遠い君の声音が糸となり
長久
ネットで出会った恩人
1章 1話
小学校の時に、糸電話というものを作ったことがある。
穴の空いた紙コップ同士に糸を繋げて、少し遠い相手と言葉を交わすことができる道具だった。
昔はそれで遠い距離にいる人と連絡を取り合ったりしたらしいけど、今は違う。
スマホとかパソコンにインターネットがあれば、顔も見えない遠くにいる人と深く関われる。
メッセージとか、直接声を繋いで共通の趣味を楽しんだりとか。
だからこそ、問題もたくさん起きやすい。
今、ネットでたくさんの人が繋がる空間が重い雰囲気になってるのは――僕のせいだ。
「一緒に演じてくださり、ありがとうございました! 最後まで聞いてくださった皆様も、ありがとうございました!」
『あ、お疲れ様でした! ……えっと、
「ありがとうございます! 楽しかったです!」
『そう、ですね。元気と一生懸命さが伝わってくる演技でしたね。声だけの劇だからこそ、声からはその人柄が伝わってくると言いますか……』
折角の生声劇が終演したばかりなのに……。
コメント欄が同情溢れる言葉になってるのは……間違いなく、僕のせいだ。
それでも――視聴者が見てくれてる間は絶対に、辛いなんて言っちゃいけない。まだ、ダメだ。
生声劇や演技動画の投稿を楽しめるスマホアプリ。
そこで生声劇のコラボ者を募集していた方が、言葉を選ぶようにそう言ってくれた。
僕に気を遣っているのは、よく分かる。
昔から、人の感情の機微に敏感だと通知表にも書かれてたから。
高校から帰ってきて、アルバイトに行くまでに練習も兼ねてと思ったけど……。
下手くそな自分が、悔しくて堪らない。
机に置かれている『実力判定証、春日晴翔殿』と書かれた、グラフ付きで演技力を評価してもらった用紙が目に入る。評価は、最低のFランク。来期も基礎クラスが確定だ。
小学校五年生の春から高校二年生になった今まで、六年間も真面目に通ってるのに……。
高校に入ってからは少人数クラスじゃなく個人レッスンのスクールを受講してるのにな……。
努力の実らなさに胸が痛くなり、スマホに視線を戻す。
コメント欄には『七草兎さん、頑張れ』、『まぁ演技の基本は楽しむことだから!』、『絵が上手いし何ごとも一生懸命なんだね』などと、優しいリスナーの皆様の励ましがポツポツと流れていた。
ジワリと涙が滲むのを、グッと唇を噛んで耐える。
ダメだ、弱気になるな。折角の生声劇の場で、空気を悪くしてはいけない。
一緒にコラボしてくださった人にも、最後まで聞いてくれたリスナーさんにも……失礼だ。
生声劇後のアフタートークが終わるまで、キチンと明るくしないと。
閉幕するまでが、劇なんだから……。劇は、お芝居は人を楽しませる為にあるんだから。
「今回はありがとうございました! よかったら、また生声劇や録音動画でコラボしましょう!」
『あ、はい。また機会があったらお願いします。それでは皆さん、ありがとうございました~』
コラボ者様は、そう言って劇を終了にした。
すかさずフレンド申請を送るが――フレンドフォローは、今回も返ってこない。
消化不良……いや、このまま終わるのは悔しすぎる。
小学校四年生の時、クラスで話題になってたアニメや舞台を見て……。アニメや演劇関連の仕事に憧れた初心を思い出そう。
ヌルヌルと動く作画、綺麗なアニメーション。
そして映像に魂を吹き込み、聞いてると鳥肌が立つほど魅了される声の演技。
舞台の上から、キャラクターが憑依したように観客まで虜にする演技。
アニメーターや声優、俳優みたいな小学生でも聞いたことのある仕事に就きたいと思って……。
親に頼み込み、後で全部のお金を返す条件で声優とイラストのスクールに通わせてもらった。
動画や音声編集も、SNSでの企画に頼み込んで経験を積ませてもらった。
機材だって、揃えてもらった。帳簿だって、調べて自分でつけてる。
将来のために、こういうお金の知識を学ぶのも必要だっていうから。
実際、アルバイトして自分で借りするようになってからは、とても大切だなと思いはじめた。
「イラストの方はな……」
イラストに関しては長年かけても、アマチュアとしてそこそこ。
中学校まで通っていたスクールで学んだ基礎と、有料講義や動画サイトを見ながら液晶タブレットで描いて描いて描きまくった。
そのイラストをSNSに投稿して……。今ではフォロワー数も、そこそこだ。
パッと目に入るイラストは、フォロワー数が少ない人向けのタグをつけて投稿すると、それなりの人に見てもらえる。
とはいえ、アニメーターやイラストレーターになれる程の画力や速度、フォロワー数でもない。
「イラストもだけど、声もな……。そもそも再生ボタンを押してもらうところまで、いかないからなぁ……」
声活動用のアカウントとのフォロワー数の差に、気持ちが落ちる。
声活動アプリをイジっていると、生声劇とは違うページに移った。
数十秒程度の短い掛け合い声劇台本で、コラボ者を募るショート動画が投稿されてるページをみてみる。
そこのトップには、コラボ数が百を超える有名演者さんの名前があった。
「
登録日は最近なのに、あっという間にトップになった女性役者のアカウント……。
下手くそな僕がコラボ動画を投稿しようなんて……。身の程知らず、だよな?
そうとは思いつつも、好奇心には勝てない。
自分がやりたいことをやれ。両親の教えが頭の中で聞こえる気がするよ。
―――――――――――
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本作はカクヨムコン10に参加中の作品です。
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