僕が君を守るから3
きっと助けに来てくれたから。
だから感謝してて、少しだけ嬉しくて、こんな気持ちになっているのだとミツナは思った。
「何があったの?」
エイルから顔を背けたままどうしてこんな状況になっているのかミツナが聞く。
どうしてこんなに人がいて冒険者たちが拘束されているのか。
「僕が呼んだんだ。彼らは君のことを置き去りにして、さらには騙して逃げて借金を負わせたんだろ? それは立派な犯罪だ」
「でも! そんなの……!」
「起きあがっちゃダメだ」
ミツナは起きあがろうとしてバランスを崩しエイルが支える。
痛みを感じないので忘れていたけれど足が折れたままで動かずうまく起き上がれなかった。
「……足を治してもいいかい?」
「えっ?」
「僕はヒーラーなんだ。君は痛みを感じないんだろう? 足を治してもいいかい?」
ヒーラーは緊急事態でない限り相手を勝手に治すことができない。
治療に痛みを伴うために相手の許諾が必要となるのだ。
ミツナの体の状態はひどい。
それでもミツナは触られることを嫌っていたしエイルは勝手に治すことをしなかった。
「……どうぞ」
治せるのなら治してもらったほうがいい。
「じゃあ軽く触るよ」
エイルがミツナの足に触れる。
距離が近いほど治療の力も強く発動させられる。
ミツナの全身が淡い光に包まれる。
全身がむずむずとした感覚に襲われてミツナは眉をひそめた。
痛いのか、とエイルは一瞬心配したけれど骨折ほどの重傷を治しても声一つ出さないところをみるに痛み無効というスキルを本当に所有しているのだと分かる。
「どう?」
さほど長い時間もかからずエイルはミツナから手を離した。
「……動く」
足を軽く動かしてみると全く違和感もなく動かすことができる。
「頬も……」
「ついでに治したよ」
殴られてミツナの頬は腫れあがっていた。
痛くはないけれど腫れていて違和感があったのだけど腫れていた頬も足と一緒に治っていた。
この早さで治してしまうなんて優秀なヒーラーなのだなとミツナは思った。
「失礼、いいかな?」
ローブを着た男性がエイルとミツナの方に近づいてきた。
「デルカンさん、こんな時間にありがとうございます」
「いやいや、君の頼みなのだ。どんな時間でも駆けつけるよ」
エイルが立ち上がってデルカンに頭を下げる。
デルカンは穏やかな笑みを浮かべてエイルのことを見ている。
「君がミツナだね? 一つお願いがあるのだが」
「なんだ?」
エイルではない人にはミツナはまだ強い警戒心をあらわにしている。
エイルは助けに来てくれたし治してもくれた。
だから警戒する対象ではないと少しだけ認めた。
「君の頭を触らせてほしい」
「…………どうして?」
ミツナは嫌悪感を隠すこともなく顔に出した。
女の子の頭を触らせてほしいといきなり言われれば人を毛嫌いしていなくても警戒する。
「ふっふっふっ、不純な目的ではないよ。エイルから事情は聞いている。君は彼らに騙されたのだろう?」
「そうだけど……でも証拠なんてない……」
ミツナが先ほどエイルに言おうとしていたのはこのことだった。
確かにミツナは騙された。
しかし騙された証拠なんてないのだ。
全部ミツナが責任を負ってやったことだと冒険者たちが主張すればその真偽を確かめる方法がない。
だからミツナも自分の責任の無さを主張することを諦めて復讐しようとしていた。
エイルが通報してミツナのことをどうにかしてくれようとしてくれていることは理解したけれど、今はミツナが冒険者たちに襲い掛かってしまったという状況なので人を呼んだところで不利にしかならない。
「確かに立証するのは難しい。だがそのため私がいる」
「どういうことだ?」
「私は二等審問官。犯罪について調査を行う者だ。そして私には私にしかないスキルがある」
「スキル?」
「メモリースキャンというスキルだ。相手の記憶読み取る能力でこのスキルの前にウソはない」
先ほどデルカンが冒険者の頭を触っていたのは記憶を読み取るためであった。
メモリースキャンはかなり希少な能力であり、何かを調べるということに関して強力な力を発揮する。
たとえウソを並べ立てたとしても記憶を偽ることはできない。
ミツナの主張が正しいか、それとも冒険者の主張が正しいのか記憶を読み取ってデルカンは判断しようとしていた。
「君の記憶も見せてもらいたい。それが証拠であり、私は記憶を基にしてしっかりと正しい判断を下そう。そのために頭に触れる必要があるのだ」
「…………分かった。少しだけなら」
少しでも信じてもらえる可能性があるのなら。
かなり嫌であるが軽く触れる程度なら我慢しようとミツナは思った。
「それでは失礼するよ」
デルカンはそっとミツナの頭に触れてスキルを発動させた。
「……うっ」
頭の中に何かが入ってくるような奇妙な感覚があった。
不思議と依頼を受けた時にうまく言いくるめられてサインしたことや置き去りにされたこと、そして戻った時には冒険者たちがいなかったことなどの記憶が頭の中を駆け巡った。
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