第25話 ラージャ
「お待たせ」
魔道車で魔石を漁った結果、一番出力が大きいものは魔道車を動かすための魔石だった。こいつの予備がなかったかと倉庫を見ていたらある種の黒歴史的な魔石を発見したので、これを持って戻ることに。
「そのような魔石があったのですね」
「なんとオパールだぞ。それも手のひらサイズという大きさだ」
「そこに無駄使いするなら、コーヒーを買い込めたのでは?」
「う、確かにそうなのだけど、実はそこまで高くない」
魔石は最高級のオパール製で、手のひらサイズとなれば小型の魔道車くらいのお値段がする。
感覚的には最も安価な軽自動車を新車で購入するくらいかな。その出力たるやレース用の魔道車でも十分実用に足るほどである。
よくそんなものを買えたよな、って話だが、もちろん裏があるのだ。
手のひらに乗るオパール製魔石が完品であれば、超高価なのだけど、状態が悪いとそれほどでもない。
このオパール製の魔石は同じ大きさの水晶製の魔石より安いくらいのお値段である。そうだな、オパールそのものの原価くらいだろうか。
これで予想がついたかもしれない。そう、この魔石は宝石としての価値だけしかないのだ。
つまり、内包する魔力はゼロである。充マナすりゃいいだけじゃないかとお考えかもしれない。だがしかし、容量が大きいと充マナするだけでも大変で、ええと、うまく説明できないな。出力が大きい魔石ほど充マナするときに出力を大きくしないといけない、と言った感じ……ちょっと違うけど概ね合ってるはず。
新品を買うよりは安くなるものの、充マナするのに費用がかかりすぎるため売り払われたものを購入したってわけさ。
「このオパールさ。マナが空なんだよ。今から充マナする」
「理解いたしました。無用の長物が化けることもあるのですね」
「……事実だから何も言えん。うんしょっと、うおおお」
充マナの術式を組んで魔法陣魔法を発動したはいいが、どんどこ体内の魔力が抜けていく。えらい減衰量だが、減った鼻から濁流のように空気中のマナが流れ込んでくる。なんだこの感覚……マナ酔いしそう。超空腹から満腹を繰り返すような感覚で気持ち悪くなってきた。
「よし、完了。お次は寝ている人……ラージャと魔道具の接続をちょいちょいっといじって」
魔配線をいじるだけなら楽勝楽勝。
さっそくオパール製の魔石を繋ぐ。
「魔力の出力は足りていそうですね」
「うん、魔石の方はまだ余裕があるから完全に切り離しても魔道具の『魔力としては』問題ない」
魔力の感知に俺より敏感なペネロペが魔力の流れを魔法も使わずに把握する。遅れて俺が測定器を使って計測し太鼓判を押す。
「魔道具が動くためには『意思』がいるのでしたよね」
「そそ、なので人と繋がなかったら動いていないのと同じになる」
そんじゃま、始めるとしますか。ここが修理屋の腕の見せ所だぜ。
配線を繋ぎ変えるだけだから、作業は難しくない。魔術回路のどこかが潰れていて、とかだと元の魔術回路を予測するのが困難だが、全て無事で動いていることが確認されているからその心配はない。
作業を開始して10分もたたないうちに配線の繋ぎ変えが完了した。
「魔石の出力は良好。ペネロペ、ラージャへ魔力を注いでもらえるか」
「畏まりました」
ペネロペが棺からラージャの頭と膝を支え、正座し自分の膝へ乗せる。ペネロペが首の後ろでラージャを支えているので、顔が上を向きラージャのローブのフードがずり落ちた。体と同じく顔も干からびており、肌も黒くくすんでいる。濃い紫色の髪もパサパサでかつての面影は微塵もない。
長い耳からエルフかもと思ったけど、ヤギのような短い角が二本生えていることからエルフではないと分かった。魔族かな?
「では、はじめます」
「あ、待って、やっぱなし」
「私が魔力を注ぎ過ぎて大変なことになってしまうとか考えてませんか?」
「あ、いや、まあ」
会話している間にもラージャの魔力が注ぎ込まれ、見る見るうちに肌がイキイキとしてくる。
彼女の方が魔力感知の感度が高いのだから、心配する必要なんてなかった。ちょっとばかし反省。いやほら、モンスターとの脳筋バトルを見ていると魔力を大量投下で、ラージャの体がパーンとはじけ飛ぶとか想像してしまったんだよ。
ほんの数秒魔力を注いだだけでペネロペは魔力を注ぐのをやめた。
「正直すまなかった。マナ密度を考慮し、きっかけだけにしたんだな」
「まさか私がこの方を亡き者にしてしまうとでもお考えになられましたか?」
ぐ、ぐう。ここはもう平謝りしかない。
過去と違ってマナ密度が高いので、ほうっておいても魔力がぐんぐん回復していく。しかしながら、ペネロペは弱りすぎて魔力の回復に支障をきたす可能性があるので、魔力が回復できるきっかけだけの量の魔力を注ぎ込み、残りは自然回復に任せた。
うん、とても理に叶っている。ついマナ密度が変わっていることを忘れてしまいがちなのだよね。今の俺がそうだった。
どっちが待てって話だよ。
しっかし、さすがのマナ密度だな。ものの数分で肌から髪の毛から艶を取り戻し、体を起こす。
からっからの状態では男女の区別さえつかなかったが、今なら分かる。藤色の髪はローブの中に隠れているので長さは分からないが、長いんじゃないかな。
すっと通った鼻に涼やかな紫色の瞳に眉。人間じゃなく羊のような角から魔族であることが確定なので、細い首に喉ぼとけの様子から女性ではないかと思う。
年のころは人間と同じであれば、20代半ばってところか。
ぼーっと虚空を見つめていた彼女に目の色が戻り俺とペネロペを順に目をやり口を開く。
「なぜ、私が目覚めて……貴君らが私を?」
声からも女性だと判断できた。
「魔道具……アーティファクトの力はそのままになっているから安心してほしい」
「私が目覚めたということは『魔の儀』もまた失われたはず」
「魔力の流れを辿ってみてもらえるか? 繋がっていることが分かるはず。あなたの意思がアーティファクトに伝わっていることも」
「いや、そのようなはずは……」
といいつつ、目をつぶり魔力の流れを辿るラージャ。
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