第16話

「えー!家庭教師。ドキドキだね」

奈緒が心結の顔を見ながら言った。

翌日の学校の帰り道である。

「ただ勉強するだけなのに、何でドキドキなのよ」

「それは、心結が俳優の卵に恋をしているからよ」

「そんなんじゃないって」

「稽古見に行った後から何か違うもん」

「確かに……ね。稽古している姿はカッコ良かった」

心結はゆっくりと思い出すように言葉を吐き出した。

「心結、それはきっと恋の始まりよ」

「ないない。だってそんなんじゃないもん」

心結は笑って否定した。


日曜日がやって来た。

この部屋に男の人がやって来たのは初めてだ。

心結は綺麗に掃除機をかけてチリ一つない状態にしていた。

白いテーブルの上にプリントが置かれ、まずやったのが実力テストだ。

そして採点される。

38点だ。

「うーん。中学校から英語苦手だったの?」

暖希は渋い顔をしている。

「中3の時から付いて行けなくなって」

「じゃあ、そこまで戻ろう」

そう言うと、暖希は中学校3年生の問題集を出した。

「でも私、高校だし」

「今の段階では分かっていない所が分かっていない。だから戻ろう」

「でも…… 」

心結は歯切れが悪い。

「そんな事言ってるのは時間の無駄だ。では4ページから」

暖希は有無を言わせずに説明を始めた。

心結は渋々勉強を始めた。

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