でも缶ジュース以下の値段、賞味期限が近くなると価値が下がっていく、まるで今の自分を見ている様だ。

 3か月の派遣を切られた俺、貯金の残高は少しずつ減って行くけど、次の仕事は見つかりそうもない、履歴書に派遣三カ月が続くと、正社員としての採用はほぼ無い、派遣職か期間工みたいな仕事ばかり、

 壁の薄いアパートもいつまでいられるのか。


 一人でいてもろくでもない事ばかり考えるので、電車に乗ってデパートの催事場でアニメ絵師の原画展に来た俺。


 中学時代はとり憑かれたように観ていたアニメだが、

“この角度からの画角がすごい”

“デフォルメする場所はしっかりデフォルメしているんだ”

 なんて批評家みたいな感想しか出て来ない、これが歳をとったと言う事か、思っていたよりもときめかなくて残念な気持ちで下りエレベーターに乗った俺、


“ポォーン”と言う音と共に開いた扉、冷たい風と石の臭いが吹き込んで来る、

「おい、これどこだ?デパートじゃないよな」

 俺より少し歳上の男が出て行き叫ぶ、


「ようやく召喚の扉がつながりましたか、ようこそ迷い人殿」

 白い髭に、おかしな形の帽子、派手な宝石が嵌った杖をもっている、

教皇、法王、法主、教祖、神主……なんて呼び名かは知らないが、宗教指導者と一目で分かる老人が芝居かかった仕草で俺達に話しかける、


「おい、そこの教祖、ここはどこだよ」

 掴みかかる勢いで白髭の爺さんに向かって行った男は八事と言う名前だそうだ、歳は30位かな、26の俺よりは歳上に見える、


「そうよ、わたしはデパートにいたの、早く帰しなさいよ、訴訟レベルよ!」

 キャンキャン吠えかかる女性は鶴舞瑞穂さんと言う20代後半くらいの女性、


 俺は隣にいたブレザーの少女に訊いてみる、

「なぁ、俺達はデパートのエレベーターに乗っていたよな?」

「そうですね、原画展を見た帰りでした、お兄さんも原画展にいましたよね」

「ああ、あのアニメ好きなんだ?」

「アニメはそれ程でもないですけど、絵師さんが気になっているのですよ、世界観が独特ですよね」

 オタクは異世界に飛ばされても平常運転、オタク女子中学生は東山伏美と言うそうだ。



 二人は強制的に転移させられた事に抗議している人の話を聞いている、

「……望んだ者を呼び寄せただけだ、なんて言って勝手に拉致しておいて、何をいっているんだ、明らかに違法だろう!」

「そうよ、あなた達の都合じゃない、わたしは明日から会社があるの、早く返してよ!」

 それにしても八事さんと瑞穂さんは抗議の言葉が途切れる事が無い、良く聞いていると同じ言葉の繰り返しだ。


 マシンガンは弾切れを起こしたのか、それとも議論に負けたのか、結局転移した4人は歓迎の晩餐に呼ばれる事に、

「これって、王様が出て来る流れですかねぇ?」

「きっとイケメンの執事と可愛いメイドさんが出て来るよ」

「ありそう!」

 俺とオタク女子中学生の伏美はすっかり今の環境を楽しんでいる、


 なんと晩餐会では本当に王様が出て来て、俺達に頭を下げる、

「この度はわが国を救う勇者の皆さんが絶望の扉を開いてくれた事まことに感謝する、色々思う所があるかも知れないが、我々としても最大限の援助をしていくので、どうか我が国を助けて欲しい」


「その事で質問があるわ」

 20後半の女性瑞穂さんが王様の言葉を遮る、

「さっきから“しょーかんし”の人達に訊いても、絶望した人間がこちらの世界に呼ばれたの? わたしは絶望なんてしてないわ、月曜までに返してください、月締めの検収が溜まっているのよ」

「ここにいる四人全てが絶望したので扉が開いたのです、瑞穂殿よ、あなたの胸の内に絶望は無いのか、問いかけてみてはいかがかな?」

 瑞穂さんは王様の言葉を聞くと黙ってしまった。



 俺が人生に絶望したのはいつだったか、三ヶ月で派遣を切られた事か、新卒で入った会社を二週間で辞めた時か、志望している大学に入れなかった時か……

 遡っていくと、小三の時に親が離婚した時にまで遡った、

 他の三人も黙ってしまったから色々思う所があるのだろう。


 ▽


 目が覚めたら知らない天井、残念ながら異世界に来た事は夢ではなかった訳だ、昨夜のお通夜みたいな晩餐会では、異界の扉をくぐった迷い人には特殊な力が備わると言うので、その力を王国の為に生かして欲しいと言われた、

 俺にもチート能力が備わったのだろう、今のところステータス画面は見えないけど、サクッと魔物を倒しておきますか。

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