雪麗

弱恣ゆづる

僕の天使へ

 小説の最初には、よく『誰々に捧げる』と書いてある。

 物心ついた時から、私には一生そういった相手ができないものだと思っていて、自分が文学の道を歩むとも思っておらず。

 だからこそ、羨望を抱いたものだった。


 だけれど、小説家になった今、私には真っ先に思い浮かぶ人物がいる。

 彼は、私が愛した最初で最後の人だ。


──私は、私の天使、×× にこの本を捧げる。


 君への想いは、そんな半端な物じゃないよな。


 私はパソコンを開いて打ち込んだ。

『──これは彼と私が死ぬまでの物語だ』と。


 そして彼に貰った、もう一方の銀色のシャープペンシルで、指の皺に沿って、傷をつけ始めた。歪んでしまった愛と血が、君の心に染み込むように。

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