第18話

「明日の昼は何が食べたい?」

土曜日の夕食の時である。

大家がロールキャベツを食べながら訊いた。

「あ、明日僕はいいです」

長谷部がおずおずと口を開いた。

「おや、真ちゃん。何処か出掛けるのかい?」

「はい…… 」

長谷部は照れたような表情だ。

「ひょっとしてデート?」

泉野が興味津々の顔をする。

「ええ。まあ…… 」

「おやおやまあ!それは良かったね真ちゃん」

「等々真ちゃんにも春が来たか」

岸田もそう言って笑った。

心結は母親の嬉しそうな顔を見た。

母親を始め、全員が自分の事のように喜んでいる。

心結もつい笑顔になった。

「良かったね。真ちゃん」


「お母さん、真ちゃん、晩御飯食べて来るんじゃないの?」

「多分ね。でも軽く」

大家が長谷部の分の食事を整えていると、長谷部が帰って来た。

まだ8時前である。

「お帰り。真ちゃん。お腹空いたんじゃないの?」

「……じゃあ軽く」

デートが上手く行かなかったんだ。

朝のハツラツさが消えて、またいつもの暗いムードが漂っている。

長谷部は親子丼を食べ始めた。

一気に掻き込むように食べる。

大家は何も訊かなかった。

「ご馳走さまでした」

長谷部は、それだけ言うと2階へ上がって行った。

「デート上手く行かなかったんだね。でもちゃんとご飯食べたし。大丈夫」

大家はそう言うと丼を洗い始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る