待ってください、寿崎さん!

卯野ましろ

第1話 扇風機で知らない世界へ

「……スゥゥゥゥゥザキ様あぁ~っ!」

「おわぁーっ!」


 おれは今、多くの人々(?)に追われている。しかも全然知らない場所で。

 てか何気に、おれの名前が知られている!




「ふぅー……」


 数時間前、おれは漫画を買うために家を出た。これは毎年のように思っていることだろうが、生きてきた中でナンバーワンに暑い夏。自宅から徒歩二、三分で着く店へ行く途中で大量の汗が出る。


「少し涼んでいくかい?」


 声をかけられて、おれは止まった。おっちゃんが道端で商売している。扇風機が動いていて、おっちゃんはそれを指差していた。


「え、良いんすか?」

「ああ!」

「……ありがとうございます」


 お言葉に甘えて、おれは扇風機に顔を近づけた。

 はー、涼しい。

 我々は宇宙人だ。

 助かったぜ、おっちゃ「んんっ!」

 癒され始めた直後、一気に風が強くなった。

 というか風向きが変わっている!

 今にも吸い込まれそう!


「う、うわあーっ!」


 案の定、おれは吸い込まれてしまった。




「ん……」


 目を覚ますと、おれの視界に見慣れない風景が飛び込んできた。

 え!

 ここ、どこだよ?

 キョロキョロ見回しても誰もいない……と思っていた矢先。


「あっ、みんな! こっちだ!」


 この声は、さっきのおっちゃん!

 もしかして、また助けてくれるのか?

 期待に胸を膨らませ、おれが後ろを向くと。


「あっ、あの彼ね!」

「間違いないよ!」

「寿崎って人!」


 おっちゃん以外に、たくさんの人……だけではなく何だか現実にはいなさそうな(たった今いることが判明したけど)生物も来た。


「……は?」


 みんな止まって、おれを見ている。

 何だ、何だ?

 とりあえず、おれは立ち上がった。


「……スゥゥゥゥゥザキ様あぁ~っ!」

「おわぁーっ!」


 見知らぬ軍団が叫びながら、おれに向かってきた。当然おれは怖くなって逃げた。

 そして今に至る。

 なぜだ。

 なぜ、今おれは追われているのだ。

 なぜ、おれは知らない場所に……というか世界に移動しているのか。

 おれは、おれはただ……。


「扇風機で涼んでいたっ……ただそれだけだぁ~っ!」


 そのとき、おれはハッとした。

 そうだ、そうだよな。

 おれは何も悪いこと、していないじゃん。

 それに……。


「待ってくださぁぁぁぁぁいっ!」


 声からして、あの人らも怒っていなさそうだ。

 ……よし!

 おれは落ち着きを取り戻してストップした。くるりと振り返る。近づく軍団。やはり厚はすごい。それでもビビっていたら先へ進めないので、その場を動かず彼らを待った。


「ハアッ、ハアッ……」

「やっと話ができる……」

「寿崎様ぁっ……」


 みんなは、おれの前で止まった。


「……で、どうしたんすか? みなさん……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

待ってください、寿崎さん! 卯野ましろ @unm46

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画