第12話「明るい仲間」
弁当屋・ネクストドアの今日の業務は終わり。
店のシャッターを閉めると同時に、夕食のためにユアが二階から降りて来た。
「ディンフル達は?」
「まだよ。処理場までは距離もあるし、探すのに手間取っていたら今日中に帰れるかわからないわね」
まりねが冗談を交えて答えた。距離はあるが、時間が掛かっても日付をまたぐことはない。
ユアにとっては、ミラーレに来て初めてのディンフルがいない夜になる。と言っても毎晩、別の建物で寝ているが……。
◇
こうやも交えて4人で夕食を摂った。
食事中もユアは時計をチラチラ見ながら、本を取りに行った者達の帰りを今か今かと待っていた。
「そんなに心配なの?」
「だ、だって、もしかしたら、今日中に本が見つかるかもしれないんですよ?」
とびらが聞くと、ユアは焦りながら答えた。
目的の本が見つかるのは嬉しいが、同時に推しとの共同生活が終わることも意味していた。なので、ユアとしては正直まだ見つかって欲しくなかった。
まりねはユアを心配して聞いた。
「ユアちゃんはディンフルさんのことを好きみたいだけど、向こうはさっぱりよ。大丈夫? 好きな人から冷たくされている感じだけど?」
確かに、ミラーレに来た日からユアからアタックをしているが、常につっけんどんである。
それでもユアは気にしないようにしていた。
彼の性格をすでに知っていたし、「この場面ではこう言うだろう」と、キャラを知っているからこそ対応が予想できる。
ユアがそれを伝えると、まりねは安堵した。
「それなら安心ね。でも、あんまり傷ついたらすぐに言いなさいね? ディンフルさん、良くなって来ているけど、今でもきついこと言うから」
ディンフルは来た当初は調理をしようとしない、接客態度も良くない、とびら達にも無愛想だったが、今では調理に活発的になり、新メニューの考案までしてくれる。
接客はさせないようにしていたが、たまに客とコミュニケーションを取る機会が出来ても相手を不快にさせることは言わなくなった。無愛想は相変わらずだが……。
そして、とびら達にも少しずつ心を開いて来たのか、彼女達がわからないことを積極的に教えてくれるようになった。とびら達の方が先輩だが……。
そして、ユアのことも気に掛けていた。
彼女は包丁の作業が苦手。なのでディンフルから「足手まといになるから触るな」と厳しく言われた。それからユアは気にしたのか、一言もしゃべらなくなってしまった。
ディンフルは「言い過ぎた」と思い、後日彼女が一人で練習している時に後ろから手を支えながら包丁の使い方と動かし方を教えた。
ところが、推しから触れられることにまだ慣れておらず、ユアは顔を真っ赤にして倒れてしまった。
ディンフルは「包丁以前の問題だ……」と、以降は彼女に包丁を握らせないことにした。
ユアは、図書館の業務でも苦労した。
大きくない図書館だが様々な本を扱うため、ジャンル名を覚えなければならなかった。
背表紙に色別のラベルを貼ってあるがやはり覚えられず、同じ日に作業をしていたディンフルに尋ねることがよくあった。質問する度に彼は答えてくれたが、回数が多いと「そろそろ覚えろ!」と叱られてしまう。
逆にディンフルは短期間で全部覚えてしまったので、「頭の出来が違うじゃない!」と、ユアは心の中で逆ギレした。
◇
夕食から一時間後、ディンフル達を乗せた車が戻って来た。
大量の本と、新たな仲間と共に。
車が止まる音で真っ先に出迎えたユアは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になり、新しく見る人物に目が釘付けになった。
「あの……、そちらにいらっしゃる方は、もしかして……?」
自分のことを言っていると思ったオプダットは、ユアへ向かって元気よく挨拶をした。
「初めまして! 俺、オプダット! ティミーの仲間なんだ!」
「やっぱりオープンだよね?! ひゃ~! オープンもミラーレにいるなんて~!」
今イチ推しのイマスト
「俺のこと知ってるのか?! ひょ~! 初めて会う子にも知られてるって、俺って顔がでかいな~!」
「それを言うなら、“顔が広い”!」
同じくテンションが上がるオプダットだが、すぐにティミレッジが言い間違いを指摘した。
パーティの中でも、彼が言い間違いのツッコミ担当になっていた。
「面白いところもバッチリだね!」
「だろ?」
ティミレッジの苦労も知らずユアが褒めると、オプダットはドヤ顔になった。
「自慢になっとらんぞ!」
ディンフルもつっこんだ。
同じ車で帰って来たということはティミレッジと同様、彼も道中でたくさんの言い間違いを聞いたに違いない。
オプダットはフィーヴェで竜巻に巻き込まれた後、ミラーレの処理場のゴミの上に不時着したそうだ。
そこで、処理場を経営する社長と仲良くなり急遽スタッフとして働き始めた。
しかし、言い間違いで先輩スタッフを怒らせて来たが、社長の頼みで何とか許してもらえて来た。
そして、ティミレッジらと会えたことから処理場を辞め、例の本が見つかるまで弁当屋と図書館を手伝ってくれることになった。
ユアがあることに気が付いた。
「“見つかるまで”って……?」
「残念ながら、処理場には無かった」
ディンフルが肩を落としながら知らせた。
処理場までの移動中にトラックから落ちたのではと思い、真っ暗な帰り道を確認しながら戻ったが、やはり無かったようだ。
「キイ君が”もう一度、図書館の中や書斎を見てみる”って言ってたよ。何せ、もう何年も使われてなかったから、無意識にどこかへ移動させたんじゃないかって言ってたし」
ティミレッジが言うと、ディンフルは「また待つのだな……」と落胆した。
ユアも残念そうにしたが、推しのキャラ達といられることを考えたら苦痛ではなかった。
「二つの仕事を経験できるなんて楽しみだ! 早くしたいなー、弁当の試食!」
「弁当屋の仕事は調理と接客だ!!」
オプダットは今から仕事を楽しみにしていたが、食べることしか考えていないようだった。
「甘く見るな」と言わんばかりにディンフルが怒鳴る。
こうして、ユア達の生活に明るい仲間・オプダットが加入した。
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