第7話
「あなたには、他にやりたい事があるのではないですか?」
控室では聞いているものがいるかもしれないので、伊庭は絵里香のマンションに来ていた。
絵里香はリビングのソファーに座っている。
伊庭はダイニングの椅子に座っていた。
「どうしてそう思うの?」
「表情が違いますから。雨ラックスに出る時と他の仕事をする時では」
絵里香は思わず目を見開いた。
「何言ってるの?私はバラエティの帝王と呼ばれた雨宮ファミリーの一員なのよ。仕事も絶好調だし、文句なんかあるわけないじゃない」
絵里香は声を張り上げた。
だが、明らかに本心を隠していた。
絵里香には夢がある。
女優になる事だ。
だが、絵里香はバラエティで気に入られ、おバカアイドルとしてキャラが定着してしまった。しかも雨宮ファミリーの一員である。女優になるという事は、今の地位を捨てるという事になる。
絵里香は目を逸らしていた。
「話して下さい。絵里香。あなたは本当は何がしたいのですか?」
「あなたに言っても…… 」
絵里香は俯いて声を詰まらせている。
伊庭は立ち上がり、ソファの前のラグの上に座った。
「絵里香」
伊庭は絵里香の名前を優しく呼ぶと、後は絵里香が口を開くまで待っていた。
しばらくの時が過ぎて、絵里香は漸く顔を上げた。
その間、絵里香の中にずっと飲み込んで来た言葉がぐるぐる渦巻いていた。
「そうよ。伊庭さんの言う通り、私は……女優になりたいの!本当はバラエティに出たくない!おバカキャラなんか卒業したいの!」
一度口を開くと、絵里香の思いが数珠繋ぎに出て来て、絵里香はいつの間にか泣いていた。
伊庭は温かく包み込むような目で、絵里香を見つめている。
「絵里香、よく話してくれましたね。
僕から社長に話してみます。ですが、1つだけ気になる事があります」
「何?」
絵里香は一瞬胸を突かれた。
「絵里香は、演技の稽古をした事があるのですか?」
絵里香は目を丸くしている。
「本気で女優になりたいのでしたら、僕は絵里香の味方です」
伊庭の温かく包み込むような目を見て、絵里香の瞳に涙が浮かんだ。
「本当?」
「明日から仕事が終わったら、演技の稽古をしましょう。いつでもオーディションを受けられるように」
伊庭の言葉を聞いて、絵里香は漸く笑顔を見せたのである。
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