第6話 転化の能力

「キャァ!!」


お姉さんの悲鳴だ。

ゾンビが入り込んだのかな。だとしたら少し厄介でもある。

よし、ゾンビだったら僕の経験値になってもらおう。


『むにゃ……どうしたのマヒロ……』


『ごめん、起こしちゃってゾンビが侵入したかも』


『えぇえ~しょうがないわね』



 


 


「静かにしろ!ヤツに聞こえるだろうが!」


「お願いです……もう、こんなことやめて……」


「誰がお前らをここにかくまった?誰がお前らに食料を与えた?対価を払えと言っているだけだろうが」


店内に入るとそんな会話が聞こえてきた。


あぁ……なるほど、そういうこと。


やっぱり人間どんな状況になったって欲望は抑えられないんだね。特にモラルが消えたこんな世界じゃ。


どうしようかな。ゾンビが原因じゃないならもういいか。

厨房には入るなって言われてるし。


戻ろうとしたとき、暗がりの陰に隠れて誰かがうずくまっているのに気づいた。

もうひとりのお姉さんだ。


『なにしてるんですか?』


こっちのお姉さんは眼鏡をかけているからメガネえさんだな。

メガネえさんは、僕の姿を見て一瞬ビクついたけどすぐにもとの体育座りの姿勢に戻った。


「なにって……嵐が過ぎるのを待っているだけ」


『そうですか。それじゃおやすみなさい』


「彼女のこと、助けないの?」


変なことを聞くな、このお姉さんは。


『僕にお姉さんを助けるメリットがないので』


「……そうよね、あなたは他のゾンビとは違って特殊だけど、やっぱりゾンビだもんね……所詮、化け物か」


――カチーン


『お姉さん、はっきりさせておきたいんですけど、僕は消去法でここに滞在しているだけです。気分が変わればあなたたちはただのです』


僕がそう言うと、メガネえさんはカタカタと震えだした。

脅しは効果的すぎたかな。


……はぁ。


僕も大人気なかったかも……


『分かりました。様子、見てきます』


そう言って僕は厨房に向かった。


 




 

「このッ……恩知らずが!」


おじさんがお姉さんに手を挙げたところで、僕はその手を掴んだ。


「うわぁ!!」


そんなに驚かなくてもいいじゃん……


『おじさん、うるさいです。眠れないので静かにしてください』


ま、ウソだけど。


「な、なぜ厨房に入って来た?!は、離せー!この化け物ッ!!」


おじさんが無理に僕の手から腕を引き抜いたから、僕の尖った爪が引っかかって少しおじさんの手を切ってしまった。

その隙に半裸状態のお姉さんはおじさんから離れて僕の後ろに隠れた。


「ぐぁ!やはり、やはりお前は最初からそのつもりで!」


『そのつもりも、なんのつもりもないです。それじゃ僕は行きます、おやすみなさい』


「マヒロさん……ごめんなさい……ありがとう……」


『もういいですか?大人しくしててくださいね』


「分かりました……大人しくしているので、あなたのそばにいてもいいですか?」


えぇ……正直、ダメって言いたいけど、またおじさんがお姉さんを襲うかもしれないからな……


『まぁ……いいですけど……』


ダフネのため息が念話で聞こえてきた。僕だってため息つきたいくらいだよ。


「ふざけるなよ……だっれがぁ、いいいととと……いリュ、ぐ、ァ」


――おじさんの様子がおかしい。


ロウソクで照らされた厨房の中、おじさんの手から黒い血管が全身に走り渡っていくのが見えた。

そして、みるみるうちにおじさんはゾンビに転化していった。


おじさんの手……さっき僕に引っかかれた傷から転化していってる。

どうやら僕は、人間を引っかいただけでもゾンビに転化させることができるらしい。


『下がっててください』


邪魔なお姉さんを厨房から出してゾンビになったおじさんと対峙する。

お姉さんはメガネえさんと一緒にレストランの客席の方へ逃げていったようだ。


「ふザッケル、ファ!がゲッゲッ……」


僕が引っかいてから1、2分てとこか。

ものすごい感染力だな。自分でいうのもなんだけど、これは人類滅亡するわ。


言葉の割にはなかなか襲ってこない。放置しててもいいけど、後で厄介になるだろうし。


フラフラと左右に身体を揺らすおじさんの頭を掴む。

そしてそのまま壁にゴッと打ちつけてあげた。

おじさんは壁に血をべったりとつけて座り込んだら、ピクリとも動かなくなってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る