僕が君を守るから2
依頼の責任者を持ち回りで行っていたのも少し危な目な依頼を受ける時に失敗した責任をミツナに押し付けられるようにするためだった。
仲間だなんて思ってなかった。
ただただ見捨てても構わない都合のいい相手としてミツナは選ばれていたのであった。
強く噛んだ唇から血が流れる。
それでも痛みは感じなかった。
「一人で借金おっ被って死んどきゃいいんだよ!」
「うっ!」
肩を刺された冒険者がミツナの腹を蹴り上げる。
「チッ……そうだ……こんな風に隠れることになったのもコイツのせいなんだ」
肩を刺された冒険者はミツナの髪を掴んで首にナイフを押し当てる。
冒険者たちは尋常じゃない目をした仲間を止めることもできない。
「殺して……」
「やめろ!」
「なんだ!」
家のドアが壊されてエイルが中に飛び込んできた。
冒険者たちの視線が家に飛び込んできたエイルに集まる。
「ミツナ!」
「エイル……? どうして……」
対してエイルの目にはボロボロになって倒れているミツナの姿が映った。
ミツナもややぼやけた視界ながら飛び込んできたのがエイルだと認識していた。
どうしてこんなところに、と思わざるをえない。
「お前ら彼女に何をした!」
「なんだこいつ?」
「さあ?」
いきなり家に入ってきたエイルに対して冒険者たちは不審なものを見る視線を向ける。
「こいつの飼い主じゃねえのか?」
「ああ、なるほどね」
冒険者はエイルのことを知らないがエイルはミツナのことを知っている。
ミツナが奴隷になっていることは分かりきっているしエイルがミツナの持ち主なのだろうと冒険者たちは思った。
「おい! なんでこんなことをしたんだ!」
エイルは近くにいた冒険者の男に掴みかかった。
「何すんだ! 放せよ!」
エイルは強そうにも見えない。
掴みかかられた冒険者はエイルに怯えることもなく一瞬で怒りの表情を浮かべるとエイルを殴りつけた。
「おい、飼い主さんよ」
むしろこれは好都合だと他の冒険者が床に倒れたエイルに近づく。
「奴隷はちゃんと管理しないと」
そう言いながらエイルの前に腕を差し出す。
「ほら、お前の奴隷が暴れたから怪我しちまった」
「怪我……だと?」
よく見ると腕に小さな切り傷がある。
怪我とも言えないような小さな傷だった。
「ここにいる全員お前の奴隷のせいで怪我したんだよ。どうしてくれる?」
奴隷の責任は奴隷の持ち主であるエイルの責任となる。
エイルから迷惑料や慰謝料としてお金をふんだくってやろう。
そんなことを冒険者は考えていた。
ミツナは戦闘不能だしエイルも腕っぷしは強くなさそうなのでちょっと力づくでも言うことを聞かせられるだろうと余裕の顔をしている。
「ダメだ……エイル……」
人が嫌いではあるけれどミツナに常識がないわけではない。
今エイルはミツナのためにここに訪れてミツナのためにひどい目に遭おうとしている。
流石にそれはダメだと、自分のことなど見捨てて帰ってくれとミツナは思った。
見捨てないでくれたという不思議な感情とそれに伴うような大きな罪悪感が胸を押し潰そうとしているようだった。
「エイル……」
「うるせえ!」
肩を刺された冒険者がミツナのことを殴りつける。
「やめろ!」
「やめてほしかったら分かるよな?」
「ミツナ、もう話さないでくれ! 俺が君を守るから! もう、大丈夫だから」
腕に小さな傷のある冒険者がニタニタと笑う。
どんな関係なのか分からないけれどエイルの方はミツナのことを守ろうとしている。
ミツナの借金は決して小さくない。
そんな借金分のお金を肩代わりするような金額を払って奴隷を買うほどのやつなら金ぐらいあるだろうと軽く唇を舐める。
「エイル! 私のせいでそんなことを……」
「いい加減にしてろ!」
肩を刺された冒険者がミツナの顔を何度も殴りつけてミツナはとうとう気を失ってしまった。
お願いではなく話さないように命令すべきだった。
「……お前ら」
「あっ?」
「全員怪我してるんだったな?」
この期に及んでミツナに暴力を振るう冒険者やそれを止めもせず金を要求する冒険者にエイルは大きな怒りを覚えていた。
「そうだ。だから慰謝料として……」
「そんなこと必要ないよ」
「えっ?」
「全員、治してやるから」
エイルは怒りに燃える目をして目の前の冒険者に手を伸ばした。
ーーーーー
「う……」
「ミツナ!」
ミツナが目を覚ますと状況は一変していた。
場所は冒険者の隠れ家のままだったけれどミツナはベッドに寝かされていて、心配そうな顔をしたエイルがミツナの顔を覗き込んでいた。
家の中にはミツナの知らない人がたくさんいた。
比較的小綺麗なキッチリした格好の冒険者らしき人たちがミツナを騙した冒険者たちを拘束していた。
さらに目立つのはゆったりとしたローブをきた頭を剃り上げた中年の男性だった。
拘束された冒険者の一人の頭に手を置いていて、冒険者の頭を淡い魔法の光が包み込んでいる。
「大丈夫かい?」
「顔が近い……」
「あっ、ごめん!」
なんの反応もないからエイルがミツナに顔を寄せていた。
ミツナは顔を背け、エイルは申し訳なさそうに少し離れる。
「な、なんで……」
「どうかした?」
「なんでもない!」
エイルの顔を間近で見た時ミツナはなぜか胸がドキリとした。
顔が熱くなって鼓動が少し速くなる。
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