第19話 ペットを飼う

  伝説統治神獣イニスティアのバーストガウは石化したいた。

 俺は背中に刺さったバーストガウの牙を抜いて、その大きな口から這い出た。


「うぐ……!」


 足が地面についた瞬間に背中に激痛が走る。

 どうやらかなり深い傷のようだ。

 とても立っていらない。


「きゃああ! ト、トル様! 背中から血が!!」

「う、うん。ちょっとね……」

「ゴコ! 村長!! 早く来てください!!」


 出血多量もあるのかな?

 あ、ダメだ……。クラクラする。


 テントの中。

 ゴコは俺の背中に向かって手をかざす。


「天土の大樹に宿る精霊の神託。天雲より降り注ぐ女神の加護を与えたまえ。 回復ヒール


 ゴコをはじめ、他のカイリットたちも回復魔法を発動させた。


 はぁ〜〜。

 傷の痛みが引いていく……。


 村長は感心していた。


「ううむ。身をていしてバーストガウを石にするとは……。トル殿は勇者だ」

「ははは……。まぁ、カイリットの回復魔法を当てにしてないとできない戦法でしたよ」

「十歳にも満たない幼い子供が、暴走した 伝説統治神獣イニスティアを倒すなんてな。末代に語り継がれる伝説になるだろう」

「……まぁ、みんなの協力のおかげです。僕一人じゃ石にできませんでしたから」


 背中の傷はカイリットのおかげで完治した。


「トル様。良かったです……」

「あは! トルが治った」


 やはり六人が一斉に 回復ヒールをかけてくれると治りが早い。

 この作戦は彼らの回復魔法を当てにしてなかったらとてもできなかったよ。


 さて、石化したン・デラシルーロことバーストガウなんだがな。

 石になっているだけで殺しているわけではないんだ。


「トル様。やはりとどめを刺すのでしょうか? このまま石にしたままではいけませんか?」


 と、ミカエが不安気な表情を見せる。

 彼女が心配しているのは、とどめを刺す時に石化を解除することなんだ。

 ミカエとゴコが一斉に攻撃して、果たして瞬殺できるだろうか?

 石化を解除した途端に逃げられるということも考えられる。

 そんな時、脳内に男の声が語りかけてきた。


『子供よ。そなたは何者だ?』


 どうやら、石化したバーストガウの声らしい。

 低音のおっさんボイス。

 この声は俺にだけ聞こえるようだ。

 おそらく、石化したことで心の中で会話ができるようになったのだろう。


『僕の名前はトルティア・ロックゼラン。王都ギャンバリィを統治する王族の五男坊さ』

『……最強の魔法使いではなかったのか?』

『ああ、あれは嘘。おまえを騙すためのね』

『………………なるほど、さては、われを誘き寄せるために演技をしたな』

『そういうこと。直触りできないと石化は使えないからね』


 石化したバーストガウからバシュン、バシュンと電気が走る。

 ミカエは驚いて俺の後ろに避難した。


『なにやってんの? 無駄だよ石化してるのに』

『【 効果拒絶魔法リジェクト】が効かぬ。これは単なる石化魔法ではないな』

『【 石化呪いカーストーン】。僕にかかった呪いさ』

『【 石化呪いカーストーン】だと? 石の魔女カスティアの力だな。われの魔法が弾かれるわけだ』


 石の魔女カスティアの力だと……?

 

『この呪いのことを知っているのか?』

『知りたいか?』

『………』


 この聞き方は、情報提供に石化解除を要求してきそうな流れだな。


『残念だが、おまえの石化は解除しない』

『ぬぐ……』

『【 接触石化タッチストーン】は永遠に石化が可能だからな。おまえには石のままでいてもらう』


 呪いの情報は欲しいが、バーストガウの戦闘力は高すぎるんだ。

 少しでも解除したら全員が食い殺されてしまうよ。


 俺が立ち去ろうとすると、バーストガウは呼び止めた。


『わ、わかった! 契約する! それならばすべて解決だぞ』


 はい?


『なんのことだよ?』

われを眷属として契約すれば、われが暴走することはない』


 なるほど。

 使い魔になれば情報はただで聞き放題か。

 王城の書庫で読んだことがある。

 魂の契約は 主人マスターが従者の額に手を当てて行うと。

 契約が完了すれば従者は 主人マスターに攻撃ができないらしい。


『でもさ。やり方を知らないんだよね』

『簡単だ。われの額に手をかざせばいい。後はわれが其方を誘う』

『……どうして、素直になったんだ?』

『【 石化呪いカーストーン】の力は知っている。このまま永遠に石になるより、われを石にした勇者を 主人マスターにした方がいいのだよ』

『ふーーん……』


 まぁ、騙そうとしているわけでもなさそうだな。

 こいつが使い魔になればなにかと役に立ちそうだしな。


『いいだろう。契約するよ』


 俺がバーストガウの額に手を当てると、その額には契約紋が浮かび上がった。

 全身が温かい光りに包まれる。なんだか、バーストガウと魂で繋がった感覚になった。


 おおおお……。

 これはいいぞ。

 なんと表現をしていいかわからないけど、バーストガウを支配している感覚……。


 これならいうことを聞いてくれそうだ。


 俺はバーストガウの石化を解いた。


「ありがとう。 主人マスター

「うん。僕はトルティア・ロックゼラン。トルって呼んでくれ」

「いや。われ 主人マスターと呼ぶことにしよう。トルティア・ロックゼランはわれを石化させた勇者なのだからな」

「そうか……。じゃあ、僕はガウって呼ばしてもらうよ。バーストガウは長いからさ」

「うむ。それで頼む」

「よろしくね。ガウ」

「うむ。よろしく頼む」


 俺たちが笑っていると、周囲ではミカエたちが驚いていた。


「あわわわわ……。ト、トル様……。どうして石化を?」

「ト、トル……。これ、どういうこと?」

「トル殿。どうして石化解除した!?」


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