第2話

 ***


 引っ越してきたばかりの町は、海のある小さな町だった。


 新築の匂いのする家を出て、住宅街を抜けると、広いバス道路に突きあたる。

 長く続いている堤防の向こうは、おだやかで真っ青な海。

 その海を背に、ぽつんと置かれているバス停のベンチには、誰も座っていない。


 ポニーテールに結んだ黒い髪を海風になびかせながら、わたしは道路を渡り、時刻表を確認した。


「え、うそ」


 一時間に二本しかないバスは、行ってしまったばかり。

 バスの時間を勘違いしていたんだ。転校二日目から、痛恨のミス。


 わたしは呆然と、その場に立ちつくす。

 どうしようか……次のバスを待っていたら完全に遅刻。

 かといって歩いても、だいぶ距離があったはず。


「どっちにしろ、遅刻じゃん……」


 昨日は転校先の高校まで、梨本なしもとさんの車で連れていってもらった。

 今日も「送ってあげるよ」と言われたけれど、断った。

 バスに乗って、高校の前で降りるだけ。

 転校二日目でもそのくらいはできる……と思ったから。


 家に戻って梨本さんに送ってもらおうか。

 きっと梨本さんは、すぐに車を出してくれるだろう。

 だけどわたしはその考えを振り払った。


 仕事中の梨本さんに、煩わしい思いはさせたくない。

 でももし、家にいるのがお父さんだったら……わたしは素直に甘えていたのかな。


「……バカみたい」


 考えても仕方ないことを考えて、小さくため息をつく。

 そして海に沿って、ゆっくりと歩きはじめた。

 ここでぼうっと三十分待つより、前に進んでいたほうがいい。

 もちろん歩いたことのない道だけど、バス通りを進んでいけば、そのうちたどり着くだろう。


 海から吹く風が、潮の匂いを運んできた。梅雨入り前の空は、海と同じ青。

 わたしの心とは正反対の、あまりにもまぶしすぎる景色に、思わず目を細めた。

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