第26話 令嬢は魔女の弟子になった①
昼食を食べ終わった後、私たちは店舗へ向かった。途中、冒険者ギルドの前を通り過ぎたけれど、まだ雑貨屋に換金していないため、魔術師先生の依頼を頼むのは出来ない。
私の店は城下町の東側、城壁にほど近い場所にある。中央広場から離れ、城壁に近付くにつれて、活気が次第に薄れ、行き交う人々の姿も少なくなり。場所柄か、通り沿いには、まばらに閉まっている店も目に入るようになった。
そんな中、私の店はひっそりと佇んでいた。近づくと、微かな魔力結界の気配が空気に漂っているのを感じた。
店舗は一見すると少し古びているが、どこか温かみのある
私はごくりと唾を飲み込み、緊張で少し汗ばんだ手で、さっき受け取った鍵をドアロックに入れた。
「チン――」と澄んだ音が響き、瞬間的に魔力の波動が門全体に広がった。その揺らぎは、さざ波のように空気を震わせ、やがて静かに消えていく。
「これで結界が消えた?」
「ええ。これは一度限りの守りですからね。鍵には結界を解除する魔術を仕込まれています。それに、本館の四階のような魔術師が定期的に維持する時間までも静止する魔術とは違い、これは侵入者を防ぐ一時的な魔術ですから、中は埃っぽいかもしれません」
独り言のつもりだったのに、隣のライラから返事をもらってしまい、少し照れくさい気持ちになりながらも、私は頷き、二人で店の中へ入った。
中はライラの言う通り、埃だらけで、空気が少し乾いている。窓辺から射し込む光の中で、薄く積もった埃がキラキラと舞い上がり、この場所が長い間使われていなかったことを告げている。
今ここには私とライラ二人だけ、未来の店をちゃんと見たくて、私は仮面を外した。
一階を見渡すと、家具の配置や装飾から、かつて喫茶店として使われていたことがすぐに分かった。整然としてはいるものの、年月を感じさせる古びたテーブルと椅子が、どこか寂しげな雰囲気を漂わせている。
この家具を手入れして、そのまま喫茶店を続けるのもいいかもしれないわね。配置や装飾も真似すれば、手軽に始められそうだし。
「ライラ、二階も見てみましょう」
そう言って、階段を上がると、二階にはさらに多くの家具が片付けられていた。広いスペースの一角には、空っぽの本棚がいくつも並んでいる。
喫茶店と本屋を兼ねていたのでしょうか?
最後に三階へ足を踏み入れると、玄関口には靴置き場、少し進むとリビングルームがあり、壁際には本棚が並び、古びたソファと小さなテーブルが置かれている。小さな台所には埃をかぶった食器や傾いた椅子が見え、長らく使われていないことが窺える。
生活感を残したまま時が止まっているような場所だった。
両側に扉が閉ざされた部屋は、個人の部屋だと思う。
小さいけれど、ここには生活に必要なものがすべて揃っているわね。もしいつか外で泊まることがあれば、この空間を私好みに少し変えてもいいかもしれないわ。
ローズウッド館の自室は歴史的価値があるからと、メイド長に勝手に変えることを禁じられているけれど、この場所なら自由に飾ってもいいだよね。
少し浮き立つ気持ちで、私は左の部屋を見ようと、ドアノブに手を伸ばす。
それに触る瞬間、中から微妙な魔力の流れを感じた?!
「わあっ!」
驚きと恐怖に声を上げ、半歩後ずさってしまう。
「どうなさいました、お嬢様?」
「ライラ!中に…中に何かある!」
私の様子を見たライラは、即座にきりっとした表情に変わり、私を庇うように一歩前へ出た。背後の私を隠しつつ、あの部屋のドアを睨むように見つめ、その姿はまるで戦士のように臨戦態勢だ。
すると突然――
「なにをぐずぐずしておる、早く入りたまえ!」
威圧的で偉そうな女性の声が響き渡り、それと同時にドアが勢いよく開けられ、私たちは反射的に身を引いたが、その先に広がる光景に目を見張った。
部屋の中は、明らかに先ほどまでの古びた空間とは全く別の世界だった。豪華な装飾が施された広大な部屋には、高級そうなソファが中央に置かれ、その上で一人の女性が優雅に足を組んで座っていた。
その女性は、長い黒髪をたなびかせ、豪奢なローブを身にまとっている。ただそこに座っているだけで空間全体が彼女の存在感で圧倒されるようだった。
「妾は<預言の魔女>アリスティア。遥か昔より生き続け、この世界を守りし者」
女性はゆったりとこちらを指さしたかと思うと、目に見えない魔力の手が伸ばされ、私を庇っていたライラを力ずくで押し下げた。
「うっ……!」
ライラは驚きと信じられないという表情を浮かべながらも、抗う間もなくその場にうつ伏せに倒れ、やがて意識を失ってしまった。
「ライラ!」
私は驚きと心配で彼女のもとに駆け寄り、その様子を確認する。
幸いな事に、魔力によって気絶しただけで、目立った外傷はなさそうだった。
魔女は冷たい視線を私に向け、さらに言葉を続ける。
「さて、小娘よ。何を望む?さっさと願いを述べるがよい」
その声には圧倒的な力が込められ、まるで全身を見えない鎖で縛られているような重圧が私を覆った。
過去エマさんが私を守るために倒れた日のことの記憶が不意に蘇る、今度また誰かが私のせいで傷つくことなど、絶対に許さない。
私は必死にライラを守らなければという気持ちと、魔女の威圧感に押し潰されそうな恐怖が入り混じり、どう答えるべきか、頭を巡らせる。
魔女はまるでこちらの状況など気にする素振りも見せず、さらに問いを繰り返す。
「何をためらう?妾の時間を無駄にせぬように。願い事を述べよう!」
———————————————————————
悠月:
唐突にラスボスにも匹敵する魔女様が現れました。まるで物語を加速させるかのように、突然割り込んで、冒険を次のページへと急かします。
もし読者の皆様が、この小説の要素が混雑しすぎだと感じたのなら、本当にごめんなさい。基本的には、ベタな設定の混ぜ合わせだと思いますが、それでも登場する人物たちは皆、自分の人生の主人公です。
私はフリージアをカメラとして、この世界や生活する人々を観察したい訳ではないが、物語が広がると、人と人が交差し、絡み合うことで、面白い現象が起こり、それらはまた彼女自身を変えていくのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます