生き物と戯れて
槇瀬りいこ
その木の実をどうするか
車を運転していると、よくカラスを見かける。
車道にくちばしをつついて、何かを企んでいるのだ。
私は彼が何をしているのか、知っている。
テレビで見た事があるが、硬い木の実を車のタイヤにひかせて殻を割るという魂胆だ。
とても賢いと思う。
私はその車に選ばれることがよくあるのだ。
カラスは車道の、タイヤが通りそうな所で待機して、くちばしから木の実をセットする。
ギリギリまでそこにいて、私が通りかかる良いタイミングでその場を離れるのだ。
きっとカラスは、こう思っているに違いない。
『あのでっかい早く走る奴に、この木の実を潰させよう。この調子だと、あのでっかい早く走る奴のクルクル回る黒い足は、この辺りを通るに違いない。今度こそは成功をおさめて、この木の実を食ってやろう!』
そんなふうに考えながら、計算に計算を重ねて、私が通るであろうタイヤの軌道をギリギリまで予測しているのだろう。
私はそのカラスの姿を車内から確認すると、悪魔のような笑みを浮かべてしまう。
きっと、その時の私の身体の周りにはドス黒い空気が漂っていることだろう。
直前、カラスは飛び立つ。
私は左にハンドルを切り、軌道を外すのだ。
セットされた木の実をタイヤは潰してくれないことになる。
ㅤ
私は残酷な人間だ。
そうやってカラスの期待を裏切り、
「うひひひ……」
と、一人笑うのだ。
黒い。私は黒い。
ゴミを荒らすカラスとお揃いで、黒い。
ツバメの巣から孵った雛鳥を一匹残らず咥えてさらって行ったカラスと同じで黒い。
でも、カラスは一夫一妻で協力して子供のカラスを愛情持って育てていると聞くと、私も人の子、カラスに親近感がわいてしまったのだ。
全身真っ黒なカラス。
なぜだかそれに惹かれる私もいる。
実は、私はそこまでカラスが嫌いでは無いのだ。
わざと木の実を潰してあげない行為も、私の中ではカラスとのじゃれ合いのようなもの。
ツンデレと思って貰えたら幸いだ。
私は3回に1回の割合で、カラスの思惑通りに木の実を潰してあげている。その3回が、同じカラスではないのかもしれないけれど。
昼休み、外のベンチでご飯を食べる時、たまにカラスがやってくる。
私は彼が近くに来ると恐ろしく思ってしまう。
意外と大きいのだ。
カラスはとても利口で、憎い人間に仕返しをしてくるらしいじゃないか。
カラスの憎い人間リストに私が載ってしまったらたまったものじゃないと、場所を変えて自分の存在を彼の視界から消したりする。
でも、本当のところはカラスと仲良くなりたい。
そこで考えた、安全な車にて、木の実を潰すか潰さないかというツンデレ遊び。
今、私の中ではその遊びが流行っている。
こんな事、誰にも言えないから、今ここで書いてみた。
書いてみて、心の整理ができた。
気づいてしまった。
私の方が、カラスに遊んでもらっているのかもしれないと。
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