ストーカーを撃退せよ2

「マサキさーん!」


 ぶらぶらとしていたらレイから連絡があった。

 覚醒した日は帰りが遅かったと回帰前に聞いていた通りもう遅い時間となっていた。


 遅い時間に帰ることが不安だったレイはマサキを見て嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「お疲れ様」


「わざわざありがとうございます」


 少し離れたところにレイの友達らしき人も見える。

 マサキとレイを見てざわざわと話していてマサキが手を振ってみると照れくさそうに振り返してくれた。


 いつも一人で帰っているから心配していたけれどちゃんと良い友達もいるようだ。


「いいさ、行こう」


「あの……」


「どうかしたか? 忘れ物?」


「いえ、ちょっと寄りたいところがあって。いいですか?」


「もちろん」


 マサキとレイは歩き出す。


「あっ……」


 いつものように公園を横切ろうとしてレイが顔を赤くしてうつむく。

 広い公園の一部には鬱蒼と木が生えている。


 小さい林ぐらいの規模があって、昼間は散歩なんかをするのにちょうどいいのだけど週末の夜になると雰囲気は一転する。

 外から見えにくくなっているところが多くて夜になると隠れて何かをするのにちょうど良くなる。


 こうしたことに目をつけたのがレイも通っている女子大の大学生だとか若い人たちだった。

 ホテルなどのお金もバカにならない。


 外という開放感もあるのかもしれない。

 夜の公園の一角は恋人たちの聖地となるのだ。


 今時そんなのあるのかと話を聞いた時にはマサキも驚いた。

 何回か公園に来てみた感じでは納得もした。


 大学から近く、加えて周辺には適当な場所もない。

 恋人とかがいるならマサキみたいに大学まで来て公園でイチャつくぐらいのことはあるかもしれない。


 今日はこれから連休に入る。

 そのためだろうか平日の夜ではあるがそうした声が聞こえてきてレイは動揺してしまったのである。


「お、おい!」


 もうすぐそうしたゾーンを抜ける。

 マサキがいるから未来が変わってストーカー男は諦めたのかもしれないと思っていたら木の影からストーカー男が飛び出してきた。


 ストーカー男の手には包丁を持って目は血走っている。

 散々マサキに振り回されたせいでストーカー男の堪忍袋の緒は限界だった。


 レイに近づく怪しい男がいる。

 追いかけても毎回撒かれてしまい全く正体も分からない。


 それなのにマサキはレイとかなり親しそうで、もう我慢できないとストーカー男は色々とすっ飛ばして最後の手段に出た。


「その子から離れろ!」


 息の荒いストーカー男はマサキにレイから離れるように言う。


「下がって」


 マサキはレイを守るように前に出る。

 ストーカー男の言うことなんて聞いて離れてやるつもりなどない。


 マサキが守ってくれようとすることにレイはキュンとした表情を浮かべていて、それがまたストーカー男の神経を逆撫でする。


「離れろっつってんだろ!」


 声を荒らげられてレイがマサキの後ろに隠れるように移動する。


「くそ……くそくそくそっ!」


 包丁を持って脅しかけているのにレイを守ろうとするマサキに対してより苛立ちがつのる。


「俺は……俺はずっとみてたんだ! レイのことを! その子は俺のもんだ! ポッと出のお前なんか……俺が恋人なんだ……俺だけの女……俺が守ってあげなきゃいけないんだ……」


 ストーカー男は頭をかきむしりながらブルブルと揺れる瞳をレイの方に向ける。

 筋金入りのストーカー男は現実と妄想の区別がつかなくなっている。


「レイを守るためにお前を殺す!」


 このままどうするのかとストーカー男の行動を待っていたらとうとう一線を踏み越えた。

 殺すと叫びながらストーカー男がマサキに襲いかかった。


「死ね!」


 最良ではないが想定していた中でもマサキにとってありがたい行動であった。

 ドタドタ走ってマサキと距離を詰めたストーカー男は包丁を突き出した。


「マサキさん!」


 素人の攻撃などかわすことは容易いがあえてマサキは腕に包丁をかすらせた。

 腕が浅く切られて赤い血が飛ぶ。


 それをみてレイが悲鳴を上げる。

 流石に痛くはあるけれどこれで反撃する明らかな名分が出来た。


「許さない……!」


「レイ!?」


 このまま制圧して警察にでも引き渡そうかと思ったらマサキの後ろからレイが飛び出してきた。


「へっ?」


 何をするのかと思ったらレイはストーカー男の顔面を思い切り殴りつけた。


「覚醒……」


 レイの体は淡く光っている。

 これは覚醒者に覚醒する時に起こる現象だ。


 殴りつけるよりも覚醒するのがほんのわずかに早かった。

 鼻血を噴き出しながらストーカー男が飛んでいく。


「もううんざりなのよ!」


 拳を震わせてレイが叫ぶ。


「訳分かんない男にストーカーされて、怖くて! 警察に相談してもダメで他の子巻き込んだらいけないってこうやって一人で帰って……」


 レイの目から涙がこぼれる。

 平気そうに振る舞っていても怖かった、不安だった、誰かに助けて欲しかった。


 もちろんストレスはあったしレイが一人でいたのにはこうしたわけがあったのだ。


「マサキさんまで傷つけて……もう許せません!」


「ひ、ひいぃ!」


 レイがストーカー男を睨みつける。

 レイの魔力に当てられてストーカー男が漏らして股間が濡れる。


 目の前にいるのは本当にこれまでストーカーしてきたレイなのかとストーカー男は疑問に思う。

 友達が少なくて儚げなところがあって守ってあげなきゃいけない存在だと思っていたのに鼻が折れるほどに殴られてストーカー男の中でのレイのイメージが崩れていく。


「あんたみたいなのに守られるほど私は弱くない!」


「レイ!」


 再び拳を振り上げたレイをマサキは止めた。


「やめておけ。あんなの殴ったってお前の手が汚れるだけだ」


 マサキはハンカチを取り出してストーカー男の鼻血がついたレイの拳を拭いてやる。


「おい」


 レイに優しく微笑みかけてやるとマサキはストーカー男に近づく。


「な、なんだ……」


「分かっただろ? レイはお前に守られるような子じゃない。それにお前如きが手を出していい相手でもない」


 マサキは腰を落として地面にへたり込むストーカー男と目を合わせる。


「あああああっ!」


 そしておもむろに手を伸ばしてストーカー男の指を掴むとそのまま逆に折り曲げた。

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