覚醒者能力検査3

 覚醒者協会のホールには常に多くの人がいる。

 それらの人は何をするでもなくホールにいるのであるがちゃんと目的がある。


 それはスカウトであった。

 ここにいる人たちの多くがどこかのギルドに属していて、自分のギルドに覚醒者をスカウトしようとしている人たちなのである。


 覚醒者能力検査を受けて優秀な結果が出た人を我先にと勧誘するためにホールにたむろっていたのだ。

 レイは現在の覚醒者能力も潜在能力も優秀。


 そのためにみんなレイを引き入れたくて集まってきた。

 覚醒者の情報は表向き個人情報として公開はされない。


 しかし覚醒者登録情報として新規登録者のクラスだけは登録される。

 いわゆるギルド側への忖度みたいなものでいっぺんに検査を受けた人が多くない限りは出てきた人が新たに登録された人なことは簡単に分かる。


 CSクラスの新規登録者が現れた。

 それが女性であるというのはスカウト側と覚醒者協会側の繋がりによってどこからか漏れたのだろう。


「え、えっと……」


 困り果てた様子のレイがマサキを見る。

 どうしたらいいのか分からず視線で助けを求めている。


「適当に名刺受け取って流せばいい」


 ここにいる人の話は聞く必要がない。

 マサキはともかく、レイはこんなところに惑わされてはいけない。


 なぜならこんなところで待っているのは中小ギルドであるからだ。

 積極的に声をかけなきゃいけないような力の弱い覚醒者ギルドしかこんなところにいないのである。


「失礼……いいかな」


 同じく人の中にいるのにマサキには1枚の名刺も差し出されない。

 対してレイはアワアワと差し出される名刺を受け取っていた。


 すると急にマサキたちを囲んでいたスカウトたちが割れた。

 その間を歩いてスーツの男性がやってくる。


「浅山大聖だ……」


「大型ギルドへの加入が決まってたのか?」


「なら最初からいるだろ。きっと話を聞きつけてスカウトに来たんだ」


「スターワンギルドに出てこられたら勝ち目なんかないな……」


 鮮やかな金髪のイケメン男性。

 手足がすらっとして長くてモデルのようであるがその人も覚醒者である。


「はじめまして。僕はスターワンギルドのギルドマスターの浅山大聖(アサヤマタイセイ)。君が潜在能力Sランクの覚醒者かな?」


 さわやかな笑みを浮かべて浅山がレイの前に立つ。

 マサキも浅山のことは知っている。


 日本にある六大ギルドのうちの一つであるスターワンギルドのギルドマスターであり、SSクラスの強力な覚醒者である。

 能力もさることながらその端正な容姿からアイドル的な人気も博している。


 ただ優秀な覚醒者であっても結局は戦乱の中に消えていってしまったことはマサキの記憶に残っている。


「もう所属するギルドは決まっているのかな?」


「い、いえ」


「では我々のスターワンギルドはどうかな?」


 やや馴れ馴れしい口調で浅山がレイをスカウトする。

 他の女性なら顔を赤くしそうな柔らかな笑顔を浮かべてまるでナンパのようだ。


「スターワンギルドなら初心者の育成も手厚く、装備などの支援もしよう。潜在能力がSランクであるなら将来的には覚醒者能力もSランクになることが期待できる。うちに来れば最速でSランクまで君を育成することができる。君が望むならギルド内での重要ポジションも約束しよう」


 周りがざわつく。

 口約束ではあるけれどまだ能力も分からない相手に重要ポジションを与えると発言した。


 小さいギルドなら重要ポジションまで約束することもあり得るだろう。

 しかしスターワンギルドほどの大型ギルドで重要ポジションを約束することはまずない。


「最近佐竹純一郎(サタケジュンイチロウ)を他に持っていかれたからな……」


 ポツリとつぶやいた誰かの言葉がマサキにも聞こえた。

 佐竹純一郎とはレイと同じく潜在能力Sランクだった覚醒者で少し前に話題になっていた。


 色々なスカウト合戦が起きたけれど最後にはスターワンギルドではない6大ギルドに入ったのだ。

 そのために大型ギルドの中で1番乗りでレイをスカウトできたアサヤマは破格の条件を最初から提示してきたのだろうと周りも考えていた。


「なんなら今すぐにでも……」


「ええと、ごめんなさい」


 国内有数の大型ギルド、破格の条件、さらには女性人気の高いアサヤマからの直接の誘い。

 周りのスカウトは全員がアサヤマの誘いを受け入れるものだと思った。


 しかしレイは悩んだような表情を浮かべて深々と頭を下げて断った。


「なっ……」


「あ、いえ! 今すぐお断りってことじゃなく考える時間が欲しくて」


 今すぐ決めろと言われても難しい。

 慌てたようにレイが返事の意味を説明すると驚いたような顔をしていたアサヤマも納得した。


「そ、それに……」


 レイはマサキをチラリと見た。

 アサヤマは失敗したと思った。


 レイを誘うのに焦ってしまい、状況把握が明らかに甘くなっていた。

 同時に登録された人がもう一人いた。


 一緒にもいることを含めて常識的に考えた時に偶然同じタイミングで覚醒者能力検査を受けに来たのではなく知り合いで一緒に受けに来たのだと考えるのが普通だ。

 関係性までは知らなくとも一緒に覚醒者能力検査を受けに来る友人が一人だけ誘われた時にホイホイと受けるのもはばかられる。


 誘うならマサキも含めて誘うべきだったとアサヤマは後悔する。

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