第25話 クロリスサイド:天井のシャンデリア
目を見つめて、ニッコリと微笑む。
繋いだ手から、王子の力が流れ込んでくるのを感じる。
――よかった。ドレスディアとは違って、王子様には魅了が効くみたい。少しいつもよりも抵抗を感じるけど。何かしら、この力。……炎?
ちょうどよく、今まで流れていた曲が終わり、パーティーホールが雑然とする。
ダンスのお礼を言い合う人に、次に踊る人と交代する人。
「くっ……なんだこれ。お前は一体……頭が……」
「どうされたのですか、王子様。顔色が悪いわ」
普通なら私に見惚れてボーっとなるはずが、なぜか王子は本当に顔色が悪くなって、体調が悪そうだ。
――偶然かしら。今、急に体調が悪くなったの? そんなことある?
まあいい。それならそれで、やりようがある。
「大変。グウェン王子は体調がお悪いみたい。どこか休憩できる場所はないかしら」
私に好意的な、既に虜になっている衛兵に、声を掛ける。
「本当だ! グウェン王子。肩をお貸しいたします。お休みになられては」
「私も付き添います。1曲だけとはいえ、パートナーですもの。ね」
王子の目を見つめて、語り掛ける。
王子の寝室とまでは言わないけれど、休憩室だろうがなんだろうが、一緒に付いていってしまえば、既成事実だって作れる。
――なんでこんなに苦しんでいるんだか知らないけど、願ってもない状況だわ。
「くそっ。手を……離せ」
「おい、衛兵! その女を引き離せ! グウェン王子! 大丈夫か」
ドレスディアが血相を変えて近づいて来る。
その後ろからは、ニーナも。
――あ。そういえば物語で読んだ勇者は、聖者の力も、魔術師の力も、自分から受け入れない限り、何も効かない体質だったっけ。
勇者の末裔も、そうなのだろうか。
じゃあやっぱりこの魅了の力は、聖なる力か魔力かのどちらかなのかしら。
それとも全く別の力?
――なんでもいいわ。私にだけ使える、私だけの特別な力なのだから。
「おい! 手を離せと言っているだろう!」
ドレスディアがうるさいけれど、さすがに辺境伯令息でも、王子の命令には従うだろう。
「まあ、怖い。ね、グウェン王子、一緒に行きましょう。ゆっくりお休みになりたいでしょう?」
グウェン王子の目を見つめて、優しく優しく語り掛ける。
「離せ‼」
「え?」
驚いたことに、今にも倒れそうな土気色の顔をした具合の悪そうなグウェン王子が、私の手を荒々しく振り払った。
――どういうこと⁉ 魅了が効いているんじゃないの?
「この女怪しいぞ! 捕らえろ‼」
王子が私の手を振り払った事で、周囲の衛兵たちが、一斉に飛び掛かってきた。
「え……きゃっ痛い! 痛いわ! 酷い!」
気が付いたら、煌びやかな天井を見ていた。
なんと私は、衛兵たちに、無様に仰向けに床に取り押さえられていたのだ。
――なんでこんな……何が起こっているんだろう?
まさか王宮の舞踏会で、屈辱的に取り押さえられるなんて、信じられなくて。
キラキラと光るシャンデリアの蠟燭の火を眺めながら、まるで他人事のようにそう考えていた。
――私は誰にでも愛される、特別な女の子のはずなのに。
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