第13話 町歩き

 朝食の片付けが終わった後、身支度を整えたら、ランスロートと一緒に町へと繰り出した。


 私が普段町へ行くときは、買い出しのお手伝いで、パン屋さんや肉屋さん、食料品店などに行くくらいか。

 ベルさんとおばあと3人で、お昼休憩がてら外へ食事をしにいくこともある。


 だから入ったことのない店も多いけれど、そこまで広い町ではないので、どこに何があるのかは大体分かる。


「ランスはどこに行ってみたい?」

「どこでも。ニーナがいつも行っている店とか、好きな場所とか、行ってみたいところがあれば、教えてくれ」

「私の?」



 そう言われて考えてみる。

 確かに、ランスはどんな店がどこにあるのか分からないだろうから、この町のことを少しは知っている私が、良いと思うお店を紹介した方が楽しめるかもしれない。



 昼食はどこかで食べようと思っているので、色々と見てから決めてもらったらいいだろう。


「そうね。えーっと、あ、あそこのパン屋さんが、いつも宿屋で食べるパンを買っているところなの。白パン以外にも、色んなパンがあるのよ」

「そうか。王都に滞在中に、他の種類も食べてみたいな」

「あのお店では、宿屋に飾るお花を買っているの。よく私の部屋に飾ってって言ってくれて、売れ残りをいただけるのよ」

「……店員は男か?」

「ええ」

「もう売れ残りはもらうな」

「えー」



 確かに、売れ残りのお花をしょっちゅういただくのは申し訳ないなとも思っていたけれど。

 まあでも、私が聖女の力を無料で使ってはいけないのと同じように、花屋さんからお花をもらうなら、正当な報酬を払うべきだ。

 きっとランスもそう言いたいのだろう。

 今度から売れ残りをくれると言ったら、欲しい花だったら買い取ることにしようと思った。





 そう思っていたら、ちょうど外に飾っている花の様子を見に、いつもの店員さんが店先に出てきた。

「あ、ニーナちゃん。こんにちは。ちょうどよかった! いつも売れ残りで悪いけど、またニーナちゃんに持っていってもらおうかと思ってとっておいたんだ」

「あ! それなんですが……」


 もう無料ではいただけないと言おうかと思っていたのに、店員さんはすぐに店の中に引っ込んでしまった。

 ――まあいいか。売れ残りのお花を見てから、買い取るか決めよう。


「……今のが、いつも花をくれる店員か?」

「うん! そうだよ」


 ランスがなんだか、苦い顔をしている。


「ほらこれ。綺麗に花束にしておいたよ」

「可愛い! カーターさん。それなんですが、今度からお金をお支払いすることにします」

「ええ! いらないよお代なんて。売れ残りだし。それにニーナちゃんに流行り病を治してくれたおかげで、今こうして元気で働いていられるんだからさ。孫の病まで治してもらって……本当に、本当にニーナちゃんには感謝しているんだ」

「ありがとうございます。でも、もうきちんと治療費はいただいていますから。だから私も、お花の代金をお支払いしようかと」

「受け取っておくれよ。年寄りの生きがいだと思って」

「でも……」


 そこまで言われてしまうと、断りづらい。

 困った私は、隣のランスの顔を見上げた。


「……それはいい。それは受け取っていい」


 ――あ、これはいいのか。



 花屋のカーターさんからお花をいただいて、しっかりとお礼を言って、町歩きを続ける。




「あそこの魔道具屋さん、ちょっと気になっていたの。入った事ないんだけど、見てみていい?」

「もちろん」



 ところで2人で一緒に歩いていて、ニーナはある違和感を覚えていた。

 昨日ランスと再会してからも、なんとなく感じていたことだったのだけど。



「ランス、あなたなんだか変わった? なんというか、前は私に対してこんなに優しくなかったわよね」


 そう。

 私が王都に出てくる前、3年前までは、ランスはもっと、私に対する扱いが雑だった気がする。


 子どもの頃は、3歳差ということもあって、私の方がお姉さんで、ランスがいつも後をついてきていた。

 私もランスのことが可愛くて、いつもお世話をして、一緒に遊んでいた。


 だけどランスが12歳の頃くらいからだろうか。

 あまり話をしてくれなくなっていったのだ。

 一緒に出掛けようと誘っても、「忙しい」とか、「興味ない」とか言われて、たまにしか付き合ってくれなくなっていたように思う。


 成長して大人になって、紳士になったということだろうか。


「……素直になることにしただけだよ」

「素直?」

「そのうち分かる」


 

 良く分からなかったけれど、女性に対して優しくなったのはいいことなので、まあいいだろう。

 そのうち分かるとのことだし。




 気になりつつも、その話はそこまでにしておいて、私たちは魔道具屋さんに入ることにした。




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