第4話

 売り言葉に買い言葉のような、焦りと勢いだけで日向と約束をしてしまってから二日が経った。後悔は後を絶たず、ふとした瞬間に思い出しては憂鬱さに頭を抱えてしまう。逃げ出してしまいたくても、一週間の終わりを告げる今日はゼミの授業が夕方まで入っていて、その後に日向とあの五冊の本を読み解く予定だった。

 須賀が専攻しているのは日本文学で、今は明治初期の作品を研究している。自分たちは歴史として学んできた時代を実際に生きていた人々が、何を見て、何を思って言葉を残してきたのか。そういった一つひとつを読み込み、紐解いていく時間が何よりも好きだった。

 集めた資料をファイルに閉じたところでチャイムが鳴り、軽く背中を伸ばしてから立ち上がる。古くなってきたトートバッグに閉じたばかりのファイルを入れ、忘れ物がないかを確認してからすぐに教室を後にした。

 残っていた何人かに挨拶をすることはないが、それは須賀にとっても、他のゼミ生にとっても当たり前のこととなっていた。単独行動を主としているゼミだから、ということもあるのだが、須賀が自分から誰かに話しかけることはない。いつだって長い前髪を耳に掛けることも、マスクを外して飲食をすることもなく、ひたすら机に向かっていた。

 サルエル調になっているパンツも、ゆったりとしたシルエットになっているシャツも、全身を黒で塗り固めているのもいつものことだ。他の色を身に付けている姿など、ゼミ生も教授も見たことがなかった。

 同じ学部の生徒で溢れかえった廊下を、須賀は垂れた前髪を揺らしながら通り過ぎていく。金曜日特有の浮かれた騒がしさを縫うように、窓に寄ってただ真っ直ぐに進んでいく。声高にこれからの予定を話し合っている生徒を横目で見ることも、ぶつかってしまったことを謝る生徒に返事をすることもない。

 それが通常で、須賀の望んでいる日常でもあった。文学部生の中ではいつもいる人だ、と有名になっているのに、誰とも関わろうとはせず、教授からの憶えも薄かった。成績は常にトップだというのに囃し立てられることもなく、ひっそりと隠れるようにして過ごしている。

「千秋さん!」

 授業に出て、偶に図書館で掘り出し物の古書を探して、さびれた喫煙所で煙草を吸って。このたった三つだけが大学での過ごし方で、須賀にとってはこの三つがあれば充分だった。それ以上のものは何も望んでいなかったはずなのに、知り合ったばかりの彼に振り回されている。

 元気よく両手を振り回す姿にマスクの下で口元を緩め、分かれた舌先を交差する。スプリットタンと呼ばれる蛇を真似た舌は、ほんの一年程前に作ったものだ。別々に動く舌先に慣れるまでは違和感を覚えていたが、今では事あるごとに動かしてしまう。

 薄手のパーカーに淡いデニムパンツを合わせた日向は、ころころと変わる表情も混ざって大学生には到底見えなかった。何かスポーツでもやっていたのか、鍛えられていることは布越しにも分かるのに、男らしくて格好良いよりも可愛らしいという感想の方が似合ってしまう。

 自分の姿を見下ろして、似合わないなと思った。洋服の良し悪しについてはこれと言って興味もないが、彼と並ぶにはあまりにも違いがあり過ぎる。吐き出した溜息はマスクに遮られ、出口を探して蜷局を巻くようだった。

 誰かと一緒に帰ること自体が初めてで戸惑いも多いのに、全くの違うタイプに申し訳なさと疑問が浮かんでくる。一緒に行動するような友人がいるのだから、その子たちと一緒にいればいいのに、とは言いたくても言えない。

「ごめん、待たせたね」

「いえ、図書館に行ってたので大丈夫です!」

 行きましょうか、と歩き出した日向の一歩後ろで、須賀は垂らしていた前髪を耳に掛けようとして、指先に髪の毛が触れたところで思い直した。大学の外に出たと言っても何処に誰がいるかは分からない。日向の友人に会ってしまう可能性もあるのだと思うと、おちおちと油断することは出来ないだろう。

 裏表のなさそうな日向の友人だと考えると、露骨に後ろ指を指してくるようなことはないはずだ。それでもピアスを付けていることはあまり知られたくはないと、そっと軟骨に差し込んだ銀色のボールを撫でるだけに留めた。

「どこでやるの?」

「あ、俺の家です!」

「……え?」

 ファストフード店か、ファミレスか。大学生の行きやすいお店はどこだろうかと思い浮かべていたのに、予想もしていなかった場所を告げられた。後ろを歩いていたおかげで、須賀の足が止まっていることにも気付かずに日向は呑気に進んでいく。ようやく返事がないな、と振り向いたときには数メートルの距離が空いていた。

「えっ! 千秋さん!?」

 慌てた様子で駆け寄ってきた日向は、立ち尽くしたまま何も喋れない須賀に困惑したようで、ぶらりと垂れ下がった両手のひらを握り締めた。唐突に伝わってきた温もりにぴくりと指先は揺れたものの、あまりにも強い衝撃にそれ以上の反応を返すことが出来ない。

 返ってこない反応に焦れたのか、日向は握っていた右手を外し、須賀の目元を覆っていた前髪を横に流していく。視線の高さが合わせられ、不安げに下げられた眉尻がよく見えた。

 クリアになった視界に、オレノイエ、と舌の上で転がしていく。オレノイエ、おれのいえ、俺の家。

 三度目にやっと何を言われたのかを理解して、この少年は阿呆なのだろうかと困惑を通り越して心配になってしまった。

「家って、それ、僕も行くんだよね」

「そりゃあ、はい。あ、近いんで大丈夫ですよ!」

 にっこりと気持ち良いくらい清々しく笑った日向は、見当違いの注釈を加えた。須賀が気にしていたのはそんなところではなかったのだが、思考が上手く回らなくなった今の状態では訂正のしようがなかった。

 他人の家に上がったことなんて、須賀の生きてきたこれまでの人生で一度もない。父方も母方も祖父母は既に他界してしまっていたし、盆正月に行き来するような親戚もいない。小学生の頃は比較的喋りやすい同級生もいるにはいたが、家にお邪魔するような仲ではなかった。

 両親と暮らしていた実家でさえも、心穏やかには暮らせていない。幸いにも共働きで、どちらも絵に描いたような仕事人間だったおかげで過干渉にはならなかったが、リビングで偶に鉢合わせてしまうと妙に気まずい思いをした。

 ぼんやりと目の前の顔を見返していた須賀に、首を傾げながらも日向は手を繋いで歩き出す。されるがままの須賀は、繋がった手のひらを振りほどくことも、耳に掛かった前髪を払うことも忘れていた。

「ここです!」

 近いから、と言っていたのは本当のようで、引き摺られる姿勢で歩くこと十分。日向と表札が掲げられた一軒家に辿り着いた。二人の通うキャンパスの周りは住宅地ではあったものの、ここまで大学近くに実家があるのは珍しいんじゃないだろうか。

 こじんまりとした外見ではあるものの、玄関先から見える庭には学校と同じように秋の花が咲いていた。白やピンクの薔薇に真っ直ぐ伸びたトルコキキョウ、鮮やかなオレンジ色はマリーゴールドだ。漂ってくる金木犀の香りは強すぎることもなく、須賀は馴染みの少ないその香りを肺いっぱいに吸い込んだ。

 大きくて立派というわけではない建物に、遊び回るほどの広さはない庭。特別な手が加えられたような見た目ではないのに、細部までこだわって見えるような、十人が十人とも思わず素敵だと感嘆する家だった。

 慣れた手つきで可愛らしい意匠の門を開ける日向は、一歩入り込んだ先で振り返った。ちょっとだけ眉尻を下げた表情に、ここまで来ておいて何を今更、と思ってしまう。そんな顔をするくらいなら、最初から攫うような真似はしないでくれ。

「千秋さん、あの、」

「……大丈夫。ちょっと驚いただけ」

 待ての出来ない性格ではあるようだけれど、愛嬌と素直さで許されてきたのだろうな、と思った。文句も言えず強引なまでに引き摺られてしまったが、ぼんやりとしてしまった須賀にも責任はあるし、一旦深呼吸の出来る時間を与えてくれたのだから大丈夫だと流してやることにする。

 良かった、との言葉を溜息と共に吐き出して、ふにゃりと崩された顔は随分と情けない。息を吸って、吐いて。こんな格好で来てしまったけれど、可笑しな奴だと視線だけで嘲笑われるのは慣れている。それに、彼の両親が在宅しているかどうかも分からない。日向が非難されなければそれでいいのだと、もう一度深く息を吸った。

 未だに繋がっていた手のひらを離して、掛けられた前髪を払う。すっかりと表情を覆い隠すのはどうかと思うが、それでも眉尻に空いたピアスを晒すよりはずっとマシだろう。誰もいなかったらまた掛ければいいのだ、と塞がった視界に安堵を漏らす。

 ん、と小さく顎を引くと、それだけで分かってくれたのか日向は踵を返した。三歩で扉の前まで移動した日向に続いて、ゆるゆると歩幅の小さい須賀は六歩で彼の後ろへと辿り着く。鍵を開けて、扉を引いて、そのどれもがスローモーションのように見えてしまった。

 須賀は逸る心臓を抑え込むように三度目の深呼吸をして、扉の先へと進んでいく背中を追いかけた。

「ただいまぁ」

 土間に上がった日向は、靴も脱がずに間延びした声を出す。何か待っているのだろうかと隣で倣うと、奥から束ねた長い髪の毛を揺らして女性が出てきた。五十歳を超すかどうかに見えるが、目尻に刻まれた笑い皺が彼女をより一層柔らかく見せ、すぐに日向のお母さんなのだろうと分かった。

「あら、お友だち?」

「んーん、千秋さん」

「あらぁ! いつも秋久がお世話になっています」

 穏やかに微笑む女性からは煮物だろうか、出汁の柔らかな香りがする。他人の家に上がったのも、誰かの親を紹介されるのも、須賀にとっては初めての経験だ。お世話になっています、と言われて、なんて返すのが正解なのだろうか。

 早く、何か言わないと。焦ったところで言葉は出てくるはずもなく、二人に注目されたままぐるぐると視界が回り、気持ちの悪い汗が滲んでくる。要らない心配かもしれないとは思ったけれど、前髪を下ろしていて心底良かった。

「えっ、と、須賀千秋です、お邪魔します」

 緊張に掠れた声は小さくて、穏やかに佇んでいる女性にまで届いてくれただろうか。不安になって前髪の隙間から窺うと、嬉しそうに微笑んだままの彼女がいた。気分を悪くさせていないことに安心して、詰めていた息をゆっくりと吐き出していく。

「千秋さん、ゆっくりしていってね。あ、食べ物のアレルギーはあるかしら?」

「え? と、特には、ない、です、けど」

 アレルギーとは、初対面から聞かれるものなのだろうか。それとも、親としては必ず行わなければならない質問だったのだろうか。きっと自分の親でさえも知らないだろう情報に、須賀は戸惑って首を傾げた。

 訝し気な仕草にも頓着はないのか、日向の母親はそれは良かったと両手を叩いて喜んだ。何に対して良かったと言われているのか、須賀には一つも分からない。

「部屋で勉強するから」

「そう。飲み物とか欲しかったら呼んでね」

「うん、ありがと、母さん」

 物語の中で見るような親子の会話に、須賀は前髪の奥でそっと目を細めた。太陽を直接見るよりもずっと眩しくて、真っ直ぐには見ていられない。

 純粋で真っ直ぐで、飾らない姿勢を見せる日向のことはいつだって目を細めていないと見えない気がした。だけれど、その眩しさは彼だけのものではなく、日向を形成する全てに当てはまってしまうのだろう。日向を生み育てたご両親や、肩を小突き合って笑う友人もきっと眩しくて、自分とは違うのだと気付かされる。

 脱いだ靴を綺麗に並べる姿に諦念のような、尊敬のような、自分でも判別のつかない感情が生まれてくる。馴染みのないタイルの上に脱ぎ捨てた汚れた革靴を整えて、階段を昇っていく後ろ姿に続いた。

「すみません、親に会うのとか嫌ですよね」

「そういうんじゃ、なくて。……慣れてないだけだから」

 二階には三つ扉があって、左手側に並んだうちの奥側に招き入れられた。六畳ほどだろうか、すっきりと整頓されているおかげで実際よりも広く見える。ベッド脇に置かれた小さな本棚には、海外の児童書が詰め込まれていた。

 リュックを下ろしてパーカーを脱いでいく日向の後ろを通り過ぎて、背表紙の色も大きさもばらばらに並べられた本棚が気になってしゃがみ込む。原文の絵本も数冊が一番下に置かれていたが、大体は日本語訳されたものだった。

 棚に入っている状態でも分かる。どの本も角が潰れ、糊付けされた部分が剥がれそうになっている。小さい頃に買ってもらった物なのか随分と読み込まれ、それでも大切に扱われてきたのだと伝わってくる。

 他人の家だとは分かっているが、しゃがみ込んだ先にある本棚から目が離せない。家主に許可は取っていないのだから、と頭では理解していながらも、くすんだ色のパーカーに腕を通している日向からは非難の声が漏らされないのを良いことに物色を続ける。

 懐かしいタイトルの背表紙を、人差し指の腹で一つひとつ撫でていく。須賀にとってその本は原文で読んでいたものだが、訳されたタイトルには訳者からの親しみがこめられていた。

「その本、好きなんですか?」

 いつの間に来ていたのか、肩が触れ合いそうな程近くに日向もしゃがみ込んでいた。端から一冊ずつ背表紙を触っていたが、着替えていたおかげで最初からは見ていなかったのだろう。日向は滑り落ちていった指の先にある児童書を引き抜いて、懐かしむようにそっと表紙を撫でた。

「父親が読書家で、小さい頃から色んな絵本を買ってもらってたんです。中学校に上がったくらいから少しずつ小説も読むようになったんですが、やっぱり児童書が好きで。これも、全部捨てられずに来ました。……へへ、なんだか恥ずかしいですね」

 昔のことを思い返しているのか、そっと細めた目尻には母親によく似た笑い皺が薄っすらと刻まれていた。喫煙所で並んでいたときに気付かなかったそれは、今がそれだけ近い距離にあるという証だ。触れた肩が熱を持って、朱色に燃える葉っぱを思い出す。

「それだけ大切にされて、こいつらは幸せものだよ」

 色とりどりの背表紙に指先を這わせた須賀は、無意識のうちに前髪を流していた。下向きになっているおかげで視界が覆われていたわけでもないが、どうしてもちらつく黒い束が邪魔に思えてしまう。窓から射し込んでくる夕陽の金色が鮮やかで、ピアスに反射した光が二人の間で宙を舞った。

 窓は二人がしゃがみ込む本棚の丁度反対側で、本来なら逆光にしかならない位置にある。反射する光に気付いた日向は視線を上げ、まるでスポットライトを浴びたかのように浮かび上がる須賀の横顔に、自然と目が離せなくなった。

 近過ぎる距離でじっとりと見られていることにも気付かずに、須賀は自分に向けられた背表紙の全てを撫で終える。専門にしている分野は違うものの、文学と呼ばれるものは総じて好きだった。

「ほら、そろそろ読んでいこうか」

 立ち上がった須賀は、しゃがみ込んだまま膝を抱えてしまった日向の肩を叩く。そっと顔を上げた日向の額は膝頭に擦りつけてしまったのか、赤く色付いていた。

「千秋さん、そういうとこ、」

「ん?」

「……何でもないです!」

 勢いをつけて立ち上がった日向は、持っていた児童書を勉強机の上に置き、五冊の本が広げられたローテーブルに着く。須賀が背表紙を眺めている間に準備をしていたのか、児童書の他にも電子辞書と英和辞典、それから束になったルーズリーフとペンケースが置かれていた。

 最初は今週の授業で取り扱っていた物語から挑戦していくらしい。抜き取ったルーズリーフの一番上にタイトルを写し、その隣には訳が続けられた。日本で公開されたこともある映画の原本だったため、ここまでは小学生でも出来るほど簡単だ。

 一枚ページを捲って、速いスピードで滑っていく視線に息をつく。上手く出来ないと言ってはいたが、部屋に置いてあるくらいだから昔から原文を眺める機会は多かったのだろう。つきっきりで確認していく必要はないと判断した須賀は、魔法使いのおばあさんが描かれた絵本を手に取った。

 長いとんがり帽子もくるぶしまであるワンピースも、おばあさんの身を守るのは全て黒に塗られている。魔女と呼ぶほどしゃがれていない姿でも、やっぱりイメージとしてはこの色しかないのだろう。同じ黒なのに、背筋を伸ばして笑うおばあさんのようにはなれないのだと、そっと笑ってしまった。

「千秋さん、あの、早速なんですが」

 しっかりとした表紙を捲って、中の見返しも捲って、一行目の英文を読もうとしたところで呼ばれてしまう。本当に早速だな、と言葉には出さなかったけれど、右手を真っ直ぐに上げた日向には伝わったらしい。ぴるぷると震えだす指先に笑って、大丈夫だよ、と絵本を閉じる。

「どこ?」

「ここなんですけど、こうすると前後がおかしくなって。辞書に載ってない意味ってありますか?」

「んー、と、あぁ、ここはね、」

 ペン先になぞられたのは二ページ目の真ん中くらいで、早速とは言っていたけれど進みはいい感じだ。前後の文章と読み比べて、授業では習わない文法の使い方を教えてあげるとすぐに理解し、お礼を言ってからまた一人で黙々と訳し始めた。

 真っ直ぐに落とされた視線と、英文をなぞるたびに微かに動いていく唇。自分との違いを確認していくように眺め、息苦しさにマスクを外した。物理的な苦しさではないはずなのに、心臓は荒れ狂ったように早鐘を打つ。

 二つに折り畳んだ黒いマスクはトートバッグに入れ、机に置いていた絵本を捲った。カーテンの閉められていない部屋は夕方の光を集めていて、日向も、児童書も、机も、全てに黄金色のベールが掛けられていた。

 柔らかな世界に、居心地の悪さを覚えた。そう言えば、こんな早い時間に学校を出たのは久し振りかもしれない。アルバイトの出勤も夜からにしてもらっているし、いつもはゼミ室か図書館の自習室か。暗くなるまで残っていることがほとんどなのに、今はこうして日向の自室で絵本を捲っている。

 魔法使いのおばあさん。直訳したタイトルは表紙のままだった。魔女に見えるおばあさんが魔女と呼ばれることはなく、近くに住む村の住人や、遠くからやってきた王様や、旅から戻ってきた子ウサギたちを助けて、みんなからありがとうとたくさん感謝をされる。盛り上がりもオチもない物語は単調で、優しいだけの世界が広がっていた。

 だけれど、このおばあさんは誰かのために尽くすだけで、誰からも尽くされることはなかった。おばあさんの力を利用した人たちは、亡くなったおばあさんの墓に花を供えることはない。詳細には描かれていないが、おばあさんの墓が立っていることさえも知らないのだろう。

 優しさと、淋しさと。相反する感情を併せ持った世界に溜息が漏れる。ありがとうと感謝されることは嬉しいことだろうけれど、それでおばあさんの腹が膨れるわけではない。食べるものもままならない生活だったはずなのに、おばあさんが望むことは何もなかった。

 おばあさんは世界の残酷さに気付いていたのに、灰になるその瞬間まで笑っていた。ありがとうと告げられる感謝に、おばあさんもまた、何度も何度もありがとうと返していた。

 おばあさんはきっと、強かったのだ。強いからこそ、優しいだけの世界の表面だけで生きられた。救いのない話ではあったけれど、絵本としてはハッピーエンドとして片付けられる気がする。

 教授がこの絵本を選んだのは偶々見つけたからだと言っていたが、世界を飛び回っている人は面白い出逢いを引き当てている。優しいだけの物語でも、苦しいだけの結末でもない。読み終わった直後よりも少しずつ増えていく満足感に表紙を撫でて、他の児童書と重ねて置いた。

「読め、た!」

 ほとんど同じタイミングで日向も一冊目が終わったのか、裏表にびっしりと文字を綴ったルーズリーフを差し出してきた。小指の付け根部分はシャープペンを擦ったように黒くなっていて、それを指摘してあげると恥ずかしそうに笑った。

 五冊の中では須賀が読んでいた絵本の次にページの少ない本ではあったが、辞書と睨めっこしていたにしては早い。聞けば映画版を何度も観ていて、話の筋はすでに入っていたようだ。だったら内容自体にそこまで大きな間違いはないだろうと、直訳には出来ないようなスラングを教えていく。説明するたびに日向は嬉しそうに笑って、新しいルーズリーフに須賀の言葉を書き綴っていった。

 最後により的確な単語の意味を伝えて、無事に一冊目は終わった。

「筋は間違っていないし、後の四冊も一人で読めると思うよ」

「まだ直訳にしか出来ないので……。あとの四冊もお願いします!」

 自分が訳した一枚と、須賀が教えたスラングや文法の書き込んだ一枚を丁寧に重ねて、ばらばらにならないようファイルに閉じていく。部屋の綺麗さは慌てて片付けたのかもしれないと思っていたのに、整理整頓は日頃から心掛けているらしかった。

 須賀が読み終わった絵本を開いて、新しいルーズリーフに日本語訳を書いていく。魔法使いのおばあさん。そうとしか訳せないタイトルに、もっと何か良いものがないだろうかと考える。

 電子辞書は日向が使っているからと、ケースから半分だけ顔を出していた事典を滑り出す。片肘をついて手のひらに顎を乗せて、ぱらぱらと当てもなく捲っていく。乱雑に目を通していく日本語の中にはこれだと思えるものはなく、腹の底にもやもやと溜まっていくだけだった。

「秋久、ご飯にしましょう」

 とんとん、と軽いノック音が二回響いて、扉越しに日向を呼ぶ声がする。母親からの言葉にも、いつかと同じようにきゅるる、と腹ペコ虫が鳴いた。

「七時、か。結構詰めてやったね」

「うわぁ、あとちょっとだったのに……」

 鞄に入れっぱなしで放置していたスマートフォンを取り出してロック画面を表示させると、すっかり夜と呼べる時間が訪れていたことを知った。まだ二冊目の途中ではあったけれど、添削するのは学校でも出来る。手取り足取り教えなければいけないほど悲惨な出来ではなかったな。そう思って掛けていた前髪を散らし、マスクを引っ張り出す。

「え、帰るんですか?」

「え、うん。帰る、……けど?」

 ピアスに引っ掛からないよう慎重に耳を通し、プラスチックワイヤーの鼻に当たる位置を調節する。トートバッグを提げて立ち上がれば、驚いたように丸められた視線と合わさった。

 どうして須賀が帰ろうとしているのか本当に分からないと、困惑の広がった瞳にもしかして、と一つの考えが浮かぶ。流石にそこまで図々しい人ではないと思うのだけれど、と須賀は怖々とした調子で問いかけた。

「食べ終わるの、待ってろってこと?」

「違いますよ! 千秋さんの分もあるので食べてってください!」

 きゅるきゅると泣き叫びだした腹ペコ虫をさすって立ち上がった日向は、これ以上ないほどに嬉しそうだった。そこまでお腹が空いているのなら早く食べに行けばいい。そう思うのに、足止めしているのは須賀本人だった。

 ぴんと張った耳と、はち切れんばかりに振り揺れる尻尾が見える。動物を飼ったことなどないが、餌をもらう前の犬はこういう風に感情を剥き出しにしているのだろうか。呆然と立ち尽くしてしまうのは今日だけでも二回目で、突拍子の無さに開いた口が塞がらなかった。マスクをしていて良かったと思えたのは、頭の片隅に冷静な部分が残っていたからだろう。

「どうして、そんなことに?」

「うちの母親、料理が趣味で特技なんですよ。千秋さんが細くて心配だー、って話したら、じゃあお母さんが頑張ってお料理するねって言ってくれたんです」

「えっ、僕の話なんかしてるの?」

「はい。父親も妹も、千秋さんの名前は憶えてると思います、よ?」

 さも当たり前のように告げられて、立ち上がっていた須賀は膝から崩れ落ちてしまった。ぺったりとカーペットの上に座り込んで、がんがんと急激に痛む頭を押さえ込んだ。自分が何を言ったのか分かっていない日向は、突然の須賀に為す術もなく慌てるだけだ。

「千秋さん!? どうしたんですか!?」

 誰かの家を訪れること自体が初めてだった須賀には、夕飯を頂いて帰るのが普通なのか、それともあまりないことなのか、どちらが多数派であるのかが分からない。それでも、あの優しそうな女性の前で食べるのは嫌だった。

 玄関で聞かれたアレルギーの有無は、ここに繋がっていたのか。経験値の無さで予想も出来なかった展開に、須賀の指先が冷たくなる。座り込んだ膝先で手のひらを握り込み、どうにか冷静になろうと薄い皮膚に爪先を立てた。

 回避する術を考えて、驚きと混乱が勝ってしまった脳内では上手く収集が追い付かない。日向の方も須賀を無理矢理立たせるようなことは出来ず、隣にしゃがみ込んでしまっていた。

「秋久? どうかしたの?」

 そんな時にもう一度扉が叩かれたかと思うと、ある意味この混乱の元凶とも言える人物が入ってきた。揃ってしゃがみ込んでしまった姿に驚いた声をあげて、情けない表情を浮かべて見上げてくる息子から客人へと視線を移した。

「千秋さん? 大丈夫? どこか痛いの?」

 息子に倣ってしゃがみ込み、ずるずると項垂れてとうとう膝頭に頭を引っ付けた背中を撫でる。小さな手のひらから移ってくる体温に、須賀の驚きに固まっていた身体には余計な力が入ってしまう。

 今触れているのは日向の母親だと言い聞かせるように心の中で繰り返しても、せり上がってくる不快感に内臓が絞られたように痛んだ。頭と胃と心臓と、痛む箇所はどんどんと増えていった。

 強張っていく身体に気が付いたのか、温かい小さな手のひらが離れていく。冷えていく背中に安心して、バレないよう注意して深呼吸をした。埋めていた顔を上げて前にいる二人に視線を合わせると、額に張り付いた前髪が日向の男らしく節くれだった指に払われた。

 ゆっくりとした動作で前髪を耳に掛けられて、反対側にも垂れていた髪の毛を流される。伸びてくる手を振り払うことも、嫌だと子どもの様に首を振ることも出来ない。両耳と眉尻に飾られたピアスが晒されて、言い訳のしようもなかった。

「千秋さん、どうかしたんですか? なんでそんな、」

 詰まった言葉の続きは吐き出されなかった。だけれど自分がどんな顔をしているのかくらいは分かっていたから、情けない顔をして、とか、そういうことを言いたかったのだろうと思った。

「ご飯、って……」

「秋久に勉強を教えてくれてたんでしょう? だから、そのお礼。良かったら食べていってくれない?」

 教えるほどのことはしていないのに、お礼なのだと柔く微笑まれてしまっては断れそうにない。何より、心配そうに眉尻を下げて須賀を窺ってくる日向に悲しい思いをさせたくはない。

 落ち着いてきた思考回路でも回避出来そうな案は浮かんではこなくて、だったら正直に伝えるしかないと口元を引き締める。言わなくても済むなら言いたくなんてないが、渋っている理由を話す以外でこの空気から逃げ出せる方法が分からない。

 不快感に痛む薄っぺらい腹を押さえ、座り込んでいた体勢から正座の姿勢へと変える。いっそ駄々を捏ねて回避出来るならそうしたいと、逃げるように思ってしまった。

「すみません。量が食べられなくて、きっと残してしまいます」

「……理由は、聞いても大丈夫?」

「……はい。……、面倒がって、あまり食べていなかったら、本当に食べれなくなった、だけで」

 心配してくれる相手には申し訳なくなるくらいに杜撰な理由だった。真っ直ぐに見てくる二対の瞳が、今は何よりも怖い。

 元々食べ物に対して興味が無かったのか、毎日同じものを食べていても特に文句はなかった。小学生に上がった頃から自分で準備するように、とお金だけを渡されていたのも原因になっているだろう。

 食事を選ぶのが面倒で、準備するのが面倒で、買いに行くのが面倒で。それが積み重なった今では、アルバイトをしている喫茶店で出される賄いだけで生きていた。

 そうなると必然的に胃の容量は小さくなり、食べようと意識しても喉を通らない。今の須賀にとっては、おにぎりを一つ食べるのがやっとだった。

 気を遣うように、可哀想なものを見るように視線を向けていた瞳が、何かを相談するみたいに合わせられる。こんなしょうもない理由を告げられて、この二人はどんな反応をするだろうか。何も分からなくて、二人に向けていた視線をゆらゆらと揺らす。そんなぶれて定まらない視界の中で、二人は何かを決意したかのように頷き合った。

「嫌じゃなければ、食べていってくれないかしら? 残っても秋久が食べるから大丈夫よ」

「俺、いっぱい食べられるので! 安心してください!」

 優しく微笑む母親と、自信満々にガッツポーズを見せる日向の目尻には揃って笑い皺が刻まれていて、こうして並ぶと本当によく似ている。男の子は母親に似ると格好良くなると何かで読んだことがあったが、実証例を見られるとは思っていなかった。

 正直食べたくはなかったが、大丈夫だと微笑んでくれる彼らに、申し訳ない気持ちが募る。こんな話を聞かされて、優しい二人はきっと投げ出せなくなったのだろう。

 何を言われても、どんな反応をされても、きちんと説明はしたのだから。それだけが今の須賀が掲げられる免罪符だ。余計な心配をさせてしまうかもしれない、とは思ったが、須賀は眉尻を下げたままゆっくりと頷いた。



*****



 結局、須賀が食べられたのは五口にも満たなかった。これ以上は食べられないと箸を置いたときに見えた二人の歪められた頬は、瞼の裏に苛烈な光となって焼き付いていた。

 趣味と特技を兼ねていると教えられた母親の料理は、食に興味のない須賀でも色彩豊かで美味しそうだと思った。厚めに切られた豚肉と玉葱を使った生姜焼きに、こんもりと盛られた千切りキャベツ。具だくさんのお味噌汁には白みそが使われているのか、甘い風味が湯気に混じって漂っている。

 小鉢にはほうれん草の胡麻和えが添えられ、玄関で香っていた出汁の正体はかぼちゃの煮物だった。銀杏のように鮮やかな黄色とは違う、深みのある山吹色は煮込まれてほろほろと身を崩している。湯気の立ちのぼるダイニングテーブルを前に、日向の腹ペコ虫もこれ以上は待てないと急かしていた。

 椅子を引かれたのは日向の隣で、向かいには母親が座った。先に食べてましょう、と微笑む言葉に、他のご家族は帰ってきていないのだと知る。

 両手を合わせて、いただきます。

 当たり前のように手のひらを合わせた二人に、須賀は泣きたい気持ちになった。夕陽よりもずっと柔らかなクリーム色の灯りの下で、湯気の立ち上ぼる食卓を囲む。教えてもらったおかげで児童書が読めたのだと嬉しさをこめて話す日向に、母親は頷くだけで言葉は溢さない。それでも、慈愛に満ち溢れた眼差しを惜しみなく注いでいる。

 この空間に不釣り合いなのは、自分だけだと思った。手作り料理の香りも、橙色に灯る光も、キッチン台やテレビ台の横に飾られた花も、朗らかに交換されていく言葉も、黒を纏った自分には似合わない。慣れていない時間に、シャツの下はびっしりと冷や汗が伝っていた。

「すみません。ちょっと、強引でした」

 食べれなくてすみません、と頭を下げ続ける須賀に、最後まで母親は優しかった。元運動部の息子に合わせて作っちゃったから当たり前よ、と笑ってくれてはいたけれど、明らかに女性である日向の母親と同じくらいしか盛られていない。よく見かける日向の友人であれば、あれくらいの量なんて余裕で完食するだろう。

 残してしまった申し訳なさと、満足に食べられない情けなさで心を落ち込ませていると、気を遣ってくれた日向が途中まで送っていくと二階から鞄を下ろしてきた。やっとこの柔らかな空間から解放されるのだと、詰めていた空気を溢したのはしっかりと二人に見られていたが、気を回す余力なんて残ってはいない。

 街灯が点在する中を、一人分の距離を空けて並んで歩く。靴下にサンダルを履いた日向が歩くたびに砂を蹴る音が聞こえ、静かな住宅地では一際大きく響く。

「謝らなくて大丈夫だよ。二人とも何も、悪くないんだから」

 ぽつりぽつりと、沈んだ声が往復する。いつもは図々しいくらい積極的な日向も、流石に今回のことは勝手が過ぎたと反省していた。その証拠に溌溂とした声は形を潜め、窺うようにちらちらと須賀の横顔を見つめるだけだった。

 門を通ってすぐ耳に掛けていた前髪を払い、マスクをつけてしまった須賀は今どんな表情をしているのか、日向には少しも分からない。必要以上に凪いだ声色からは、感情の全てが消し去られているみたいだ。

「ここでいいよ、ありがとう」

 大学が見え始めた辺りで足を止めた須賀に、日向はやっぱり不安げな視線を向ける。知り合って間もない年下にさせる表情ではないと、須賀はこっそり溜息を吐いた。

「千秋さん、俺、」

「持ってきてくれたら確認するから、頑張ってね」

 眉根を寄せた少年が何かを告げる前に、大人びた笑みさえ浮かべて言葉を被せていく。口角を引き攣らせたところで相手には届かないのに、言い訳染みた表情は剥がせそうになかった。

 言わせてくれないのだと悟った日向は顔を強張らせ、飲み込んだ言葉がうっかり零れ落ちないように唇を噛み締める。悲痛さを乗せた表情なんて似合わないと思って、そんな顔をさせてしまったのは自分なのだと罪悪感に苛まれた。これ以上は見ていられないと、踵を返した背中には次の約束が投げられる。

「月曜! あそこで待っていてください!」

 灯りの点いた家に迷惑だろうと思うのに、絶対ですよと叫ぶ少年を安心させてあげることは自分には出来ないのだと、須賀はそっと右耳のピアスを触った。銀色の鈍い輝きは、いつだって変わらずに須賀を飾っている。

 須賀を囲む当たり前は、この身なりだけだった。気分次第で増えていくピアスと、光を吸収して飲み込んでいく黒い服。これだけが自分を守る全てで、これだけでいいと思っていた。

 それなのに、自分でも気が付かないうちに日向の存在が大きくなってしまった。避けようと思っても容赦なく入り込んできて、心の真ん中で太陽みたいに輝いている。千秋さん、と涼やかな明るい声で呼ばれると力になりたいと思ったし、頬を染めた笑顔を向けられるとこちらまで笑いそうになる。

 二回目に会ったときから下の名前で呼んでくる程度には図々しいのに、裏表のない言葉は真っ直ぐに響いてくる。素直で、純粋で、微笑ましくて。だからこそ眩しくて仕方がなかった。

 目に痛いほど白さを包み込んだ電灯の下で、開いた手のひらを見つめる。光を反射する青白さに、節のない指は女性のようにも見えた。健康的に焼けた日向とは似つかわしくない。こんな薄い手のひらでは、何ひとつ掴めない。

 微かに残っているのは煮物の香りだろうか。リビングにいたのは少しの時間たったのに、垂れた前髪からは出汁の香りがする。母親と呼ばれる存在の手作りを食べたのは初めてだった。温かな料理を前に手を合わせ、今日あった出来事を交換しながら食事をする。物語の描写にだけ許されていると思っていたのに、この現実世界にもあんな穏やかで、柔らかい場所があったのだ。

 思い出しても目映いだけの光景に、踏ん張っていたはずの足から力が抜けていく。ふらふらと覚束ない足を何とか動かして、大学を囲っている塀に凭れ、抗うこともなく崩れていった。

 目を閉じた先には火花が散って、日向と、日向の母親が浮かんでは消えていく。日向よりも濃く刻まれた笑い皺は、彼女が今までの人生をどれだけ穏やかで、幸せの中に過ごしていたのかを物語っていた。

 額に張り付いていた前髪を日向に払われてしまったときも、食事をするからとマスクを外したときも、彼女は何も言わなかった。喫煙所で出会った日向も何も言ってはこなくて、そんな心優しいところもそっくりだ。

 震えていたのは力の入らない足と、握り締め過ぎた拳と、それから。

「なんで、いまさら、」

 好きだと、思ってしまった。ひたむきに頑張ろうとする姿勢も、分け隔てなく配られる優しさも、額を滑っていった節の目立つ指も、感情のままに変わっていく表情も、彼を取り巻いているもの一つひとつを、好きになってしまった。

 膝頭にじわじわと温かさが染みていく。瞼の裏は弾け飛ぶ火花のせいで燃えるように眩しい。頭の奥の方が痺れて、好きだ、好きだと震えている心を凍らせていく。

 思い出す日向は眩しくて、さっきまで一緒にいたのにどんな顔をしていたのか分からなくなっていく。晩御飯だと呼んでくる声、橙色の灯り、千秋さんと声に出すたび揺れていた見えないはずの尻尾、甘い出汁の香り。

 何もかもが違っていた。ピアスと、黒い服と、少しの語学知識しか持っていない自分は相応しくない。似つかわしくない。明日にもきっと日向は目が覚めて、自分の隣に近寄らなくなる。

 珍しいだけなのだから、と弾ける暗闇の中で言い聞かせた。日向と自分では過ごしていく場所があまりにも違っていて、だから今は興味を持たれているだけ。ただ、それだけなのだ。

 実際に日向がどう思っているかなんて、須賀には分かるはずもない。だけれどそう言い聞かせておかないと、這い上がってくる恐怖に負けてしまいそうだった。

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