これっていわゆる転生?目覚めたら2077年の大日本帝国の高校生で国の未来を託されました

44年の童貞地獄

第1話 目覚めたら後明治8年、2077年の日本だった

目が覚めた瞬間、私は自分の身に何が起きたのか全く理解できなかった。


最後の記憶は、勤務する会社を夜8時に出て駅に向かう途中。

スマホをいじりながら信号を渡ろうとした時、突然眩しい光に包まれた。

そして鋭い衝撃――そこで記憶は途切れた。


けれど、今目の前にあるのは病院でも自分の部屋でもない。

いや、そもそも令和の日本ですらない。


天井からは無機質な光が漏れ、壁には木目調のパネルがありながら、その上にホログラムのディスプレイが浮かんでいる。

布団は軽くて温かいが、どうやら未来の素材のようだ。

窓には古風な障子があるものの、そこには奇妙な文字が投影されていた。


「後明治8年(2077年)4月6日」


「……後明治? 2077年?」


目を凝らしてその文字を見つめたが、意味が分からない。

私は1989年生まれ、現在35歳の北本英利。

IT企業で働く平凡なサラリーマンだ。

令和6年の2024年に生きていたはずなのに、どうしてこんな未来にいるのか。

そして、後明治という聞き覚えのない元号……一体何なのか?


起き上がろうとすると、体がやけに軽い。

手を見下ろしてみれば、若々しい細い手がそこにある。

自分のものではないと理解するまでに、数秒とかからなかった。

慌てて室内の鏡に駆け寄り、映る自分の顔を見た瞬間、頭が真っ白になる。


そこに映っていたのは高校生くらいの少年だった。


「……俺じゃない……」


さらに頭の中に別の記憶が流れ込んでくる。

名前は高階新生(たかしなあらた)。

どうやらこの体の持ち主らしい。

そして、この名前には「国を新しく生まれ変わらせる」という願いが込められていることも知った。


それだけではない。

この家のことや家族構成までもが自然に頭に浮かんでくる。

父は政府機関で働く厳格な役人で、母は明るく優しい女性。

中学三年生の妹と小学五年生の弟がいる。

どうやらこの家は「官舎」というものらしい。


「どうして……全部分かるんだ?」


私は混乱しながらも、自分がこの家族の一員としての記憶を持っていることを理解した。

しかし、それ以外――この時代の背景や社会の情勢については何一つ理解できないのだ。


「新生、起きた? 今日から新学期でしょ。朝ご飯できてるわよ。」


女性の声が部屋のスピーカーのような機器から聞こえてきた。

その声を聞いた瞬間、彼女が母親だと認識した。

まるで他人の記憶を借りているような感覚だ。

令和の北本英利としての記憶と、この後明治8年なる時代の高校生・高階新生としての記憶が同時に存在している。


「……うん、分かった。今行く。」


声も少年らしい声変わりしたばかりのものになっている。

私は洗顔をした後、自然と制服――黒い学ランに袖を通し、ボタンを留めた。

まるでそれが日常の習慣だったかのように動いている自分に驚きながら、朝食の席へ向かった。


朝食の席では家族が揃って朝食を食べている。

父親はいかめしい顔でホログラムのニュースを聞いており、母親と妹、弟は賑やかに話している。

令和の感覚では珍しい三人兄弟だ。


「新生、二年になって早々学校に遅れるなよ」


父親が低い声で言った。

北本英利としては初対面なこの人だったが、高階新生である今の自分にとっては父であり役人であり、少々おっかないことも頭の中では理解している。

私は素直に頷いた。


「分かってるよ」


自分の声が、家族の中で当たり前のように響いている。

それに妙な安堵を感じながら、朝食を食べ終えた。


朝食後、ふと父親が聞いていたホログラムニュースに目をやる。

画面には蝶ネクタイ姿でひげを生やしたどの時代から来たか分からない格好の男性が映し出されており、いかにも政治家らしい口調で何かを熱弁していた。


「帝国議会において、我が大日本帝国の経済政策が議論されています。後明治天皇陛下のご裁可のもと、帝都東京のさらなる復興・開発が進む予定であります」


「……大日本帝国?」


その言葉に耳を疑った。

令和の日本では「大日本帝国」なんて歴史の教科書にしか出てこない言葉だ。

それがここでは当たり前のように使われ、政治家たちが堂々と語っている。


ホログラムの右下には、日の丸と皇室の菊紋をあしらったデザインが表示されている。

この国が「大日本帝国」として存在していることを、頭では理解しても心が追いつかない。


私の名前は北本英利――だったはずだ。

埼玉県生まれの35歳、IT企業で働く独身のサラリーマンだった。

平凡な日常を過ごしながら、何の夢も目標もなく、ただ仕事をこなして生きていた。


けれど、今の私は高階新生という高校二年生で、この奇妙な未来の世界にいる。

そして、ここが「大日本帝国」と名乗る国家であることも、嫌でも理解させられた。


「俺……ここにいるの……もしかして……転生ってやつ?」


転生した理由も、この社会の成り立ちも何も分からない。

ただ、日常の中で感じる違和感だけが確かだった。

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