第32話 クロリスサイド:本当は分かってた

 重い体を引きずって、子どもの頃の記憶をたどって人気のない教会へとたどり着く。

 ここは街で何か行事が開かれる時などに開放される以外、普段は誰も住んでいない、小さな無人の教会なのだ。

 でも旅人などが屋根を借りることができるように、礼拝堂の扉だけはいつでも開いている。


 その礼拝堂にやっとのことで入り込むと、それ以上はピクリとも動けなくて、私は地面に寝転がった。


 姉に殴られたお腹と、蹴られた頭から、生きるためのエネルギーが漏れ出ているかのようだった。刻一刻と、自分が弱っていっているのが、分かる。


 漏れ出る力を、なんとかして止めようとする。



 そういえば私が小さい頃から、誰かの手を握る時、その誰かの力を吸い取っているような、不思議な感覚がしていた。

 あれは気のせいだと、そんな気がするだけだと思っていたけれど、もしかしたら、本当に、私は誰かの力を吸い取っていたの??


 そんな魔法があるなんて、聞いたことないけれど。

 自然から聖なる力を吸収するみたいに、もしも人間からも、力が吸い取れるのなら……?



 お姉さまも小さい頃から、少しだけ聖なる力を使う事ができた。

 じゃあもしかしたらお姉さまも、人からも力を奪う事ができる?



 そして今、私の生気がお姉さまに奪われている……?

 だからこんなに、異常なほど頭もお腹も痛いのだろうか。


 流れ出る力を、どうやって止めればいいのか、分からない。

 力が、生気が、流れ出ていってしまう。

 自然から聖なる力を取り込んで回復しようとするけれど、それもできなかった。




 ――封印されているんだ。



 そこでやっと、私は気が付いた。

 呪われていたんじゃない。

 私の力が封印されたんだ。

 自然界から聖なる力をもらえる聖者の能力と、人間からも力を奪える能力を。



 だから牢屋から解放されて以来、私は特別な女の子じゃなくなったの?




 目がかすんできた。




 ニー…… ニー……




 地面に倒れ込む私の頬を、何かが舐めた。

 ガリガリに痩せた子猫だった。

 この教会に、棲みついているのだろうか。



 なんとか腕を動かして、ポケットを探ると、ビスケットが出てきた。

 それを猫に差し出すと、猫は嬉しそうに、私に頬をなすりつけてきてから、食べ始めた。



 ――可愛い。

 私もこの子みたいに、可愛くて誰からも愛される存在になりたかったの。




 ずっと、心のどこかで分かっていた。

 本当に愛されているのは、お姉さまのほう。

 私は周囲の同情をひいて、嘘をついて、陥れて、無理やり愛されているんだって。

 そうしないと誰からも愛されないんだって。


 お父様もお母様もお兄様も、本当に愛していたのはお姉さまのほう。


 私が欲しい物を、ニーナは全部持っていく。

 

 なんとかして奪い取っても、陥れても、そうやって手に入れた物は、その瞬間ゴミクズのように魅力が失われてしまう。


 どうしたらよかったんだろう。

 どうしたらお姉さまみたいに、全てを手に入れられるのだろう。


 奪っても、陥れても、どうやってもニーナは幸せになる。


 私が喉から手が出るほど欲しい物を、平気な顔して持っている。



 酷い。ズルい。お姉さま。ニーナ。ズルいズルい……。











 ず……る……





















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