ゴムの化石【四十路独身女のリアル】

その子四十路

第1話 ゴムの化石

 数年前、ダブルガーゼのワイドパンツを購入した。紺×緑のチェック柄。

 おでかけ用の服だったのだが、どうもウエストのゴムがおかしい。高さ2センチくらいの幅広ゴムが、ツイストドーナツ並みにねじれている。ねじれたまま、ぐるりと輪になっていた。一生ほどけないメビウスの輪じゃん。

 ゴムの高さは2センチだが、ゴムの通し口は高さ1センチほど。なので、強制的にゴムが半分に折りたたまれてしまう。というより、なんでゴムの高さが2センチもあるんや。おかしくない?


 そのうえ、前述したようにねじれまくっているのだ。ごわごわして着心地最悪。ぜったい、裁断か、縫製をミスしとる。

 しばらくしてから気づいたので、返品もできない。

 数回がまんして着用したのだが、ごわごわが気になったので、タンスの肥やしにしていた。


 ごわごわするからこの服は好きじゃない……捨てるか? でも、そこそこの値段したしな。もったいないかな。ダブルガーゼ生地は気持ちがよいのだ。ゴムがしょうもないだけで。

 そうだ、部屋着にしよう! 幅広ゴムを平ゴムにすれば着れるやろ。あれ、ゴムの替え口がないな……


「こいつはゴムが死んどる。呪われしズボン……」なんてぶつぶつ文句を言っていたら、母がゴムを替えてくれるという。

 母は様子がおかしいひとだが、裁縫は上手。なので、任せた。すると……


「ペイペイ(※わたしの愛称)、これだめやわ。ゴムと生地がいっしょに縫われているもん」

※ペイペイ=電子決済アプリに入金するのが、わたしの役目なので。なお、母が使用しているのはペイペイではない。

日によって、プイプイだったり、ポンペイだったりする。なお、ポンペイはイタリアの古代都市である。


 なんじゃ、このズボンは~! めっちゃ腹立つな~! せめて、ゴム替えくらいさせんか~!

 糸をほどけばどうにかなるが、ゴムを替えて、縫い直すのがめんどうくさい。

 ゴム替えをあきらめた母は、ゴムを切って、ねじれを解消して、閉じてくれた。ウエストがゆるいから、外では着られない。でもまあ、部屋着ならぎりぎりOK。


 だがしかし、はた迷惑なねじれゴムは、そこからさらなるトランスフォームを魅せてくれた。だれも、頼んじゃいないのに。

 ゴムが……ものすごーく硬くなったのだ。なんで? これはあれよ。大型犬に与えるジャーキーの硬さ。鹿肉とかを乾燥させたやつ。とうてい、ズボンのゴムに許される硬さではない。ゴムの化石だ。

 わたしの腹をどうするつもりだ? 内臓が入っているだいじな部位なんだが?


 生地は最高で、ゴムは最悪。わたしは貧乏性なので、今年の冬はこの呪われしズボンを着て過ごす。

 部屋着とはいえ、このズボンはどうかしていると思う。


 ふわふわもこもこのかわいい部屋着を着ているひとだっているのに、わたしときたら……ゴムが化石化したズボンを捨てられないなんて。

 まあ、四十路の独身女なんてな。こんなものだよ。(※個人差があります)

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