第10話「優しい仲間」

 ユアは軽いケガで済んだが、大事を取って今日は動かさないことになった。

 ディンフル達は山菜採りを中止して、弁当屋に帰った。

 そして、彼が世話になっているお店がどんなところか見てみたく、ティミレッジもついて来た。


 ユアが軽傷と聞き、まりね達は安心した。


「良かったわ、大したことがなくて」

「すまぬ。私がついていながら……」


 ディンフルが謝る様子を見て、ティミレッジは「人間嫌いの彼が謝るとは……」とまた驚いた。


「ディンフルさんのせいじゃないわ。次は無茶をしないことね!」


 まりねはディンフルをなだめた後で、ユアへ向いて注意をした。


 ここで、ティミレッジがおそるおそる聞いた。

 魔王が普通に人間と過ごしていることに違和感を覚えたのだ。


「人間、嫌いだったんじゃ……?」

「今も嫌いだ。だが、魔法を使えぬ状態ではやり合えぬ。休戦中だ」


 ティミレッジも白魔法だけでは戦えないし、何より一人だけでは彼が怖いので休戦に大いに賛成した。


「ティミーも本を待ってみたら?」


 突然、ユアが提案した。

 店へ戻る途中、ユアとディンフルは異世界へ飛べる本を彼に説明していた。


「僕もフィーヴェに戻ってみんなに会いたいけど、どこへ飛ぶかわからないのはちょっと怖いかな」

「今から悪く考えるな。我々は魔法を使えないだろう? 藁にもすがる思いで、本を待った方が身のためだぞ」

「た、確かに……。そうしてみようかな」


 あまり乗り気ではないティミレッジだがディンフルに説得され、一緒に待つことに決めた。


「ねえねえ! あなたもここで働かない?」


 今度はまりねが誘った。

 簡単に勧誘する様子にディンフルは「増やして大丈夫なのか……?」と心配になった。


「ティミーは弁当屋より図書館の方がいいと思います。本が好きなキャラなので」

「図書館?!」


 ティミレッジは急に声を弾ませた。ユアの言う通り、本当に本が好きなようだ。


「その方がいいよ。キイ君も喜ぶよ!」

「ぼ、僕……、一度、図書館で働いてみたかったんです!」


 とびらも賛成すると、ティミレッジはさらに喜んだ。今までのおどおどしていた様子が嘘のように顔が輝いていた。

 ところが、今は薬局で世話になっている。隣町なので図書館までは距離があり、毎日来てもらうには負担が大きい。


「困ったな。図書館にいたいけど、薬局にもお世話になってるんだよな……。僕、店長に相談してみます」



 薬局へ戻り、店長に事のすべてを説明した。答えは……。


「いいよ~」


 ユアの手当てで出て行く時と一緒で、一言だけ返事をした。それも満面の笑みで。

 「物分かり早っ!」と叫ぶティミレッジも、心の中で彼を「いいよ店長」と命名した。



 かなり急ではあるが、ティミレッジが図書館を手伝うことになった。


「突然ですが、よろしくお願いします!」


 主に会うことになるキイは「休日は混むから手伝いが欲しかった」と歓迎してくれた。


「本は見つかりそうか?」


 ディンフルはどんな時でも異世界へ飛ぶ本が気になるようで、会う度にこの質問をする。

 相手の表情が曇り出した。「まだ見つからないか」と思ってると、キイの口から衝撃的な言葉が発せられた。


「これだけ探してもないなら、“捨てた可能性が高い”って、父さんが……」


 一同は言葉を失った。

 特にディンフルは「最後の希望が失われた……」と言いたげに絶望的な表情になった。


「父さんが棚から本を出した時に、一旦廊下に出したものもあったんだ。それを母さんが“いらないもの”って勘違いして、今日収集車に取りに来てもらって……」

「そしたら、帰れないの?」


 続いて、ティミレッジも顔が青ざめていた。

 フィーヴェへ帰れなかったら仲間達にも会えず、故郷を異次元へ送った因縁とミラーレで共に暮らすことになる。彼にとっても死活問題だった。


「だ、大丈夫だ。業者に連絡したら、特別に処理は待ってくれることになった」


 キイがそう言うと、一同は安心して肩の力が抜けた。

 回収は早めの方がいいので、これからキイとワードの二人で処理場へ取りに行くため図書館は臨時休館する。


「キイ君とワードさんの二人だけで大丈夫?」

「私も行こう」


 まりねが心配すると、ディンフルが名乗り出た。すると、ユアも元気よく言った。


「私も!」


 しかし、ユアはケガをしている。絶対安静なので周囲から止められてしまった。

 代わりにティミレッジが行くことになった。


「大量に持つのは難しいですが、ミラーレにはどのような本があるのか気になるので」


 ワクワクするティミレッジ。

 四人もいれば大丈夫なので、行けなくなったユアは残念そうにした。


「ユアちゃん。私も今日はおとなしくしてた方がいいと思うわ。もし処理場でケガしたら、治るのが長引くから」

「こ、今度は気を付けますから!」

「普段からドジだから、信用されていないのだ!」


 ディンフルが警告する。

 ドジは事実なので言い返せず、ユアはうなだれた。


「大丈夫だよ、ユア! 私なんか未だにドジだからさ!」


 とびらが励ますも、フォローになっていない。

 他の者は「とびらに励ましは無理だ」と、心から思った。

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