神様見てください1

「えっ、と……え、これを読むんですか?」


「そう」


「えー、はじめまして。れ……ちょ、なんですかこれ!」


「いいからいいから」


「よくないですよ! な、なんですかレイレイって!」


「なんていうの、芸名……みたいな?」


「恥ずかしいですよ!」


 豊かな自然広がる森の中でマサキは片手に撮影しやすいように持ち手をつけたスマホ、片手にスケッチブックを持っていた。

 スマホは録画状態でレイに向けてられている。


 そしてそのスマホを向けられているレイなのだが顔を晒しているのではなく仮面を着けていた。

 先日剣を買いに行った時に探していたもの、それは仮面だった。


 何かしら顔を隠すものが欲しかったのだけどマスク的なものだとなんだか絵面が怪しいので可愛いお面的なものでもないかと思っていた。

 けれどパーティー用のものではペラペラでなんだか不安だったのでネットで注文することにした。


 マサキの個人的な趣味で口元が出ている狐の面みたいなものを購入した。

 美人なレイが着けると非常に良い感じだとマサキは思う。


 なんかちょっとエロティックさもある。


「顔隠してるから……まあ?」

 

 なぜ顔を隠すのか。

 それは撮影をするため。

 

 マサキとレイは今ゲートダンジョンの中にいた。


「というか、どうやって撮影してるんですか? ゲートダンジョンの中って普通のものじゃ撮影できないはずじゃ……」


 今現在ではゲートダンジョンの中は通常の撮影機材では撮影できない。

 そのためにゲートダンジョンの中を撮影してそれを表に出した時きっと注目を集めることになる。


 顔を晒してしまうと特定されて良からぬ人に目をつけられる可能性もある。

 必要な時になるまでは顔を隠した方がいい。


 この動画を見る側としても顔が隠れている方がミステリアスで興味を引くだろうとマサキは考えた。


「いいからいいから」


「もう! そればっかり!」


「とりあえずこれ読んで」


「うぅ……はじめまして。レイレイ……です。今日はゲートダンジョンを攻略してみようと思います」


 スケッチブックに書かれた通りにレイは読み上げる。

 多少不貞腐れた感はあるけれどこれはこれでも良いだろう。


「えっと……よければチャンネル登録お願いします。これでいいですか?」


「うん、オッケーオッケー」


「ずっと私のこと撮るんですか?」


「そのつもり」


「恥ずかしいですよ……」


「そのうち慣れてくるって」


 神様にレイの姿、活躍を届けなきゃいけない。

 そのためにはこれからも撮影するし、撮されることには慣れてもらなきゃいけない。


「それじゃあ早速行こうか」


「は、初めてなんですけど大丈夫でしょうか?」


「そんなに緊張しないで大丈夫。今回挑戦するのは1番ランクの低いゲートだから」


 今日訪れたゲートダンジョンはF3と呼ばれるクラスのゲートダンジョンであった。

 ゲートダンジョンも覚醒者の能力と同じくアルファベットで分けられている。


 1番低いランクがFであり高いのがSとなる。

 昔はそれでよかったのであるが、今は測定技術も向上してゲートダンジョンのランク分けもより詳細に行なわれるようになった。


 今ではそれぞれのランクが1から3でさらに分けられている。

 3が難易度が低くて、1が難易度が高くなる。


 つまりF3クラスゲートダンジョンは最も危険度の低い簡単なゲートダンジョンであるということになる。

 マサキはともかくレイはすでに覚醒者能力のランクも高い。


 なのでゲートダンジョンのど真ん中で無防備に寝たりでもしない限りはレイが死ぬことはない。


「そ、それでここでは何が出てくるんですか?」


「ここで出てくるのは検査でも戦ったゴブリンだよ」


「ゴブリン……ですか?」


 レイは仮面の下で思わず眉をひそめた。

 ゴブリンはホログラムの敵であってもなかなか醜悪な見た目をしていた。


 実際に目の前に現れてみるとちょっと嫌だなと思った。


「ゴブリンは力も弱くて耐久力もない。多少の知恵があって連携をとることはあるけど、基本的にそんなに大きな群れでも動かないから油断しなければ全く問題のないモンスターだ。ただゲートダンジョンのクラスが上がると待ち伏せしたり強い個体のゴブリンも現れたりするからゴブリンという名前だけで油断しちゃダメだよ」


 マサキは動画に声が乗ることを意識してやや硬めの口調で説明する。


「へぇ〜物知りさんですね。……どうしたんですか?」


 マサキは先の方にゴブリンの姿を見つけて、スケッチブックにセリフを書き込む。


「えーと、ゴブリンを見つけたので早速倒してみましょう。レイレイの初実戦応援してください」


 ゴブリンにズームして撮影しながらスケッチブックをレイに見せる。

 明らかな棒読み感があるが逆に素人な感じが受けるかもしれない。


「どどど、どうしたらいいんですか?」


 レイもゴブリンを見つけて困惑する。

 けれどまだゴブリンはマサキたちに気がついていない。


「落ち着け。検査でも戦っただろ? それ比べてみろ、たったの2体だ。いけそうな感じはしないか?」


「た、確かに……」


 覚醒者能力検査では50体ものゴブリンと戦った。

 それに比べればたったの2体なんてどうということもない。


 そう思ったらレイもなんだか落ち着いてきた。

 マサキに言われてゴブリンの様子をよく観察してみる。

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