「主人公死亡...そして世界は救われた」というメリバのRPGへ転生した私は、運命から主人公を救います!でも転生先は敵国のスパイ!?

ろきそダあきね

第01話【幻想のオド】へ

 メリーバッドエンド……ハッピーエンドかバッドエンドか、たとえ主人公が死んでも彼がそれを納得していれば、周りが幸せならバッドエンドではないのか……そんな受け手の解釈で分かれるような結末のことを指す言葉、通称「メリバ」と言われている。

 


 不登校16歳女子。自宅警備歴1年の新参者。


 最近では家族からも諦められてる存在である。


 わたしはコミュ障とかではなく、外に出ることも苦手なわけではない。


 それでも引きこもっていたのは、たまたま楽しいことが、すべて家の中にあっただけ……。


 家の中というか、部屋の中……四畳半というわたしの狭いテリトリー。少し手を伸ばせば、いつでもすぐに大冒険が待っている、と考える夢想家。


 動画を観たり、ゲームをしたり、漫画を読む。なんとなくゲーム実況して、応援してくれるみんなと笑ったり、怒ったり、泣いたりもした。


 有名ゲーム会社『トライアングル・リゼ』が手掛ける本格RPG【幻想のオド】。


 それの初見プレイを配信していたわたしは、トータル300時間を超える物語の最後を、号泣し過ぎて寝落ちするという形で締め括ったのだ。


 泣ける泣けるとは聞いていたけど……


 まさか自分の分身として苦楽を共にした主人公『フェルミ』が死ぬなんて……くっ……うう、切ないよぉ……なんて終わり方なんだ……!ゲーミングテーブルに台パンして泣き叫ぶ。


 最高のヒロイン『アメリ』との思い出が走馬灯のように流れていくエンディング……


 泣かせるBGM……


 嗚咽と涙で霞み、寂しいエンドロールが終わるとき……


「二人を幸せにしたかった……」薄れゆく意識の中、わたしはそんなことを呟いた。


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「ガウラ様、朝ですよ。いつまで寝てらっしゃるのですか?」


 う……ん……わたし……寝ちゃったんだ……ヤバっ!


「あぁ〜!配信切り忘れてない!?」


「ハイシン?何かお忘れでしたか?ガウラ様」


「うぎゃぁ〜!なになに!?人ん家に勝手に上がり込んで何してんの!?」


「――まだ寝ぼけてらっしゃるのですか?ガウラ様は一人では何も出来ないのですから、せめて意識だけでもハッキリさせておいて下さい」


 そう言ってわたしの顔を覗き込むメイド姿の美少女。ラベンダー色の髪、色素の薄い肌と瞳、彼女は表情無く冷たい雰囲気で詰め寄る。


 え?何この人!?丁寧そうに接してくれてるようで、言い方に棘が……同い年くらい?……かな。


「――っていうか、意味分かんないんだけど……これってどういう状況?……それに、ここどこなの?わたしの部屋じゃないじゃん!あなたも誰!?」


「ガウラ様……『ガウラ・ウラジール』様……どうされたのですか?ここはあなた様の寝室で、私は『ネオン』ですよ。私が誰だか分からないなんて、本当に失礼ですね……これは、ある種のイジメ……でしょうか?生意気ですね」


 ガウラ・ウラジール様?って……何言ってんのこの人……わたし『宇蘭うらん』なんだけど……それにこの人、可愛い顔してけっこう口が悪いし、無表情でちょっと怖い……。


 何がなんだか分からないけど、別の配信者がドッキリを仕掛けている?なぁんてことは……あるのかな……?見渡してもそれらしい物は……無い。


 ――え!?それどころか、この部屋……スイートルーム?格式高い中世ヨーロッパ風の造り……こんなところにどうやって運ばれたの!?


 ってこれがドッキリだったとしたら、わたしのリアクションは大丈夫!?


 もし仕掛けてくれているのが知り合いの有名配信者だったら?……邪険に扱うと炎上して、ただでさえ少ないリスナーが減ってしまう可能性も……いや、ここはあえて炎上狙いも有り?……カメラどこ?……わたし顔出ししてないんだけど、生配信じゃないよね!?


 ここは……このネオンちゃんという子の名演技に乗っかってやるしかない!


 よし!じゃあ、ここは大胆にベッドから飛び起きてノリのいい感じに!ウランちゃんってノリいいだねぇ〜面白い子だねぇ〜ウランちゃんの配信観てみようかな〜……とか……へへへ。


 ガバッとベッドキルトを剥がし、とぉ〜っとジャンプして仁王立ち!


「フッフッフ、ネオンちゃん!じゃあ、あなたは、わたしの専属メイドってことでいいのかなぁ?なぁ〜んて……って、ひぃぃ〜!何じゃこりゃ〜!?わたし服着てないじゃん!」


 豪華なベッドの上……真っ裸で仁王立ちするわたしは生まれたての姿!ネオンちゃんをカッコよく指差してはいるが、当然間抜けだ!っていうか恥ずかしいぃ……!生配信なら軽く死ねる……。 


「ガウラ様……とりあえず、お洋服をご用意しますね」


 あわあわと羞恥に駆られるわたしを見ても、ネオンちゃんは冷静に対応する。


 何これ、何これ、何これ、何これ、何これ……っていうか、この貧乳はわたしじゃない!いや、たしかに大きくはなかったけど……これじゃ小学生以下じゃん!


 うう……う……どうなってるの……別人みたいに身体が小さくなってる!たしか、わたしはゲーム実況中だったはず……視聴さんおすすめの【幻想のオド】をトータル300時間ほどプレイしていて……


 ラスボスの究極生物『ウタカタ』をやっとの思いで倒して……


 わたしの分身である主人公フェルミが、ヒロインのアメリを救うために命を落とす衝撃のラストに泣き過ぎて……疲れて……


 配信切らずに寝落ち……


 寝落ち?……本当に?まさか……死ん……


 だぁぁ!?死んだの!?わたし!……心当たりは……ある!睡眠不足、偏食、鎮痛剤の乱用による……オーバードーズ!おわた……。


 16歳、引きこもり底辺ゲーム実況者『ウラン』……オーバードーズ状態で大泣きし、興奮した挙句に頭プッツンって……しかも配信中……グロ動画を垂れ流してしまった。


 顔出ししてないのが、せめてもの救い。映像としては残っていない……うう……応援してくれたリスナーのみんな……特に応援してくれてた、古参の「カリキタ隊長」「ダルビッシュなしさん」「ミポリン総督」……ごめんなさい。


 う、うう……わたしは……死んじゃって異世界に転生したんだね……死ぬ前も貧乳だったのに生まれ変わっても貧乳って……ひどくない?


 いや、まだ成長するかもしれない!年齢も分かんないし、身体も小さいし、ワンチャン8歳くらいの可能性だって……。


 そうだ!そうに決まっている!わたしは『ガウラ・ウラジール』という女の子に転生して……ネオンちゃんという可愛いけど、ドSなメイドと住んでいて……え?ガウラ・ウラジール?


「ガウラ・ウラジールゥ〜!?」 

 

 そう……『ガウラ・ウラジール』とはさっきまで配信していたRPG 【幻想のオド】に出てくるキャラクターの一人!


『ウラウラ』の愛称で呼ばれているが、物語上では敵キャラだった!


 わたしの本名が『橘花宇蘭きつかうらん』だから、親近感は湧いてたけど、主人公とヒロインの邪魔をする帝国のスパイ!


 しかも、ヒロインの恋敵ポジション。物語中盤で、改心した『ウラウラ』は好きになった主人公フェルミを助けて死亡……泣ける中盤を盛り上げるキャラだ!


 一部の男性には人気があったようだけど、それは貧乳好きという特別な……はっ!ウラウラに転生ってことは、成長しても貧乳確定〜!?


「――どうされましたか?ご自分の名前をバカみたいに叫んで……頭おかしいですよ、気でも狂いましたか?」


「――いや、ネオンちゃん口悪っ!ねぇ……ここは【グロッサム】でいいの?わたしは何歳?」


 呆れたようにわたしを見つめるネオンちゃん。彼女は、一つ溜息を吐くと用意してくれた洋服を、慣れた手付きで着せてくれる。


「バカだとは思っていましたが、まさかここまで悪くなるとは……やはり、私がそばにいなければいけませんね」


「へ、へへ……お、お願いします」


 ネオンちゃんの毒舌にはツラいものがあるけど、助けは必要だ。転生したからにはこの状況をしっかり受け入れて、生きていかなければならない。


 ……物語中盤にはフェルミを助けて、わたし死ぬんだけどね……うう……。


「ガウラ様は現在13歳、ここは【グロッサム】の帝国都市『アリウム』ですよ。あなた様は生まれも育ちもこちらです……ハァ……そんなことも忘れてしまうなんて、それは裸で仁王立ちもしますね」


「――『アリウム』!?物語終盤で立ち寄る敵の本拠地!」


「――?……敵の本拠地?何を仰ってるのですか。敵の本拠地は王国『ブバルディア』ですよ……」


「――!あっ……ごめんなさい……そうでした」


 そうだ……『ウラウラ』はスパイだ。主人公フェルミの仲間として旅に出るけど、情報を帝国に流す役目……。


 最期はフェルミを好きになり帝国を裏切って死亡……わたしはそれを知らずに『ウラウラ』を主力メンバーとして育てていたから、ショックで落ち込んだのを覚えてる。


 でも13歳……設定はたしか15歳だったはず……つまり、わたしの寿命は2年!


『ウラウラ』はパーティでは割とサポート役。序盤で活躍するから成長が早かったのを思い出す。


 ヒロインの『アメリ』がサポート特化型だったのに対して『ウラウラ』は器用なイメージ……死亡が決まっていたから成長も早かったのかもしれない。


 死んじゃった時は、主力の『ウラウラ』がいなくて困っていたけど、後半で『アメリ』の怒涛の成長がその存在感を掻き消したんだ!


『ウラウラ』は最大レベルが50だったもんなぁ……


「ガウラ様……お着替え完了しましたよ」


「――あ、ありがとう、ネオンちゃん!」


 全身を鏡で確認する。か、可愛い……これがわたし?ネオンちゃんが髪もやってくれた。


 皇子系ロリータファッション……黒いショートパンツにブルーのブラウス、長いピンクベージュの髪を編み込んでまとめ……貧乳であることが少年感を出していて尊い。


 2年後も貧乳が確定しているのはツラいけど……。


「ネ、ネオンちゃん……わ、わたしって……可愛い過ぎない?なぁ〜んて……へへへ」


「ハァ……あなた様がお綺麗なのは理解してますが、ご自分でそれを言いますか?……不愉快です」


「ぐふっ……辛辣過ぎてツラい……でも、ネオンちゃんが可愛いから、なんも言えねぇ〜」


 ガクッと肩を落としていると、無表情のネオンちゃんがそっとわたしの頬に手を添える。ドキッと胸が胸が高鳴り、顔が上気する。


「しかし……おかしいですね、ガウラ様……あなた様は帝国貴族の三女という自由な立場を利用してかなりの我儘わがまま……そして高飛車で傲慢です。ですが、今日は別人のよう……本物ですか?」


 ゾクッとするような寒気とともに上気したはずの顔が青ざめていく……こ、怖い……。


「ネ、ネオン……ちゃん……わたしは……」


「ステータスを見せなさい。もちろん、私には半端な隠蔽スキルなんて通用しませんよ」


「――ス、ステータス!?」


 そ、そんなの……可視化出来るの?


「いよいよ、怪しいですね。『ステータス』を見せられないのですか?」


 戸惑っているわたしを見たネオンちゃんが、冷酷に見下ろす。圧倒的恐怖で手足が震える。


 こ、殺される!……そう感じるほどの殺気!

 

「どどど、どうしたら……?ス、ステータスオープン!って言ったらいいの!?」


 その瞬間!ブンッと目の前に緑色のモニターが映し出される。


 ――え!?これは……見覚えのある画面!


 ゲーム【幻想のオド】のステータス画面と同じもの!


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 ガウラ・ウラジール【橘花宇蘭きつかうらん

 Lv 1


 HP 20/20

 MP 50/50

 SP 10/10【10/10】

 

 物理攻撃力 5

 魔法攻撃力 39(+10)

 物理防御力 55(+50)

 魔法防御力 102(+100)

 チカラ 5

 魔力  29

 体力  5

 精神  2

 運   30

 

 ・魔法 ヒール小

 

 ・スキル 雷光 Lv1 

 

 ⚫︎【スキル 『オーバードーズ』】未解放

  

 ・固有スキル 『固有インベントリ』 LV1

 

 ⚫︎【固有スキル 『ウランの部屋ウランズルーム』】未解放

  

 ⚪︎【ユニークスキル 『ヘッドホン』】解放済み

 

 ※ () 内は装備補正

  【】内は本人にしか視認出来ない

 

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「さぁ、私にステータス確認の許可を」


 あまりの迫力にひぃ〜となりながらも必死で言葉を振り絞る。 


「ネ、ネオンちゃんに許可します!」


 そう言うと画面が赤く変わり、ネオンちゃんが静かに覗き込む……ど、どうなの?


「……ふむ……この貧弱ステータス……間違いなくガウラ様ですね。特にこの『固有インベントリ』スキル……これは1000万人に1人のスキルですから、どうやら本物のようですね。失礼しました」


 無表情で頭を下げるネオンちゃんから先程までの殺気は消えた。


「ぶはっ〜!ネオンちゃん怖すぎる〜!おしっこチビりそうだったじゃん!……う、うう……」


 緊張が解けてチカラが抜けたわたしは、座り込んで泣いてしまった。ステータス画面のアレやコレやは気になるけど、今はただ目の前の恐怖から抜け出せて涙が出る。


「……雰囲気はなぜか全然違いますが、泣き虫なところは変わりませんか……」


 ネオンちゃんは、そう言うとわたしを抱きしめてヨシヨシしてくれる……うう……ネオンちゃん……【幻想のオド】で登場してなかったのに……う、うう……推せる。

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