19.&エピローグ


「どうしたの?」


 奏がそれだけを言って何かを考えているので冴子が声を掛ける。


「あくまで私の推測なんですが、その宮部って人……、最初から拓海さんを利用するつもりでいたんじゃないでしょうか……?」


「「……え?」」


 奏の言葉に冴子と拓海が同時に声を上げる。


「その前に、拓海さんに一つ聞きたいことがあります。どうして、翼さんの家に行ったのですか?」


「それは……、宮部が憎い相手を苦しみながら殺したらきっとスカッとしますよって言ってたから……」


 奏の言葉に拓海が答える。


「しかし、それでは拓海さんが捕まる可能性が高いですよね?」


「……だから、放火したら宮部と合流してすぐに海外にとんずらしようって……」


「もう一つ、良いですか?どうして、そんな話になったんですか?」


「翼が女たちと居て何かを調べているって部下から聞いて……そしたら、宮部がそう提案したんだ……」


 奏の質問に拓海が答える。


「……ということは、やはり最初から利用していた可能性が高いですね……。そして、溜まったお金を独り占めするために拓海さんを陥れたのでしょう……。恐らく宮部って人は一緒にいる女性たちが警察の類だと踏んだんじゃないでしょうか?それに、その会話ができるという事は宮部って人には拓海さんが翼さんを殺したいほど憎んでいるという事を知っていたという事ですよね?」


「あぁ……、宮部には翼の事を話してあったから……。じゃあ……、宮部は最初から俺を利用するために声を掛けたってことなのか……?」


 奏の言葉に拓海が愕然としながら言葉を綴る。


「ちなみにですが、発案は宮部って人ですよね?でも、主犯格は拓海さんだと聞いています。それは捕まった詐欺グループの人も言っていました。詐欺の指示を表立ってしていたのは拓海さんかもしれませんが、その指示の元々の発言者は宮部って人ではありませんか?」


「……あぁ、そう言われればそうだ……。宮部がああしたらどうだ?こうしたらどうだ?というのを俺が部下たちに指示していた……」


 奏の言葉に拓海が愕然となりながら言葉を綴る。


「……じゃあ、本当の首謀者は宮部ってことよね?」


「えぇ……、そうなります……」


 冴子が話を聞いて発した言葉に奏がそう頷く。



 ――――コンコンコン……。



 そこへ、取調室のドアがノックされた。


「……冴子さん、少しいいですか?」


 透が顔を出し、冴子を呼び出す。冴子が廊下に出ると、透が口を開いた。


「例の空港で宮部を捕まえたという連絡が来ました」


 透が冴子にそう報告する。


「透の読みが当たったってことね……」



 あの時、透がお願いしたのはある空港にも捜査員を向かわせて欲しいと言うことだった。一番近いのは中部国際空港になるが、一番近い空港は警察官が来る事を考えて避けている可能性がある。更に、名古屋駅から東京は新幹線一本で行くことが出来る。新幹線によっては二時間もかからずに東京駅に到着することが出来るので、あえて東京まで行き、人の多い成田空港を選んだ可能性があるんじゃないかと踏んだのだ。そして、その読みは当たり、成田空港で宮部を確保したという事だった。



「今、宮部をこちらに護送させているそうです」


「分かったわ……」


 冴子はそう言うと、取調室に再度入っていった。



「……宮部を確保したという連絡が来たわ」


「……良かったです……」


 冴子の話を聞いて、奏が安堵の声を出す。


「……そろそろ、行きましょうか……」


 冴子の言葉に拓海が席を立つ。そして、取調室を出て署が準備した護送車に乗るために駐車場に向かっている時だった。



「……拓海!!」


 一人の女性が拓海の名を叫ぶ。


「美香……」


 拓海が美香を見て驚きの顔をする。


 美香は拓海の近くに行こうとして、数人の警察官に取り押さえられていた。それでも、なんとか拓海の元に行こうともがきながら拓海の名前を呼び続ける。


「拓海……!!拓海……!!私……待ってるから!!拓海が罪を償って戻ってくるのを待ってるから……!!だから……絶対私の所に帰ってきてね!!」


 美香が泣きながら叫ぶように言葉を綴る。


「美……香……」


 拓海が一筋の涙を流す。


「じゃあ、行こうか……」


 護送担当の男が拓海を促し、車に乗せる。



 そして、車が発進した……。




~エピローグ~


「さて♪今回も無事事件解決しました♪というわけで……」


「「「お疲れ様でした~!!!」」」


 冴子の言葉にみんなでいつもの居酒屋で乾杯をする。


「いやぁ~♪今回の事件はある意味奏ちゃんのお手柄だな♪」


 紅蓮がハイボールを飲みながらそう言葉を綴る。


「そうだな。あの時、例の掛け子だった人に声を掛けなければここまでスピード解決にはならなかったかもしれないな」


 透も紅蓮と同じハイボールを片手にそう言葉を綴る。


「まぁ、休日返上になったがな」


 槙がいつもの淡々とした口調でレモンチューハイを飲みながら言う。


「……その節はすみません」


 奏がお行儀よくマンゴーサワーを両手で握り締めながら謝罪の言葉を述べる。


「まぁ、いいじゃないの♪その代わり、みんなに明日から特別に三日間の休暇よ♪事件も解決したしね♪」


 冴子がビールを飲みながら言葉を綴る。


「本当にお疲れ様♪みんな、休暇を楽しんでね♪」


 冴子が奏たちに労いの言葉を掛ける。



「へい!鶏肉の炭火焼きお待ち!!」


 店主である難波が大きな皿に盛られている鶏肉の炭火焼きをテーブルに置く。


「おっ♪旨そう♪」


 鶏肉の炭火焼きを見て紅蓮が声を上げる。


「事件解決、おめでとさん!後でサービス料理を持ってくるよ!!」


 難波が笑顔でそう言葉を綴る。


「ありがとう♪難波さん♪」


 冴子が感謝の言葉を述べる。


「奏は休暇中、物書きをするのか?」


 透が奏にそう声を掛ける。


「はい。そのつもりです」


 奏がそう返事をする。


「物書き?」


 槙がその言葉を聞いて聞き返す。


「はい。私、趣味で物語を書いているんです。本当は作家になりたかったのですが、なかなかコンテストに応募しても賞が取れなくて……。多分、何かが足りないのだとは思うのですが……」


 奏が照れ笑いしながらそう言葉を綴る。


「へぇ……。凄いわね、物語を書くなんて……。誰の影響?」


 冴子がそう聞く。


「えっと……。誰の影響というわけではないのですが……、お話を書くのは好きですね……」


 奏が困ったように返事をする。


「ジャンルは何なの?♪奏ちゃんのイメージ的に恋愛ものとか?それとも以外にコメディ?」


 紅蓮が興味津々で聞いてくる。


「えっと……、どちらかというとミステリーですね……」


「「「ミステリー?!」」」


 奏の言葉に冴子たちが驚くような声を上げる。


「それは何と言うか……、結構難しいジャンルだな……。一番構想とか伏線とかが難しそうな気がするが……」


 槙がそう言葉を綴る。


「そうですね……。大変と言えば大変なんですけど、書いていて楽しいのも確かなので……」


 奏が恥ずかしそうに言葉を綴る。


 その後は奏が今までどんな話を書いていたのかを透たちが聞いたりしてワイワイと過ごした。




「はぁ~……。ベッドが気持ちイイ……」


 あの後、奏は家に帰ってくるなり急いでお風呂に入り、出てくるとベッドに倒れ込んだ。特殊捜査員として初めて事件に関わり、無事に解決できたことに心の底から安堵する。


「明日は必ずメモリースティックを買いに行って……執筆して……」


 明日の予定を奏が呟く。


「誰の影響……か……」


 冴子の言葉を思い出して奏がポツリと呟く。そして、ベッドから起き上がり、机の引き出しを開ける。そして、一枚の写真を取りだし、その写真をぼんやりと眺めていた。





「……足を洗おうかな……」


 一人の男がそうぽつりと呟く。


 男はヤクザだった。ぱっと見はヤクザに見えないその男はヤクザを辞めようとしていた。しかし、そんな事を言えば何をされるか分からない……。男はズルズルと流されるままにヤクザから足を洗いたくても仕返しを恐れて足を洗えずにいた……。




「……あいつ、最近たるんでいるな……」


 ある一室で革張りのソファーに腰掛けながら強面の男が言う。その男は煙草を深く吸い、煙を吐き出す。


「そうですね……。どうしますか……?」


 男のすぐそばに立っている別の男が灰皿を差し出しながら、そう言葉を綴る。


「……いっちょ本気を見せてもらうか……。例のものを用意しろ……」


「はい……」


 強面の男の言葉に立っていた男がそう返事すると、あるものを取りに行くためにその部屋を出ていく。



 しばらくして、男が戻って来てあるものを強面の男に渡す。


「さて……、どんな奴を連れてくるかな……」


 強面の男がそのあるものを見ながら不気味に笑った……。




(第二章に続く)

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