夢現繋

るありも

第1話 異形

 周囲は異様な光景に包まれていた。空は白濁色。見たこともない生物が枝垂れた木々の間を跳ね回っている。彼女の心臓は高鳴り、同時に恐れと興奮が交錯する。見る限り人間はいなさそうだ。これは夢か現実か。だが、いまはそんなことに固執している暇はない。とにかく危険を避けなければ……。 

 そう思い歩きだそうとしたとき、なにかが彼女の足首を摑んだ。彼女は悲鳴を上げる間もなく転倒した。見ると地面から生えた青白い手が彼女の足を摑み、そのまま地中へと引きずりこもうとしている。彼女は必死で抵抗した。だが、もの凄い力で引っ張られ、為す術もなく地中へ引き込まれてゆく。やがて全身が埋まったところで、彼女の意識は途切れた。

 気がついたとき、彼女は木の根もとに横たわっていた。気を失ったのはほんの一瞬の間だったらしい。どうやらあの世行きは免れたようだ。しかし、助かったという安堵感はなかい。周囲は依然、不気味な静寂に包まれていたからである。

 そのとき、背筋に冷たいものが走った。……誰かに見られている気がする。恐る恐る周囲を見回したが、そこには誰もいなかった。ただ不気味な霧が立ちこめているだけだ。それでもなお視線を感じ続けた。息苦しいまでの緊張が彼女を包み込む。視線から逃げるように彼女は道にそって走った。ただ無我夢中に。何も考えずに。

 しばらく走った後、落ち着いて彼女はあることに気づく。"道"がある、ではないか。森の中、土がむき出しになり、"道"と化している。これは言い換えれば、人がいる。と言えるのではないか。もちろん獣道の可能性がある。だが彼女の体感ではこの世界に2時間程いるにもかかわらずこの道でまだ生物を見ていない。となると、これは"人が作った道"と考えるのが妥当ではないか。彼女の目に少し希望が見えた。ただ、それと同時に不安もある。この世界において彼女の存在は異常なのかどうか。…まぁ。そんなことはいるはずの人に会えば分かることだ。とにかく、彼女は、走った。

 木々が途切れそうだ。光が見えた。

 一心に走り続け、そしてたどり着く。断崖に。そしてそこには、街が広がっていた。

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