【3分間無敵】だが呪われてる俺、NTRたら前世の記憶が蘇ったので、Sランクパーティーの『実験体』を辞めて、本気で攻撃手段を探そうと思う
夕
第1話 NTRたら記憶が蘇った ①
◇◇◇◇◇
――日本 都内某所
ガキンッ!!!!
「お、おい、これやばいだろ?」
「は、はぁ? お前がやったんだろ!!」
「どうすんだよ!? マジで!!」
「き、気持ち悪い!! の、脳みそが!」
ガキたちが騒いでいるが、「おぇええっ……」と嘔吐する音はだんだんと遠くになっていく。
頭が痛い。死ぬほどに……。
寒い。いや、熱い?
なんだかもうどうでもよくなってきた。
ドロッ……
……脳みそってあったかくて柔らかい。
あぁ。クソみたいな人生だった。
※※※※※
「ぁっ、んんっ、はぁっああっ!!」
俺の恋人であるシャリアが恍惚とした表情で喘いでいる。
「はぁ、はぁっ、最高だ!!」
俺が所属しているSランクパーティーのリーダーを務めているネグサロは必死に腰を振っている。
ボトボトッ……
俺は夕飯の食材を床に落とした。
ハッとした様子で2人は俺を見つめる。
女は焦ったように、男は気まずそうに。
俺は強烈な既視感とめまいに襲われる。
「す、すまん、“リノアード”……」
――す、すみません。“課長”……。
ヘラヘラと笑いながら謝罪するネグサロと前世の部下が重なり、「はぁ〜」とため息を吐いたシャリアと前世の妻の姿が重なる。
あまりに衝撃的な光景を前に……、
(……ぁっ。俺、転生してたわ)
俺は他人事のように心の中で呟いた。
前世の俺はこのまま逃げ出して夜の公園のベンチで項垂れていた。そこにガキ共が来て「金を出せよ」って……、自暴自棄だった俺は抵抗して、鉄パイプで頭をかち割られて、そのまま死んでしまったんだ。
NTRて、親父狩りに遭って、そのまま……。
まさに踏んだり蹴ったりの前世の最期。
(ハハッ、異世界でもNTRんのかよ……)
俺は顔を引き攣らせた。
そりゃそうだろ? こんなことってあるか?
俺にそんな性癖はない。
前世でも今世でも、上手くやれてると思っていた。
そりゃ贅沢はさせれないが、必死に仕事をしてお金を稼いだ。辛いことも苦しいことも1人で耐え、家では笑顔で過ごした。掃除も洗濯も食事も……。時間を作って、そのほとんどを俺がしていた。
2人とも、俺にはもったいないような美女だ。
前世は変わり映えのない毎日に彩りをくれた女。
今世は“呪われた俺”のそばにいてくれた女。
前世も今世も……、こんな俺と一緒になってくれた感謝を忘れることなく尽くしてきた。
……本当に共通点が多すぎる。
NTRにも耐性というヤツがあるのか?
不思議と冷静でいられる自分がいる。
あぁ。なるほど……。俺は……、ただ単純に女を見る目がなさすぎるって気がついたからだ。美人に目がないのがよくなかったのかもしれない。
前世での失敗を繰り返した俺が、異世界に来ても“俺のまま”だったことに安堵したのかもしれない。理由はわからない……いや、“あの日”の続きから始められることに気づいたからかもしれない。
(ハハッ……、顔は違うけどマジでそのまんまだな)
なにも喋らない俺に2人は対照的な表情。
ネグサロは気まずそうに俺の顔色を伺い、シャリアは悪びれる様子もなくそっぽを向いている。
まさに、見たことのある光景だ。
男は全裸で正座していて、女も全裸で俺と目を合わせない。
(とりあえず……。ふっ……、ここで自暴自棄になってどこかのベンチで放心しないってことだな)
親父狩り……って、今世の俺はまだ21だが、ここで死ぬことがないようにしないといけない。
前世を思い出したんだから同じ轍は踏まない。
「とりあえず、服着れば?」
「あ、あぁ! いや、こんなつもりじゃなかったんだけどな? 気がついたら、なんか、その……! も、もうしない! 本当に悪かった!!」
ネグサロは舐めた事をペラペラ喋りながら服を着るが、シャリアは俺を無視したまま。不思議と殺意が湧かないのは愛情なんてものは冷めきっているからだろう。
前世を思い出せてよかった。
自分が転生者で、ここが異世界でよかった。
ただ、このまま帰らせるのも面白くないよな?
「――まあ、なんだ、この事はお互い忘れよう! そういえば、給金をあげてくれって言ってたよな? あの時は色々と言ったが、お前はパーティーに欠かせない存在だし、当然の権利だと思う!!」
「……」
「ょ、よし! 俺の権限でいまの倍は用意してやるからな! 絶対に悪いようにはしない! そう約束、」
「なぁ、ネグサロ。ニノンとどっちが良かった?」
「……ッ!! な、なに言って、」
「お前の婚約者と俺の恋人……。どっちがよかった? 随分と気持ちよさそうにしてたが」
ガシッ!!
「リ、リノアード!! ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
ネグサロは俺の胸ぐらを掴んで俺の名前を叫ぶ。
ニノンはネグサロの婚約者で、パーティーの回復職(ヒーラー)だ。同じパーティーなんだからもちろん俺と面識がある。
ニノンは変わり者の冒険者。
伯爵令嬢……つまり、相手は貴族だ。
この事がバレたらネグサロはただじゃ済まない。
貴族ってのは冒険者を下に見る風潮がある。
だが、Sランクパーティーのリーダーっていう肩書きがあるからこそ婚約に至ったのだ。
婚約中に不貞を働いたなんてバレたら首が飛ぶ。
「なんだよ、この手……。自分の状況わかってるのか?」
俺は平然と言ってのけた。
こんな恐喝まがいなことはしたくないが、コイツの機嫌を取る必要はもう無くなったんだ。
俺は、この状況で【絶対切断】のスキルを持つネグサロから逃げる手段を持っている。雑用もこなしている俺がメンバーの所在を知っているのは当然として、ニノンの元に辿り着くなんて朝飯前ってことだ。
「…………ッ!!」
手を離したネグサロは顔面蒼白で呟く。
「ど、どうすれば許してくれる……?」
やっと顔からヘラヘラした笑みが消えて俺は満足だ。
「自分のち○こ斬れ、ばぁか」
「ッ!! テ、テメェ!!」
「ハハッ。冗談だよ。……ここにある全財産を置いていけ」
「……はっ?」
「慰謝料だよ。俺は深く傷ついたんだ。それを金銭だけで許してやるって言ってるんだよ、ネグサロ……」
あれ? 慰謝料って結婚してないと貰えないんだったか? 正直、前世の記憶とこんがらがってるが、散々こき使われた分の対価も考えれば別にいいだろう?
俺がそんな事を考えていると……、
「……ゎ、わかった。これでいいだろ?」
ネグサロは腰につけている巾着を外して俺に手渡してきた。当然のごとく受け取りながら、「ん?」と小首を傾げる。
「いいな! この話はこれで終わりだ! あとから文句言ってみろ……。俺だって容赦しないからな? お前のスキルは知ってるんだ。あまり調子に乗らないことだな……」
ネグサロはドヤりながら、ガチャガチャと装備を持って出ていこうとしている。
「えっ? ぉ、おい、ネグサロ」
「なんだよ? いつも通り情報収集と食料とか準備しておけよ? 2日後からまたクエストだからな!」
ヒラヒラと手を振って扉に手をかけるが……、
「いやいや、当然パーティーは辞めさせて貰うし……、それは俺を舐めてるってことでいいのか?」
俺はネグサロの装備を指差しながら首を傾げた。
「……な、なに言ってんだ? 今、俺が持ってる金はそれで全部なんだぞ……?」
「全財産を置いてけって言ったんだけど?」
「言ったよな? あまり調子に乗るなって……」
「……ハハッ。うっかり口を滑らせちゃう前にさっさと置いてけ」
「……テ、テメェ……」
ブチ切れているネグサロの気持ちもわからないでもない。なぜなら、コイツの装備は超一流のものばかり。中でもオリハルコンの剣は伝説級の代物だ。全ての装備を売るとしたら、10億リルはかたい。
ただまぁ、俺だって鬼じゃない。
貰ったところで、“装備はできない”しな。
「つ、使えもしねえくせに!! お前には持ち上げることすらできねーだろうが!! ふざけるのもたいがいに、」
「安心しろよ。3億リルで売ってやる」
「リノアードォオ!! こんな女と寝ただけで、なんでそこまでしてやらないと行けねえんだよ!! お前がニノンの元に行くなら、俺がこの女を斬ってやるぞ!?」
「好きにしろよ」
「…………はっ?」
「それは脅しにならないって言ってるんだ」
「…………お前、この女が全てだって言ってたじゃねぇか」
「……そうだな……。ふっ、その通りだ」
「なにがおかしいんだよ?」
「だからこそわかるだろ? 俺にお前は殺せない。だから、たとえお前に殺されてでも、ニノンに伝えるために俺がスキルを使いかねないって……」
「……」
「金が欲しくて言ってるわけじゃないってのはわかるだろ? もう死んでもいいって俺は思ってるからな……」
「リノアード……」
「3億リル……。それでお前の命を買えよ……」
みるみる青ざめていくネグサロ。
もちろんブラフだが、効果は絶大だったようだ。
「…………ま、待ってろ。金を……取ってくる……」
ガシャンッ……
乱暴に置かれたネグサロの装備。
扉を潜る背中は小さく見える。
(ざまぁない……)
その背中を嘲笑いながら、俺は恋人シャリアと2人きりになった。
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