神様見てください2
ゴブリンたちは何をするわけでもなくぼんやりとしていて時折周りをキョロキョロと確認するように見回している。
見た目もホログラムのものと変わりがなく、良いのか悪いのか醜悪な見た目なままである。
しかも二体のうちの一体に至っては武器すら持っていない。
「行けるような感じ、してきたか?」
「はい!」
「まあ危なそうなら俺も助けに入るから。やるだけやってみよう」
「はい……って私だけが戦うんですか?」
「撮影しながらだと大変だからね」
男が戦ってもそんなに見ている人は面白くない。
もっと数がいたり強い敵ならもちろんマサキも戦うつもりであるが、これぐらいならレイだけでも十分なので撮影に徹する。
後々撮影の方もレベルアップしてマサキも戦えるようにするつもりだけど、今の段階ではレイに注目しておくのが動画としても良いはずだ。
「それじゃあ行こうか」
「わ、分かりました」
ようやく落ち着いたのにいざ戦うとなるとまた緊張してきた。
でも勢いで行かなきゃ延々と躊躇してしまうとレイも覚悟を決める。
「ゴー!」
マサキと一緒にレイは走り出す。
スタートはほぼ同時だったのにレイの方が速くてゴブリンまでの間に自然とレイの方が前に出る形になる。
「やっ!」
レイが近づいてきてゴブリンはやっと気がついた。
しかしその時にはすでにレイは剣を振り始めている。
マサキが買ってあげた剣は一撃でゴブリンの首を切り裂いた。
驚いたようにもう一体のゴブリンも声を上げるがもう遅い。
「やあああっ!」
ゴブリンを切り裂いたレイはさらに一歩大きく足を踏み出して剣を振り下ろす。
「や、やりましたぁ!」
興奮した様子のレイは飛び跳ねて喜ぶ。
流石に実戦での初めての勝利となると嬉しいようだ。
「どうでしたか?」
目には明らかに“100点です!”と書いてある。
「100……といきたいところだけど80点かな」
「な、なんでですか!?」
もちろん100点だけどここは少し心を鬼にする。
「戦いは良かったよ。だけど見てみろ」
マサキはスマホをゴブリンの死体に向けた。
縦と横それぞれに両断されたゴブリンは見事に倒されている。
「うぅ……何が問題なんですか?」
切っている時には何も思わないがこうして倒した後のゴブリンの死体を見ると気分が良いものではない。
レイは眉をひそめながら疑問に肩をすくめる。
「こっちが先に倒した方で、こっちが後に倒した方」
「ん〜……分からないです」
「じゃあ答えを言おうか。こっちは武器を持っていない」
マサキは先に倒したゴブリンの方にスマホを向けた。
「……あっ」
レイが先に倒したのは武器を持っていないゴブリンだった。
その後に武器をもったゴブリンを倒したのである。
ゴブリンはマサキたちに気がついていなかった。
つまりはどちらのゴブリンでも自由に倒せたということである。
違いがないのならどちらを倒してもいいだろう。
けれど今回はゴブリンに違いがあった。
武器の有無である。
ならば先に倒すべきは武器を持ったゴブリンである。
「なるほど……」
レイも納得する。
今回はゴブリンだからよかったもののこうした一瞬の、ほんの少しの判断が命を分けるような場面もあるのだ。
「でもよくやったよ。あえて厳しく言ったけど細かいことはもっと強くなってから考えてもいいからね」
「難しいですね……」
「こういうのは慣れだからな。レイレイならすぐに慣れるさ」
「まっ……」
「ま?」
「ま〜……マサさんは慣れてるんですか?」
マサキは思わず目を丸くした。
「なんだよ、そのマサさんって?」
「だ、だって! 私がレイレイならま、マサ、さんも名前で呼んじゃダメかなって……」
「あー、たしかにそうだな。はははっ!」
「わ、笑わないでください! むしろ私の配慮に感謝してくださいよ!」
レイは正体を隠すのにマサキだけそのままマサキ呼びではバレてしまう。
レイレイも大概そのまんまであるが一応多少隠そうとしているのでマサキも少しは隠す努力をした方がいい。
だからといってマサさんとはなかなか面白いなとマサキは笑い出してしまう。
回帰前のレイとだったらこんな会話するところ想像もできなかった。
「んじゃまあとりあえず俺はマサさんで」
「んん、いいんですか、それで?」
「レイレイの命名なんだ、いいさ」
「レイレイのメイメイってなんだかパンダみたいですね」
「お面もパンダにすればよかったかな?」
「いいですよ、これで……」
多少会話もしたり戦いの心得をレイに教えたりしながらゴブリンを倒していく。
途中でスケッチブックを背中のリュックに戻してマサキも戦ったりする。
潜在能力が低くても戦っていけば多少は伸びる。
流石に撮影だけしていればいいわけでもない。
防具がなかったので少し心配であったがレイも問題なく戦ったくれた。
何回かゴブリンを倒して少しずつレイの動きも良くなってきた。
ただレイはマサキと違ってスタートの位置が高い。
ゴブリン如き何体倒しても実際には強くはならない。
体が覚醒者としての能力に慣れてきているのである。
「初日から無理をしちゃダメだよな。今日はこれぐらいにしようか」
「えっ、また読むんですか……ええと、今日はご視聴ありがとうございました。よかったらチャンネル登録お願いします。れ、レイレイでした〜」
「撮影終了っと」
恥ずかしげにレイはスマホのカメラに向かって手を振り、マサキは録画を終了した。
ずっとカメラを回していたけれどスマホのバッテリーにも余裕がある。
電池の持ちもバッチリだし高くて重たいだけはあるなと感心する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます