【3】「線路封鎖」
目元にハンカチを当て、時折、愛深くこちらを見る女性が見える。
必死にしがみ付きながら「行かないで!」と半狂乱する女の子の引力を感じる。
胸がつかえる。
上手に息ができない。
逃げたい、早く、ここから逃げたい。
誰か。
誰か助けて。
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「アシナメさん」
「ぇ?…あぁ…なんだ?」
ネモに声をかけられて、意識が現実に戻る。
どうやら長い事、ボーっとしていたようだ。
「どうやら、着いたみたいですよ」
「あ…あぁ……そうか…」
魔動車の窓枠に両目を合わせると、
山中をぶち抜く長い線路が見える。
「酷い顔だ。揺れで酔ったのですか?」
「いや…大丈夫だ。
へへへ…少し浮かれすぎたか…
自制だな…これは」
「?」
「さぁ!いこーぜ!」
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魔動車から降りると、
硬い地面で小石が潰れる音がした。
周囲は岩山で囲まれている。
しかし、
一直線の線路は月光を反射して、
黒いキャンパスに二本の平行線を描いている。
やはり計画的だ。
この場所から得られる情報だけでも、
ある程度の予想を立てられる。
ここの線路なら、たとえ新米運転手が運転していても
線路の問題に気づきやすい。
停車も十分に間に合う。
裏を読めば。
停車はさせたいが
脱線されて中身をダメにされては困るという事だ。
「いよいよ中身が気になるなぁ……ひひひ」
俺は、思わず顔をにやけさせた。
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爆破の準備は、到着してから
裏ギルドの連中は、やたらと爆弾設置の手際が良い。
その理由は、あまり深く考えなくてもわかる。
何の事はない『手慣れてる』だけだ。
しかし。
大量の爆弾を仕掛けたものの、
『線路を壊す』というのは、不可能に近い。
爆発を直撃させても、傷すらつかないだろう。
その理由は『魔法回路』による防壊魔法だ。
こういった、人命や流通に関わる建造物には、
ヘシオーム王国に属する魔法使い集団。
通称『賢者衆』が、強力な魔法を組み込んで破壊を防止している。
なので、今回爆弾で吹き飛ばすのは、
線路じゃなくて、岩山の方。
岩肌を発破で崩してしまって、線路を使えなくさせる訳だ。
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本来、ウドド聖山に響き渡るはずの、
山を崩さんばかりの爆発音は、一切無かった。
音を消し去る魔法で、振動が阻害されていたからだ。
「不響の風魔法。魔位8示の魔法ですね。
珍しく、そして難しい魔法だ。
雇い主の……虚神教とやらには、
よほど優秀な魔法使いがいるのでしょう」
ネモはあご髭を可愛がりながらそう言う。
魔法への
俺が知らない事を知っている。
それだけで意味がある。
やはりネモの知性が高いと見たのは正しかった。
何はともあれ、依頼は完遂だ。
線路の上には、崩れた大岩が
煮込んだ根菜の様に積み上がっている。
防壊魔法の影響か、大岩は線路に接触せず、若干浮いているが
これなら、とても列車が通れるとは思うまい。
「よし!よく頑張ってくれた!
ギルドまで送ろう!そこで報酬を受け取ってくれ!!」
例の白髪褐色肌の従者が、やたらと大きい声でそう言うと、
裏ギルドの悪漢たちは「楽な仕事だった」と、
鼻歌交じりに魔動車の荷台に乗り込み
ウドド聖山を後にした。
「へへ……おつむが足りないねぇ。
あれっぽっちの
一方、俺とネモは、岩陰に隠れて息を潜めていた。
線路を大岩で封鎖してから1時間ほど経った後、
4両編成の列車が、山の外側から姿を現した。
「アシナメさん、来ましたよ。
あの列車がそうじゃないですか?」
「お!!きたきた〜!
ご馳走のデリバリーだぜぇ」
やがて、煌々と光る両目で大岩を照らしたかと思えば、
途端。
ブレーキを作動させる甲高い摩擦音と共に、
列車は、急停止した。
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