第34話 メトの暴発

「で、そろそろお前のその変わり様について聞いてもいいか?」


メトの怒りは収まり全裸事件についての話が落着したので俺はもう一つの気になる事柄。

何故彼女が激太りしたのかを本人に尋ねた。


「・・・そうね、この姿を見られちゃったし、隠しても意味はないわね」

自分の腹を見てメトは見るからに落ち込んだ様子だった。

「別に話したくないなら話さなくても良いのですよ」

「そうだぞ」

珍しくキャミコがメトに優しい。

ヨルガもそれに同調していた。

二人してどうした?裸のことなんかより問題はこっちだろ。

聞きたいのは俺だけなのか?

だって気になるだろ?


「おいおいお前ら良い子ちゃんかよ。昨日まで容姿だけは美少女だったメトが現在は自分の体重で膝を壊しそうになってるんだぞ。すげえ笑えるだろうが!話をさせんかい!」

「マオ、いまの発言は良くないのですよ」

「私も流石にダメだと思うぞ」

二人は俺の言葉を聞いて直ぐにメトを庇った。メトは俺の方を見て眉根を寄せていた。

「確かに人の容姿を馬鹿にするのは良くない、それは分かる。でもな俺とこいつの場合はそれは当てはまらない。こいつは散々、クソ野郎だの、セクハラゴミ虫だの、粗末だの言ってきたからな。こういう時には俺だけはこいつを弄ってもいいんだよ、なぁメトちゃん?お膝は大丈夫ですかぁ?」


こうなったのがヨルガやキャミコならばこんな発言を俺はしない。

メトだからするのだ。

こいつが何度無意味に俺に暴力を振るったのか?数えたらキリがない。

たまにはやり返してもバチは当たらないだろう。


「膝は大丈夫よ、お馬鹿さん。でも少し体が重いの。後で背中に乗ってあげるから楽しみにしてなさい」

「背中が凝ってたから丁度良かった、いつもの体重だと軽すぎるからな。今の重すぎるメトさんなら俺の筋肉の凝りも解れるだろうよ」

「いい声で鳴かせてあげる」

「メトさんにマッサージして貰えるなんて光栄ですよ」

「ふふふふふ」

「ははははは」

渇いた笑いが辺りに響く。


「喧嘩はやめるのです、マオ、注意ひとつですよ。三つ貯まったら罰ゲームなのです」

「罰ゲームって?」

「食事抜きなんてどうだ?」

「じゃあそれなのです」

ヨルガの提案をキャミコが承認する。

「キャミコも結構横暴だな。はいはいわかりましたよ。ごめんねメトちゃん」

俺はメトに謝った振りをした。

「二人ともありがとう。でも別にいいわ。気にしてないから」

それは嘘なのはわかる。

こめかみに青筋が立ってるよ?


「じゃあもう一回俺から質問させてもらうな。メト、お前のそのナリはどうしたんだ?」

「・・・みんなもわかってるでしょ。これは精霊揺れの暴発の所為よ」

メトは俺の質問に嫌そうな顔をしながら答えた。

「メトの精霊揺れの衝動は体を冷やすことじゃなかったか?」

ヨルガがメトに問いかける。

「衝動はね、でも暴発は違うの。何故かはわからないけどこうなるのよ」

「なんで激太りするんだよ、あまりにも衝動と暴発の仕様が違いすぎるだろ」

「私だって知らないわよ」

「いつ元に戻るのです?」

「少なくとも明日は無理ね」

「どのくらいかかるのです?」

「正直わからないわ、その時々だから。でも放置すれば十日くらいかしら?」

「五級魔術師の時はどのくらいで元に戻ったんだ?」

「一日くらい?」

「今は二級なら八日か」

「そうね、前後するから多く見積もると十日ってこと」

暴発の期間は精霊の種類によって違うが、成長度合いによりそれが延びるのは同じだ。

大抵が一つ魔術を得る度に倍の長さになる。

俺の場合は王都の鐘一つ分だったので三級魔術師になった今だと一日程度暴発の期間が続くだろう。

メトは現在二級魔術師なので、五級魔術師の時に暴発が終わるまで一日掛かったならば倍の倍の倍となり八日となるわけだ。


今のメトの状態は俺から見れば愉快な姿ではあるが、体重の急激な増加が自分に起きたら大変そうではある。

冷たい食べ物だけ食べていればいい。

メトの精霊揺れは楽そうだ、と思っていたがそうでもないようだった。

「魔術は使えるのですか?」

「それは大丈夫よ」

「メトの精霊揺れは衝動と暴発が違うタイプなのだな。そこは私と似ている」

「メトと似ている?因みにヨルガのはどういうものなんだ?話せるなら教えてくれ」

「別に構わない。いつかは言っておかないとと思っていたからな」

「私の場合は衝動は酒を飲みたくなること、そして暴発は強制的に酔った状態になり、周囲の者とそれが同調するようになる」

「えっと、つまり?」

「暴発するとまず私が酔う、それが周りのみんなへと伝播してみんなも酔う。ということだ」

悪酔い状態のヨルガが量産されるのか、それは大変そうだ。

「範囲はどのくらいだ?」

「範囲はあんまり広くないぞ。少なくともリズベルを覆ったりはしない」

「そんなに広範囲だったら暴動になるだろ」

「そうだな、今なら探索者組合くらいか?」

十分広いじゃねーか。

「伝播って酔うだけなのか?」

「感情が伝播することもあるな、喧嘩っ早くなったりな」

それは・・・もしいつかみたいにヨルガが服を脱ぎたくなったら周囲にいる街の人間も全裸祭りを開催するってことか?

探索者が全員ヨルガみたいになったら本当に街が半壊するかもしれない。

「ヨルガ、定期的に酒は飲んでもいい。だから絶対に暴発は起こすなよ」

「うむ、努力しよう」

暴発は衝動を無視するか魔術切れ、そのどちらかが切っ掛けになる。

魔術切れの方は兎も角、衝動の方なら対応可能だ。

これからも俺達は定期的にヨルガに酒を飲ませてリズベルが崩壊しないように頑張らないといけないようだった。

だからヨルガの元同僚である兵士達も殴られながらもヨルガの酒に付き合っていたのだと今理解した。

「俺みたいに衝動と暴発がほぼ同じというわけではないんだな」

任意と強制の違いはあるが、俺の衝動と暴発はほぼ同じ。

違いは一つ、我慢が可能か不可能かだけだ。

衝動は小腹が空いている状態、暴発は餓死寸前で自制が効かなくなっているのを想像して貰えば良い。つまり暴発時の俺の頭のネジは完全に外れてしまうのである。

「キャミコはどうなのよ」

「私はまだ言いたくないのです」

順番というわけではないが、おのずと俺達の視線は最後に残って自分の魔術についてはほとんど語ることのないキャミコの方へと移動した、だが直後に彼女はキッパリと話さないと断言した。

「これは無理矢理聞き出そうってことじゃないから別に構わないだろ?」

「そうね」

「ありがとうなのです」

「人には言えない事情もあるものね、私も今回みたいにバレなきゃ言うつもりもなかったし」

「その内話すのです」

キャミコは誰にも聞こえないような声でぽつりと呟いた。

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