アクター(第5部)

水島あおい

第5部

第1話

函館の街を臨む一角に貝原直樹の墓がある。

貝原が亡くなって1年の歳月が過ぎていた。命日に矢野と寧々は揃って墓参りに訪れていた。

伊能まどかのマネージャーは延岡彩が務め、相変わらず多忙な毎日を過ごしていた。


「おはようございます」

矢野と寧々はダイニングで食事をしていた。

其処へ矢野のマネージャー森信真来がやって来た。

「矢野さん、寧々さんおはようございます」

「おはよう、真来ちゃん」

「真来ちゃん、今日の予定は?」

矢野がエスプレッソを飲みながら訊く。

「9時から雑誌の撮影とインタビュー、11時からテレビの収録、13時からドラマの撮影。本日は19時までの予定です」

それを聞いて寧々の顔がパッと輝いた。

「私も今日19時までなの。いっちゃん、外に食事に行こう」

「真来ちゃん、頼むよ」

「分かりました」

森信真来は23歳。マネージャーとしてはまだ2年目である。

何故こんな新人が矢野のようなベテランに着いたかといえばそれには理由がある。矢野にはマネージャー歴10年の森口が専属で付いていた。だが森口の父が亡くなり、家業を継がねば

ならなくなったため、故郷の宮崎に帰ったのである。


「僕が矢野一色さんのマネージャーを⁈」

いきなり社長室に呼び出された森信真来はすっかり仰天してしまった。

「とんでもない!僕なんかまだまだ新人です。とても矢野さんのマネージャーなんて勤まりませんよ!」

森信真来の言葉を聞いて、社長とチーフマネージャーの船木は顔を見合わせた。

あすかプロは矢野の所属するプロダクションである。劇団あすかを持っている。劇団あすかは優秀な役者を多く育てている。矢野も劇団あすかで演技を学んだ一人であった。

「いや、私らも全く理解できないんだが何故か矢野さんが君を指名して来たんだよ」

「矢野さんが?」

真来はいよいよ持って驚いている。

「とにかく矢野さんの意向だから仕方がない。君に任せるから呉々も矢野さんを怒らせないように」

船木はそう言った。

「矢野さん、怒らせたらお前クビだから」

社長の一言を聞いて真来は震え上がった。

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