4章 12話


 なるほど。

 家族仲がいいみたいで、よかった。……でも、心配をかけちゃったか。

 一度ついた誤魔化しを引っ込めるわけにもいかないしな……。


『何もないですよ。プライドとかこだわりとか、大切なもので喧嘩しただけです』


 そう返信を送る。

 スマホをポケットにしまおうとすると、すぐに凪咲さんから返信がきた。


『まぁ晴翔君のお母さんが誇らしげに夜、電話くれたからさ。私はもう全部知ってたんだけどね!』


「だったら何で一回聞いた?」


 僕を泳がせて楽しんでたでしょ? 絶対そうでしょ。

 隠してた僕、めっちゃダサいじゃん……。


 電車が止まる音が響く中で、思わず口に出して突っ込んじゃったじゃないか。恥ずかしい。

 周りから、変な目で見られてないよね?

 周囲を確認してから、電車へと乗った。


『パパも根性がある坊主だってニコニコで褒めてたよ。妹のために、ありがとね!』


 保護者同士の繋がりって怖いなぁ……。

 ネット社会だと、井戸端会議のように近所で話が広まるだけじゃ済まない。

 どこからどこへ話が漏れるか分からない――。


 昼休み。

 僕は教室までやってきた部長に連れ出され、演劇部の部室へと向かった。

 昨日のことで沙汰がくだされるか、説教をされるか……。


 覚悟を決めて部室への扉を開くと――

「――晴翔、すまなかった!」

 綺麗に腰を九十度折った武内君が、扉を開けるなり部室の中から謝ってきた。


 え、何コレ……。

 驚きすぎて、思わず閉めちゃったんだけど。

 扉の前から後ずさり、廊下へ下がろうとするけど……。

 部長が背中を押し、無理やり部室内へ入れられた。

 逃げ場が、ない!


「え、あの……。どうしたの? 昨日は、あんなだったのに……」


「昨日は、すまん。……言い訳だが、悔しくて感情的になっちまった」


「……悔しくて?」


「声だけでも、演技者として波希マグロって人に負けてると自覚したのもあるが……。何より、あれだけの演技力がある人間が、表舞台じゃなくネットの世界で燻り続けてる現状が悔しかったんだ。だから、熱くなって思ってもないことまで口走って……。本当に、すまなかった」


 改めて、武内君は深々と頭を下げてくる。

 いや、あの……。これ、どうすればいいの!?

 波希マグロさんのことだから、僕が許すっていうのも変だし!


「……春日。武内もな、過去に劇団で揉めたらしいんだよ。だから業界の理不尽とか、実力以外のもので評価されるのが嫌なんだと。……せっかく、いい台本もできたんだ。揉めたままで劇が失敗なんて、俺も嫌だ。許すのは無理でも、反省してるのを受け入れてやってくれないか? 劇を成功させるためにも、よ」


「わ、分かりました! 協力して劇を成功させたいのは僕も一緒です! だからもう頭を上げて!」


 お弁当をゆっくりと食べる時間がなくなる程、謝られ続けたけど……。

 いい劇を観客に披露したいって共通の目標のため、サポートをお願いしてやっと、武内君は頭を上げてくれた。

 その放課後から、上演に向けた準備のスタートを無事に切れた。

 ほっとした様子の部員たちが協力してくれて、僕はいつもと違う作業……。


 今まで全く違う立ち位置にいながらも、皆と協力しながら準備を進めていった――。



―――――――――――

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